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27 神の要求




「はっきり言おう。シクロ君には、私以外の残る三柱。太陽神、大地母神、魔神を倒してほしいんだ」


 創造神の要求は、シンプルかつ、これまでの話から想像出来る範疇のものであった。


「……その三柱は、ボクにとって倒すべき相手なのですか?」

「そうだね。――彼らもまた、断罪神と同様に、自らの願いのままに世界を作り変え、支配することを望んでいる。理想の世界というものの為にね」


 創造神からは、悲しげな声色で事情が語られる。


「悪意だけでそんなことをしてるわけじゃないんだよ。下界で人と触れ合い、長い時を過ごし、彼らは狂ってしまった。私がこの世界と共に作り上げた幼い神々であるからこそ――人の儚さ、悲劇や絶望というものに耐えられなかったんだろう。それをどうにか変えたいと願うあまり、人の世界そのものを歪めてしまおうとしている」


 確かに、とシクロも思う。

 敵対し、倒したとは言え――断罪神もまた、少なくとも口先では人の幸福を願ってはいた。


 単なる支配欲や悪意から来る行動では無かったようにシクロにも感じられた。


「完璧な世界、完全な存在などありえないというのにね。――君たち人間や、彼ら三柱から見た私は全知全能の神のように思えるのかもしれないけど、私だって不完全な存在だよ。君たちが魔力と呼ぶ、元は神の世界に満ちる力を、ただ君たちより器用に扱えるだけだ。出来ないこと、上手く行かないこともたくさんある」

「まあ……実際に、世界の支配権を奪われていますもんね」

「おっと、これは上手いこと言われちゃったな!」


 はっはっは、と気さくに笑う創造神。


「――まあ、ともかくだ。彼ら三柱は人の営みを自分の都合で歪めようとしている。それを、私は許容するつもりは無い。下界は下界に住まう者たちの手にあるべきだ。部外者である神がやりたいように作り変えるなど、あってはならない」


 表情を戻し、真面目な様子で語る創造神。


「とは言え、私から君に対して強要をするつもりも無い。あくまでも君が協力してくれるのであれば、という話だよ」

「……協力しない、といえば?」

「何も。好きに生きるといいさ」


 その言葉に嘘は無いようにシクロには思えた。

 創造神は言葉通り、本気で人の世界は人に任せよう、と考えているように見えた。


「ただ、彼らはきっと君たち人間にとっても敵対的な存在であると言えるからね。少なくとも、今のシクロ君が戦える程度に『弱い』相手――魔神は明確に敵対していると言える」

「敵対ですか? 具体的に、どんな?」


 シクロが問うと、創造神はあっさりと答えてくれる。


「――『魔王』、って聞いたことがあるだろう? アレだよ」

「はい?」

「魔神は魔王――正確に言うと『三匹の黒き獣』を使い、自分の理想を達成しようとしている。その結果、シクロ君を含む多くの人々が傷つき、苦しみ、命を奪われている。断罪神がやっていた以上に被害の範囲が大きい計画だと言えるね」

「そう……だったんですか」


 魔王が――まさか、魔神と呼ばれる神が世界を支配するための駒であったとは。

 シクロは全く思いも寄らない事実に驚愕する。


「それを踏まえた上で、どうするのか。全てはシクロ君の想い次第だ。好きなように選択し、好きに生きるといい。君たち人間は、それが許されている」

「――あの」

「じゃあね、シクロ君。次に会う機会があるとすれば、魔神を倒し、断罪神のように私が吸収可能な状態にしてくれた時になる。また会える日を楽しみにしているよ」


 創造神がそう語ると――世界が白く、淡く滲み始める。

 そしてシクロの意識も少しずつ遠のいていく。


「ちなみに、既に布石は打ってある。――その時、詳しい話も分かるだろう。選択をするにしても、それからでも遅くは無いさ」


 そんな創造神の言葉を最後に、シクロの意識は途切れた。




「――待ってくれッ!!」


 まだ聞きたいことが、と言おうとしたシクロは、口を噤む。


 勢いよく身体を起こしたシクロは、周囲の状況を見て、ここが創造神の居た場所ではないことに気付く。

 断罪神を倒した場所――ディープホールの最深部である。


「ご主人さま?」


 突如起き上がり、声を上げたシクロを見て、ミストが怪訝そうに首をかしげる。


「……いや。何でも無い。……また後で、ボクの中で色々整理してから話すことにするよ」

「えっと……はい。分かりました」


 事情は分からずとも、シクロの言葉に一先ず頷くミスト。


「ミスト。状況は?」

「皆さん、おやすみになっています。今は、私が起きて警戒をしているところです」


 ミストの言う通り――シクロのすぐ側で、カリム、そしてアリスが眠りに就いていた。

 断罪神との激戦もあり、疲れていたのだろう。こうして休みを取るのも大事なことだとシクロにも理解出来る。


「なるほど。――ミストも疲れてるだろ? こっからはボクが代わるよ」

「はい。――でも、もう少しだけ。ご主人さまと一緒にいても、いいですか?」

「それは、もちろん。でも、ずっとはダメだからな。ちゃんと休むんだぞ?」

「はい。分かっています」


 言うと、ミストはシクロの隣に寄ってきて――肩を預けるようにしてくっついた。

 シクロもまた、そんなミストを抱き寄せるようにする。


 そのまま二人は、特に何かを語らうでもなく。

 少しの間、静かに寄り添ったまま時間を過ごした。

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