14 覚悟を決める
その名前はミランダ=リリベル。シクロのご近所の薬品店を経営している女性であり、シクロもよく知っている人物だ。
母が仕事で忙しい時は、ミランダに面倒を見てもらったこともある。シクロや妹のアリスにとっては、姉のような存在でもあった。
そんなミランダが、悪辣な計画の標的にされようとしている。
(……警吏に知らせないと。せめて、犯人たちの顔を確認してから――)
そう考え、シクロは角からこっそりと顔を出し、悪魔の計画を立てている者たちの姿を確認しようとする。
そして――その姿を見て、絶望した。
(そんなッ!? あの制服――警吏の制服ッ!?)
なんと、そこに居た男たちの中に一人――本来であれば街の安全を守るはずの存在、警吏の制服を着ている男が立っていたのだ。
シクロは驚きつつも、急いで顔を引き、隠れる。
そして考える。
警吏が強姦魔の中の一人だということは――これから警吏に通報したとしても、その情報は握りつぶされるかもしれない。
そもそも、犯人の中に警吏がいます、なんて言って信用してもらえるだろうか。
色々な考えがめぐるシクロ。ただでさえ、この日仕事をクビになっており、頭がいっぱいだというのに。
突然出くわしてしまった強姦計画の現場に加え、犯人一味の一人は警吏という状況。
どうするべきなのか考えようにも、パニックに陥って冷静な考えがまとまらない。
このまま男たちの前に飛び出して、殴り飛ばしてやろうか、などとも考えてしまう。
(――ミランダ姉さんを守るには……一つしかない、かな)
そして、覚悟を決めてしまう。
警吏に通報はするつもりだ。しかし、それだけでは不十分。
だから――シクロはやるのだ。
(ボクが、直接こいつらの計画を止める! ミランダ姉さんの家の近くに隠れて、コイツらが出てきたところで騒いで人を集める! それしかない!!)
こうして……シクロは恐るべき強姦計画を止めるため、動き出すのであった。
まず、シクロは警吏の駐在所に向かい、通報する。
「あのっ! すいませんっ!」
「ん? どうしたのかな?」
「実はですね――」
路地裏でシクロが見たことの、ありのままを警吏に通報する。
もちろん、犯人一味の中に警吏がいたことも通報した。
だが……信用は得られなかった。
そもそも見間違いであることを疑われてしまったのだ。
それでも警戒はしておく、とその場では言ってもらえたのだが……通報の内容をまとめる段階になり、シクロの職業が元時計技師、現在無職であると判明し、さらに信用を失ってしまう。
これこそ、シクロが最も恐れていた展開であった。スキルという強力な力を持つ者がありふれているこの世界。仕事についていない無職など、到底ありえないからだ。
どれだけ無能でも、スキルの力さえあれば仕事は出来る。だというのに職人ギルドをクビになるような人物は、どれだけ問題のある人物なのか。
警吏から見て、むしろシクロの存在そのものが怪しく見えたに違いない。
それがシクロ自身にも理解できていたため、通報を信用してもらえないかも、とは理解していた。
だから――シクロは最後の手段に出る。
自分の手で、直接ミランダを守るために。