02 今後の指標
「創造神と、接触したと?」
「はい、確かに」
疑うような、信じられないといった様子で訊くデイモスに、シクロは頷く。
「現在、この世界は創造神の管理の手を離れてしまっているそうです。彼の配下――断罪神、魔神、大地母神、太陽神。この四柱の神が、創造神から管理の権限を奪い、それぞれこの世界を自分の思い通りにしようと争っている……と、おおよそそのような話を聞かされました」
デイモスとグアンは困ったような表情を浮かべる。
ミスト、アリス、カリムの三人は先にダンジョン内で詳細な話をしてあったので、改めて聞かされた情報にはさほど反応しない。
が、カリムだけは太陽神の名前にわずかに反応する。
故郷に関係のある神だからだろう、とシクロは軽く考え、話を続ける。
「創造神はそんな四柱を止めて、管理の権限を取り戻すため、策を講じたそうです。その一つがボク――時計使いというスキルだったそうで。結果的に、断罪神を倒す形となったので、創造神の企みは成功しました」
「なるほど。君の特別な力には、そういった理由があったのか……」
納得したような言葉を漏らすデイモス。
「そして、創造神は次に魔神を倒すことを望みました。……いや、正確には、ボクの自由にしていいと。けど、結果的には魔神と戦うことになるだろう、といったニュアンスでしたね」
「魔神か。どのように戦うことになるかは聞いているのかな?」
シクロは頷き、答える。
「創造神は『三匹の黒き獣』と言っていました。そして――その一つが、魔王であるとも」
「ほう。つまり君は、魔王を倒すことになる、と?」
「……分かりません」
シクロは首を横に振る。
「どのような形で魔神と対立するのか。魔王が、三匹の黒き獣がどう関わってくるのか。そういった詳細は教えてくれませんでした。いずれ分かる、と言って」
「……そうか。それはまた、面倒な……」
悪態を吐きかけたデイモスは、口を噤んで首を振る。
「いや、方針が少しでも明らかになっただけマシだ。まずはそれらの情報を踏まえた上で、今後の話をしていこうか」
デイモスの提案にシクロも頷く。
「はい。創造神から得た情報は有益ですし――ボク達の目的に沿う範囲でなら、創造神の思惑に乗ってもいいと思います」
シクロが曖昧な言い方をしつつグアンの方を見ると、デイモスが気付いた様子で言う。
「ああ、安心してくれ。グアンも私の長年の目標についてはよく理解してくれている。仲間と言って差し支えないよ」
「やっぱり、そうでしたか。安心しました」
シクロは言うと、話を続ける。
「ひとまず、ディープホールの攻略はできました。デイモスさんの言っていた――ボクが叙爵する、という目標には一歩近づいたかと思います」
「そうだね。こちらとしてもその前提で動いていたよ。先んじて、君達の住む屋敷の用意も済んである」
「屋敷、ですか?」
シクロが問うと、デイモスが頷きつつ答える。
「ノースフォリアにも、当家以外に貴族が居たことはあるんだよ。まあ、過酷な環境と王都から遠いという理由から、みんな居なくなってしまったけどね。――そうした理由から残っている立派な屋敷がいくつかあって、そのうち一つを改修して使えるようにしたんだよ。君が貴族として住まう為にね」
なるほど、と納得するシクロ。
叙爵する以上、貴族としての体裁を整えるのも必要なことだろう、と。
「屋敷の方はもう改修が終わっているから、今日からでも住んでもらえるよ。――とは言っても、これから使用人なんかは自分で雇ってもらわないといけないけれどもね」
「なるほど。では、ボクはひとまず屋敷で貴族として振る舞う為の準備を進めた方がいいんですね?」
「ああ、そういうことになる」
デイモスは言うと、さらに続ける。
「その為にも、と言えるんだが。君が達成した今回の偉業を、ノースフォリアの人々に知らしめ、叙爵の事実を通達する為にもパレードを計画しているんだ。そっちも受け入れて貰えるといいんだが、どうかな?」
言われて、シクロは考える。
確かに、自分が叙爵すること、そしてディープホールの攻略を成し遂げた高ランク冒険者であることが知れ渡ったほうが、屋敷で雇う人員も集まりやすいだろう、と。
「……分かりました。そのパレードにも出ましょう」
「そう言ってくれると助かるよ」
こうしてシクロは屋敷を譲り受けると共に、パレードに出席することが決まった。