25 断罪神との決着
「リミッター解除ッ! フルパワーバーストだッ!!」
構えたフランベルジュの砲身に、バチバチと弾けるような音が鳴り響く程の膨大なエネルギーが流れ込む。
身動きの取れない断罪神には――このチャージを防ぐ手段など、そう多くは無い。
「やめろォオオオッ!!」
断罪神は大鎌をシクロに向かって投げつけ、悪足掻きを試みる。
「――バリアーっ!」
だが――それを妨害するように、ミストが咄嗟にシクロを魔法で守る。
苦し紛れに投擲されただけの大鎌では、衝撃波すら防ぎきったミストのバリアーを貫くことは出来ない。
あっさりと悪足掻きを無効化される断罪神。
一方シクロとミストは通じ合ったかのように視線を交わす。
「――最期に教えてやる。アンタの理想とは違って、人間は完璧じゃない。アンタの言うような正しくないことを、誰だってやる。善悪どちらとも無縁じゃいられないんだ」
シクロは断罪神の理想を否定するように言葉を紡ぐ。
「それでも人間は、自分たちの負の側面と向き合って、上手く付き合いながら生きていくんだ」
シクロの視線は一瞬だけミストの――仲間たちの方を向く。
シクロにとって、その向かい合い、付き合う為の支えとなったのが、仲間であった。
「それを部外者が、手前勝手に裁いてやろうなんて――土台無理な話なんだよッ!!」
そうして――言い切ると同時に、シクロはフランベルジュに蓄えたエネルギーを開放し、砲撃を放つ。
バチバチと激しい音を立てながら、高エネルギーの魔力ビームが断罪神の全身を包み込む。
「グオォオオオァァァアアアッ!! 人間如きがァァァアアアッ!!」
全身を焼かれる苦しみと怒りから、叫び声を上げる断罪神。
「その人間がッ! アンタは要らないって言ってんだよッ!!」
シクロは容赦なく、フランベルジュに魔力を供給し続ける。
莫大な魔力の奔流が、断罪神の身体を守る魔力を剥ぎ取り、肉体そのものを構成する物体も塵に変え――そのまま、魂とでも呼ぶべき本質的な部分まで焼き尽くしてゆく。
フランベルジュのエネルギー放出が終わると、断罪神の肉体は炭のように黒く変わり、その背後の壁や床までドロドロに溶け落ちていた。
「世界を――あるべき、形に――」
瀕死の断罪神が、黒焦げの肉体を引きずり、シクロの方へと手を伸ばし、近寄ってくる。
シクロはこれを、拒絶するように迎撃する。
「そんなものは、無い。人間は――迷って、悩んで、苦しんで。反省しながら、どうにかするしか無いんだよ」
砲撃を終え役割を果たしたフランベルジュを消し去り、シクロは手を翳す。
限界まで酷使したAOCはシュウシュウと煙を排熱しつつある。だが、まだ残るエネルギーを使い切るため――シクロは最終手段を発動する。
「AOC、緊急戦闘モード」
フランベルジュにエネルギーを回しきった結果、機能が一時的にダウンしている部分をパージ。最低限のケーブルと多少の装甲のみで稼働可能な、緊急戦闘モードに突入するAOC。
そして――その状態でも使用可能な、AOC自身に搭載された近距離戦闘用武装を起動するシクロ。
AOCが稼働し、シクロから供給される魔力を元に、最後の力を振り絞る。
エネルギーを腕部パーツに集め――シクロは、その状態で断罪神へと接近し、その頭部を鷲掴みにする。
「――発動、『ロンギヌス』ッ!」
シクロが宣言すると同時に――エネルギーを集めきった腕部武装『ロンギヌス』が発動する。
集めた魔力を圧縮し、杭状の鋭い形で掌部から発生させる。
こうして生み出された魔力の杭が、勢いよく断罪神の頭部を貫く。
「ガッ――」
断末魔にしては弱々しい声を最期に漏らして――ついに、断罪神は身動き一つとらなくなった。
そのままシクロは断罪神を投げ捨てる。
そして――限界まで酷使し、完全に機能停止したAOCの装備状態を解除。消滅し――普段どおりのシクロの姿が下から現れる。
「これで……決着だな」
勝利を実感し、シクロは呟く。
それと同時に――AOCの稼働に費やし続けてきた膨大な魔力の消耗により、激しい倦怠感がシクロを襲う。
「はは……さすがに、無茶しすぎたか。神だもんな、コイツ」
苦笑いしながら、シクロはその場に膝を付く。
「ご主人さまっ!」
「シクロはん!」
「お兄ちゃんッ!?」
ミスト、カリム、アリスの三人が――倒れるシクロを心配して駆け寄ってくる。
「悪い、ちょっと限界だから――少し、休ませてくれ」
それだけ言い残して――シクロは疲労に身を任せるかのように、意識を失った。





