18 最悪のダンジョン
不気味な緑の石像が破壊されるエリアを通り抜け――シクロ達一行は、ついに最深部と思わしき場所へと到達した。
これまでの、地下渓谷とでも呼ぶべき地形から打って変わって、丁寧に磨き上げられた床と壁が続くエリアへと突入したのだ。
そして中央には深く、さらに奥へと下る螺旋階段が存在している。
明らかに、重要な場所へと続く階段であり――これまでのどんな階層と比べても豪奢で丁寧な装飾の施された石階段が、それを証明しているようでもあった。
「この先に、何が待ってるんだろうな」
シクロは、螺旋階段の手前で呟く。
「何であっても、私はご主人さまに付いていきますから」
ミストはシクロの傍らで言う。
「ま、ウチラの実力ならどんなボスが出てきてもどうにか出来るやろ! ここまで来たら、後はぶっ倒してダンジョン攻略するだけや!」
カリムはここに至るまでの魔物との戦闘でさらに実力を高めた実感もあり、自信を顕にしつつ言う。
「安心してよね、お兄ちゃん! 後ろは私が守るから!」
胸を張り、パーティの後衛をしっかり務めると宣言するアリス。
「よし――じゃあ、行くぞ」
こうして、シクロ達は螺旋階段を下っていく。
螺旋階段を下りきった先には、巨大な門が待ち構えていた。
ダンジョン内の風景にあった不気味な雰囲気とは打って変わって、どこか神聖さも感じるような装飾の、荘厳な門だった。
「今までと様子が違うな。やっぱり――この先が最下層か、それに近い場所なのかもしれないな」
シクロは予想を語りながら、門へと近づく。
そして――扉に手を当て、開こうと力を入れる。
すると扉はひとりでに動き出し、シクロが押さずとも勝手に開いていく。
扉の先に広がっていたのは、隅々まで磨き上げられた、美しい純白の石室。
そして石室の中心に――男が一人、立っていた。
ダンジョンの扉を開いた先に居る存在など、普通の人間であるはずがない。
そうした当然の予想から、シクロ達四人は全員が臨戦態勢を整える。
「――まあ待て。そう急ぐ必要もあるまい」
男は、余裕の様子でシクロ達を制止するように言う。
「貴様らが何故ここに来たのかも、どういう目的を持っているかも、我は理解している」
男の言葉に――シクロ達は訝しむ。
見るからに初対面の人物。そんな男が、こちらの目的まで把握しているというのはおかしい。
「故に――場合によっては、貴様らの望む通り、このダンジョンの攻略を認めてやっても良い。我もその邪魔をせぬと約束しても良い」
男の言葉に、シクロ達には疑問が浮かび上がる。
なぜ――この男は、このダンジョンの攻略を『認める』などと言ったのか。
ダンジョンは世界に突如生まれる異物。誰の所有物でもなく、最深部に存在する『ダンジョンコア』を破壊することで攻略は完了する。
何の権限があって、男がそれを認めるというのか。
「……お前は、何者だ?」
そういった諸々の疑問、疑念を含めてシクロが訊く。当然、警戒は解かないまま。
「我は――そうだな。名は無いが、貴様ら人が様々に呼ぶ、そのどれかで呼ぶと良いだろう。断罪神。裁きの神。あるいは――スキル選定の神でもいいだろう」
返ってきた言葉に、シクロ達は目を見開く。
スキル選定の神。それは正に――シクロ達にとっても馴染み深く、因縁もある神であった為だ。
「アンタは――本当に、神だって言うのか?」
「信じるも、信じないも好きにするといい。我にとってはどうでも良いことだ。それよりも――貴様らとこうして対話するに至った目的こそ、重要であろう」
「だったら、その目的ってのは何なんだ」
シクロが急くように問うと、男――断罪神は鼻で笑う仕草を見せてから言う。
「先に言ったであろう。条件次第では、貴様らが我が『断罪のダンジョン』を攻略することを認めてやっても良い、と」
そして断罪神は、シクロ達の方へ向けて手を伸ばす。
「――シクロ=オーウェン。我らが創造主の御力を賜った使徒よ。我に従え。我の下で、我が悲願の為に力を使え」
予想だにしない断罪神からの要求に、シクロ達の間に動揺が走る。





