21 罪の意識
廃墟の中を進む程に、シクロは違和感を覚える。
「……なんだ? 何の気配も無いのに、見られているみたいな――」
シクロのスキル『時計感知』に反応は無い。
だが、人から注目を受けた時のような、妙な感覚があった。
「ここはそういう場所なんだろうけど……何のために?」
気配の意味が分からず呟きながらも、シクロは進む。
すると――不意にシクロの背後に『何か』が現れる。
「――ッ!?」
咄嗟に振り向くシクロ。
そこに居たのは――死人であった。
もはや誰であるかも分からない程に、ズタズタの切り傷だらけの死人。
そして――明らかに死人でしか無いはずの、大怪我にも関わらず、ソレは立っていた。
シクロを見つめながら、ただ立ち尽くしていた。
目と言える器官すら残っていない状態であるにも関わらず、シクロにはソレが自分を『見ている』というのが直感的に分かった。
「……敵か?」
シクロは咄嗟にミストルテインを構え、ソレと相対する。
だが、ソレは一向に動く様子も無く、ただシクロを見つめ続けているだけであった。
「……はぁ」
ため息を付くと、シクロはソレを無視して再び歩き出した。
そうして――進む程に、ソレの数は増えていった。
シクロにさえ知覚出来ない一瞬のうちに、気付くとソレらはシクロの背後や、視界の隅に立ってシクロを見つめていた。
年齢、体格、性別も様々なソレらが、気付くと数十人という群れを成してシクロを監視していた。
「くそッ、何なんだよコイツらは!」
次第にシクロもイラつき始める。
後ろを振り返れば、やはりまたソレらの数は増えていた。
そして――前を向き直ると、今度は道を塞ぐような位置に、新たなソレが立ちふさがっていた。
「ッ、どけッ!!」
シクロはソレを押しのけるようにして先に進む。
すると――これまで一切何の反応も示さなかったソレらが、一斉に動き出す。
『キォオオオオオオオ――』
『イアァァアアアアア――』
甲高い、悲鳴にも似た、しかし何処か違う気もする不気味な声があちらこちらで上がり始める。
そして――ソレらは次々と、シクロ目掛けて駆け出した。
「なッ!?」
まさかここに来て襲われることになるとは思っていなかったシクロ。
慌ててミストルテインを構え、迎撃しながら走り出す。
弾丸は次々とソレらを打ち抜くが、一瞬だけ動きを止める程度の時間しか生み出せない。
次から次へと迫り来るソレらに対して、シクロは無力であった。
気付けば視界外では次々とソレらが発生し、シクロを目指して襲いかかってきており、その総勢は僅かな時間で数百に至るほど膨れ上がっていた。
「何なんだよ、クソッ!!」
連続射撃が間に合わず、ソレらに追い縋られるシクロ。
結局耐えきることは出来ず、一瞬にしてソレらの群れに飲み込まれる。
そして――ソレらは次々と、シクロの身体をベタベタと触っては離れていく。
何の攻撃性も持たないはずの、些細な接触。
だが――シクロはそれが致命的な効果がある攻撃だとすぐに理解した。
ソレらに触られるごとに、シクロの身体は重たくなっていく。
いいや――正確には、身体を動かそうという気力そのものが奪われていくのだ。
そして同時に心に溢れる絶望や諦観。
自分自身を否定し、拒絶する様々な負の感情。
そういったものが膨れ上がり――シクロは動けなくなっていく。
「ボ……ボク、は……」
ミストルテインを握る手からも力が抜け――取り落とす。
そのままシクロ自身も、その場に崩れ落ちる。
そうしてシクロの意識は――闇に飲まれていった。