04 パレード後の遭遇
「いやー、すんごい人気やったなあ、ウチら」
パレードを終え、屋敷へと戻るシクロ達。
カリムがパレードの様子を思い返しながら言うと、アリスが答える。
「でも、ずーっと笑顔でいなきゃいけなかったから顔がもうビキビキだよ……」
疲れ果てた様子のアリスを見て、シクロが笑みを浮かべる。
「お疲れ様、アリス」
言って、ぽん、とアリスの肩に手を置く。
「うーん、お兄ちゃん、慰めてぇ」
「はいはい、まずは屋敷に帰ろうな」
シクロに甘えるようにアリスが抱きつくが、シクロは軽くあしらう。
「むむむ」
そんな二人の様子を見て、ヤキモチを焼くミスト。
シクロの背中に回ると、ぎゅっと無言のまま抱きつく。
「ミスト?」
「私も疲れたので、優しくしてください!」
「あ、ああ。それはいいけど」
ミストの態度に困惑しつつも受け入れるシクロ。
そうこうする内に、四人はシクロの屋敷へと近づいていた。
そしてふと、正門の方を見ると――そこには、一人の男が立っていた。
「あいつ……!」
そう。パレードでシクロに視線を向けてきた、怪しい黒髪黒目の男性である。
「アレが、シクロはんの言うとった怪しい男か?」
「ああ。今は力を隠しているみたいだ」
四人は警戒しつつ、正門前で待ち構える男性の方へと向かう。
そして、その途中で気づく。男性の後ろに――同じく黒髪黒目の、幼い少女が怯えるように姿を隠していることに。
敵だとすれば妙だと思いながらも、警戒は解かずに近づく。
「――やあ。初めまして、英雄諸君」
「何者だ、お前は」
シクロが問うと、黒髪の男は頷いてから答える。
「警戒も当然だろう。だが、まずは聞かせて欲しい。シクロ。君は――創造神から話を聞いているね?」
創造神の名が出たこと、そしてシクロ達の事情を知っていそうな発言に一同が驚き、警戒を強める。
「なるほど、その反応で十分だよ。そうだね――先に警戒を解いてもらう為に言うと、私は創造神に味方する存在だよ。打倒魔神の為、諸君の力を貸してもらいたい。その為の事情説明と、ちょっとした依頼の為にここまで来たんだ」
「……それが本当だと証明する方法は?」
シクロが問うと、男は首を横に振る。
「信じてもらう他には無いね。ただ、言わせてもらうと――君達と敵対するなら、こんな回りくどい方法を取る必要は無い。正面から戦えば済む話だからね」
「それは、ボクらよりもお前の方が強い、という意味か?」
「さあ? それは戦ってみないとわからないが――単純な実力差以外にも、戦う方法は色々あるさ。その手段を取らず、私自身がここに居ることが何よりもの証明になると思うよ」
シクロは、男の言葉を訝しむ。
「どういう立場の人間なんだよ、お前は?」
「ああ、失礼。姿を『変えた』ままだったね」
言うと――男は途端に魔力を放出する。
その出力は圧倒的であり――場合によっては、シクロに匹敵するとも思える程の力であった。
そして魔力の放出と同時に、男とその背後に隠れる少女の姿を偽りのものにしていた魔法が解除される。
「――獣人!?」
シクロはその姿を見て、思わず声を上げた。
何しろ、男と少女の頭部には――黒い毛並みの、獣の耳が付いていたのだから。
こうした身体に獣の特徴をもつ人種は獣人と呼ばれ、ハインブルグ王国にはほぼ存在していない人種である。
他にもドワーフ種、肌が赤や紫といった色をした人種、翼や角のある人種が存在するが、どれもハインブルグ王国にはほぼ存在していない。
彼らは総じて――魔族と呼ばれており。
ルストガルド帝国、つまり魔王の国に住まう人種なのだ。
「――見ての通り。私と、娘のレオナは『黒狼族』と呼ばれる獣人の一族の末裔だ。そして……これでも一応、ルストガルド帝国で皇帝と言われる立場をやらせてもらっているよ。君達の言う『魔王』ってやつさ」
さらに続いた、黒髪の男――魔王から明かされた思わぬ真実に、シクロ達は全員が絶句し、目を見開き驚くこととなった。