20 裁きの牢獄
光が石室を満たしたのは、本当に一瞬のことであった。
即座に警戒し――カリムは剣を構える。
「何すんねんッ!!」
そしてカリムの背後で、ミストとアリスが声を上げる。
「ご主人さまっ!?」
「どうしたの、お兄ちゃんッ!?」
その声に、カリムも咄嗟に背後を振り返る。
なんとそこには――虚ろな目をしたまま、呆然と立ち尽くすシクロの姿があった。
「ちッ……何をしたんやッ!!」
カリムは咄嗟に、断罪神が何かを仕掛けたのだと判断し、剣を振りかぶって前へ出る。
「シクロ=オーウェンは我が領域へと閉じ込めた。今は、自らの犯した罪に相応しい悪夢の中に居る」
カリムの剣戟を容易く回避しながら、断罪神は語った。
「創造神の力であれば、我を害することも不可能では無い。故に、直接力を行使される危険性の無い形で、シクロ=オーウェンを無力化させてもらったのだ」
そこまで言うと同時に、断罪神はカリムに反撃を繰り出す。
素早く鋭い動きで繰り出された掌底の一撃に、カリムは咄嗟に剣を盾にするようにして防御する。
「――かはッ!!」
想像を絶する衝撃がカリムを襲い、吹き飛ばす。
「次は貴様らの番だ」
断罪神は、三人を順に見回してから言う。
「シクロ=オーウェン同様、貴様らは我が悲願の障害となり得る。故に貴様らは――未来の正しき人々にとっての『悪』として裁く必要がある」
つまり――三人をこの場で始末する、という意味に他ならない。
「……ケッ、何が『悪』やボケェ。つまりアンタが気に入らん奴は全員ぶっ殺すってだけの話やないか」
吹き飛ばされた先で、カリムが立ち上がりながら言う。
「それも必要な犠牲だ。人の世が正しくあるための礎となれ」
「やかましいわボケェッ!!」
カリムは怒鳴りながら、同時にスキルを発動。『紅焔剣舞』により、炎の剣が二本生み出され、宙を舞い始める。
「ミストちゃんッ! どうにかしてシクロはんの目ぇ覚ましたってくれッ!! アリスちゃんはウチの援護頼むッ!!」
「はいっ!」
「分かったわッ!」
カリムが指示を出し、これにミストとアリスは同意。それぞれが臨戦態勢を整える。
「――『バリアー』ッ!『サンクチュアリ』ッ!」
ミストは自身とシクロを守るためのバリアーを張ると同時に、味方全員を援護する為のスキル『サンクチュアリ』も発動する。
「全部盛りで行くわッ!」
アリスは宣言と同時に六つの魔法を発動。
それぞれが土、炎、水、氷、風、雷という異なる属性の魔法。
それらを同時に展開しつつ、断罪神を狙う。
「……愚かな」
断罪神は、憐れむような視線を三人に向ける。
「貴様らの力では、我を打ち破ることなど不可能」
「せやったら、最初っからウチら全員シクロはんと同じ扱いにしときゃええんや」
カリムは挑発するかのように断罪神へと言い返す。
「けど、そうは出来へんのやろ? ――どうせ、シクロはんをどうにかこうにか封じ込めるだけで精一杯ってところなんちゃうか? せやなかったら、最初っから交渉なんかせえへんでええ。ウチら全員アンタの領域とかいうもんに封じ込めてオシマイやったはずや」
「……賢しいことを」
ピクリ、と眉を不快げに顰める断罪神。
「せやから、今のウチらにも勝機はあるはずやッ!! 気張っていくでェッ!!」
カリムは気勢を高めるかのように声を張り上げ――断罪神へと立ち向かう。
こうして三人と断罪神による戦いの火蓋が切って落とされた。
一方――シクロは視界を光に包まれた直後。見知らぬ場所に立ち尽くしていた。
「……ここは」
辺りを見回すシクロ。
ボロボロな家屋が立ち並び、人の気配は無い。廃れて使われることの無くなった、足跡の無い土の道。
まるで廃墟のような光景であった。
「カリム! アリスッ! ミストッ!! 返事をしてくれッ!!」
大声で仲間達の名を呼ぶが、何も返ってこない。
「……幻影か何かだったら、ボクのスキルでみんなの居場所ぐらいは分かるはず。それも分からないってことは、ここはもうあの部屋じゃないって考えたほうが良さそうだな」
状況を整理しながら言葉にして、シクロはそう判断を下す。
「となると、まずはここが何処で、どんな場所なのか調べないとな」
そして、シクロは周辺の探索に歩き出す。
ここがまさか――出口の無い牢獄のような場所であるとは知らぬまま。