17 異形の怪物達
より深く探索を続けるほどに、異様な魔物の姿が増えていく。
最初に一行を――シクロ以外の三人を驚かせたのは、シクロも遭遇した人面の怪物。
くこここ、という奇妙な鳴き声や、胴体が縦に裂けて口が現れる構造など、一般的な生物はもちろん、魔物と比べてもバケモノと呼ぶに相応しい異形の存在。
そんな人面の怪物も撃破し、一行はさらに深部を目指す。
シクロすら探索したことのない、人面の怪物の出現する階層のさらに奥。
そこに広がる光景は――地獄と呼ぶに相応しい有様であった。
人面の怪物が当然のように闊歩するのは無論。複数種類の虫を継ぎ接ぎしたかのような魔物。床に転がる、目玉そのものとしか言いようのない魔物。肉の筋のような繊維が集合体となり蠢く物体。
そんな不気味な魔物がそこら中で発見される有様であり、上も下も果てが見えない断崖絶壁に囲まれた地形も相まって、本能的な危機感を嫌というほど刺激される。
だが、そんな全てをあわせてもなお足りない、遥かに醜悪な存在――ダンジョンの各所に存在する、緑色の汚らしい岩の中から生えてくる『人間』の姿にこそ、シクロ達は怖気を覚えた。
緑色の岩は不意に脈動するかのように鈍い光を放つと、内側から膨れ上がるかのようにせり上がり、人の姿を模した石像の形をなしてゆく。
そして――生まれた緑色の石像は、明らかに『人間』の意思を宿していた。
『殺して……殺してくれェ……』
『あぁ……うあぁう……』
緑の石像からは、そんなうめき声の様な声が響いてくるのだ。
そして――ダンジョン内の怪物たちは、石像の誕生を確認すると、我先にと襲い掛かる。
甚振るかのように腕を、足を、身体を順番に壊していき、最後に頭を砕く。
そうして破砕される最中、緑の石像は悲鳴を上げ続ける。
『いぎゃぁぁっぁあああああっ!! やめでっ! もうやめでぐれぇぇぇええっ!!』
泣き叫ぶ声を上げながら石像は砕け――声が途切れ『死』を迎える。
だが、それは終わりを意味しない。
探索を続けていると――シクロ達も、やがて気付く。
明らかに――同じ姿の、同じ声の、同じ反応を示す石像が、何度も繰り返し生まれてくることに。
そうして再び『生まれた』石像は、また怪物たちに襲われ、苦しみ、絶望し、死を迎える。
だが、どれだけ苦しんだところで――石像は結局また『生まれる』。
そんな悪趣味な輪廻の輪が繰り広げられる光景に、シクロ達は全員が気分を害していた。
「なんなんや、いったい。こんな、意味分からんで……」
カリムが苦い表情を浮かべつつ呟く。その言葉に、シクロ達も同感であった。
「ボクらよりも、石像が存在していればそちらを優先して攻撃するぐらいだ。何らかの仕掛けなんだろうとは思うけど」
シクロは言いながら顔を顰める。
「……いや、意味なんて無いのかもしれないんだ。無駄に考えるのはよそう。それこそ、奥に進んで行けば何か分かるのかもしれないしな」
と、自分を説得するかのように言うシクロ。
その言葉に、仲間たち三人も頷いて同意する。
「行きましょう、ご主人さま」
ミストが気遣うように、シクロの手を取る。
そしてシクロの目を見て、頷く。
「ご主人さまの言う通りですから。ここで考え込んでも、良い考えが浮かぶとは限りません。先に進みましょう」
「……そうだな。ありがとう、ミスト」
シクロはミストの気遣いに感謝し、笑みを浮かべる。
「先に進もう。何があるにせよ――多分、敵がいるんだ。この奥に」
シクロの言葉に誰もが同意し――探索は続く。
そうして数週間の時間を費やし、シクロ達は異形の怪物のエリアを探索し、通り抜けた。
これまでのどんな階層よりも広く、過酷で、かつ強敵ばかりが出現する階層。
そこを抜けた先には――思いもしない光景が待っていた。
大変長らくお待たせいたしました。
私情で申し訳ないのですが、安定して毎日執筆する、というのが大変だという状況があるので、隔日更新というのも厳しくなってしまいました。
ですので、ある程度の内容を書き溜め、話の区切りが付くところまで書き上がった段階で投稿をする、という方針に変更させていただきます。
本日から毎日一話ずつ、この章の完結までは投稿していきます。
更新ペースが不安定になってしまいますが、どうか宜しくお願いいたします。