16 深層の怪物達
ディープホール、真の深層。
エルダーレイスのボス部屋を突破すると、シクロにとっても馴染み深い光景が広がるようになる。
暗い岩場が広がり、上が見えない程に高い断崖絶壁が行く手を阻む。
場所によっては湧き水が小さな川のように流れており、これがあちらこちらを侵食して地形をより複雑にしている。
そして――岩場に擬態するように隠れる魔物が、シクロ達一行を襲う。
「――くるぞ!」
シクロが言い、真っ先にミストルテインを構える。
同時に岩へと擬態していたカエルの魔物が動き出し、一斉に舌を弾丸のような勢いで突き出して攻撃してくる。
「させるかッ!!」
カリムは素早く剣を抜き、舌の攻撃を回避しながらすれ違いざまに斬りつける。
次々と舌が切り落とされ、勢いを失い破壊力を失う。
続けて、シクロがミストルテインの弾丸を放つ。カエルの魔物の頭部を貫き、確実に一匹ずつ仕留めていく。
だが、それでも擬態していた魔物の数は多い。まだ半数以上のカエルが無傷のまま、第二波と言わんばかりに舌を伸ばす。
「――『フリーズロック』ッ!!」
「――『バリアー』っ!」
だが、それを阻止するようにアリスとミストが魔法を発動させる。
アリスの魔法は氷の魔法。標的周辺の一帯を魔力により生み出された冷気が包み込み、みるみるうちに氷結させ、氷で閉じ込めてゆく。
そしてミストは光の魔力の壁を生み出し、仲間全員を守るように覆った。
結果――カエルの魔物の攻撃は勢いを失い、バリアーに阻まれて無力化。
また、体温が急激に下がった為、多くのカエルが即死し、生き残った個体も行動不能に陥る。時間が経てば、やがて死に至ることに変わりは無い。
こうして四人は無事、深層に入ってからの初戦は終えることが出来た。
「……上手くいったんやけど、思うとったより頑丈やな」
「私も、一瞬で全滅させるつもりで放った魔法の効き目がイマイチだったわ。やっぱり深層の魔物は格が違うってわけね」
カリムとアリスが、真剣な様子で戦闘の内容を分析する。
「ですが、十分通用していますし、このまま油断せず探索を続けていけば問題無く倒せるようになると思います。――ご主人さまは、どう思いますか?」
ミストは二人にそう語った後、シクロに問い掛ける。
「そうだな……一応、あの岩に擬態してるカエル、名付けるなら『ストーンフロッグ』はこの辺だと一番弱い。苦戦するようなら厳しいとは思うけど、今の感じなら大丈夫だと思う」
シクロの評価に、三人も安堵したように息を吐く。
「せやったらええねん。そんじゃあ、気い張って行こうか!」
カリムは言うと、先頭を進もうを歩み出す。
「あ、ちょい待った!」
シクロはカリムを呼び止めて、慌てるようにミストルテインを構える。
そしてカリムが動きを止めたのを確認した後、行く先に向けて銃弾を放つ。
弾丸は正確に飛来し――一匹だけ、逃げるように隠れ擬態を続けていたストーンフロッグを撃ち抜く。
「これで全部だ」
「あはは……これは、ホンマに気い張って行かんとアカンな」
見落としたまま進もうとしたことを恥じ、カリムは苦笑いを浮かべる。
「まあ、気にするな。ボクのスキルのお陰で索敵が簡単だからこそ見つけられたんだ。多少の見落としはちゃんとフォローするよ」
「すまんな、頼むでシクロはん」
こうして幾らかの課題を抱えながらも、四人はより深くを目指して探索を続けるのであった。
またまた遅くなってしまい申し訳ありません……
ノリと勢いで魔法の名前を決めていたせいで、改めて魔法の名前リストを作るのに手間取るというアホな失敗をやらかしておりました……。