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26 邂逅




 ――意識を失ったはずのシクロは、気付くと見知らぬ場所に居た。


 美しい花や草木が生い茂る、庭園めいた場所。

 ただ――そんな光景が、見渡す限り何処までも続く、ある意味異常な場所。


 その中心とも思えるシクロの居る場所には一つのテーブルと、二つの椅子が用意されていた。


 そして――片方の椅子には、先客が座っていた。


「ようこそ。ここまで来てくれたのは、君が初めてだよ」


 そう言いながら――拍手をする仕草を見せたのは、少年だった。


 あるいは、少女なのかもしれない。そう思えるような、中性的な外見の子供が、シクロより先にこの場で、椅子に座っていた。

 まるで、シクロを待っていたかのように。


「……アンタは?」

「創造神。君たち人から見たら、そう呼ばれる存在だよ」


 その言葉にシクロは目を見開き、すぐに姿勢を正す。


「それは――すみません。礼儀を欠く言葉でした」

「はっはっは。気にしなくてもいいよー、私が君たちに敬われるほどのことをしていないのは、自分でも自覚しているからね」


 気さくに笑いながら、少年――創造神はシクロの謝罪を受け取った。


「それよりも。シクロ君。せっかくここまで来てくれたんだから、色々と話しておきたいこと。話さなきゃいけないことがある。――少し長くなるから、座ってくれるかな?」

「……はい、わかりました」


 シクロは創造神に促されるまま、空いている方の椅子に座る。


 テーブルを挟み対面する形となった二人。

 やがて、創造神の方から口を開く。


「そうだね――まずは、全ての経緯の始まり。端的に言えば、君たちの世界がおかしくなり始めた切っ掛けの話から始めようか」


 そうして――創造神による、長い歴史の話が始まった。




 神には神の世界があり、その中でも人が住むような『下界』を作り上げることの出来る神は上位の神である。

 シクロ達の世界を作り上げた、この創造神もまたそうした上位の神の一人。


 ある時、創造神は自らが住まい、過ごすことの出来る下界を作り上げることにした。

 裕福な人間が別荘や避暑地を作る感覚に近い。


 特に問題もなく、無事に世界は完成した。

 それがシクロの住まう世界である。


 しかし――作り上げる過程でこだわりが過ぎ、疲弊していた。

 そのため、創造神は下界で僅かばかり過ごした後、眠りについた。


 問題が起こったのはその後であった。


 創造神が自らを補佐させる為に生み出した、四柱の神。

 太陽神、大地母神、魔神、断罪神が、それぞれ勝手に下界を支配し始めた。


 神が下界に干渉するためには、下界にどれだけその神が影響を及ぼしているか、という部分が必要になる。

 下界で多くの人に信仰され、多くの物を作り上げた神は、その程度に応じて下界に力を行使出来る。


 創造神が眠る間に――四柱の神々は創造神の信仰を奪い、世界の成り立ちをあやふやにすることで、支配権を奪い取った。


 そうして現在、四柱はそれぞれが想うがまま、下界を支配しようと争い、世界に暗躍している。


 当然――数十年程前に目覚めた創造神は、この状態を看過はしなかった。


 四柱の暴走を止めるため、密かに動き始めた。




「――そうして色々な手を打ったんだけど、その一つが君だよ、シクロ君」

「ボク、ですか」


 壮大な、神々の権力争いの渦中に自分があると聞き、面食らうシクロ。


「私がこの世界に関与できるのは本当に僅かだけなんだ。例えば世界に何人かだけに、私の力を受け継いでもらったりね」

「……それが、ボクの時計使いというスキルですか」

「そうそう。まあ、まさか時計使いだなんて翻訳されちゃうとは思ってもみなかったけどねぇ」


 ケラケラと笑いながら語る創造神。


「そもそも、私がこの世界を作る時、ウッキウキで鼻歌を歌ってたのが伝説になっちゃってるのもおかしいんだけどさ。それが時計塔になって、なぜか断罪神の功績になっちゃってて、さらにただの時計使いと誤解されるとは思わなかったよ」

「はぁ」

「だから慌てて君に与えた力の方向性を少しだけいじらせてもらった」


 思わぬ新事実が創造神の口から語られる。


「本来は、炎でも雷でも、何でも自由自在に生み出し操ることの出来る創造能力を君に与えたつもりだった。けれど時計使いなんて勘違いをされたもんだから、その力が正しく発揮されなくなる可能性があった。だから力の方向性を、機械的な構造物及び時計という概念と関連する事象にある程度特化させたんだ」

「それで……ボクは、最初は本当に時計しか操ることが出来なかったんですね?」

「そのとおり。まあ、結果としては能力が特化することで想定より速く下界に降りた神を倒す程の力をつけてくれたからね。良かったと思ってるよ」


 つまり創造神の想定では、シクロは本来もっと万能の創造能力を与えられるはずであった。

 しかしその代わり、力は今よりも満遍なく、平均的なものとなっていたのだろう。


 時計使いという方向性に特化させることにより、現在のシクロの力がある。

 シクロは、そう解釈した。


「――さて、これで今に至るまでのこの世界の状況について、神々の対立について理解してもらえたと思う」


 創造神は、話を仕切り直すように真面目な表情を浮かべて言う。


「本題に入ろう。――どうして私が、君をこの場所に呼んだのかについて、だ」


 そうして、シクロにとっても重要な話が続けられる。

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