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13 真の深層へ




 翌日。野営地を片付けた四人は、いよいよ深部を目指して出発する。


「それじゃあ、気を付けて行こう、みんな」


 そう告げるシクロの表情から、精神衛生が随分と改善されたことを悟る三人。


「せやな。こっからが本番や、今まで以上に気ぃ張って行かなあかんな!」

「私も頑張るよ、お兄ちゃんっ!」


 カリムとアリスが、少しばかりわざとっぽく気合を入れる。

 そんな二人を見てミストは微笑み、そしてシクロに向けて頷く。


 準備は万端。こうしていよいよ、四人は本格的なディープホール攻略に入る。




 最初の階層主を突破した後は、暫くアンデッドの出現するエリアが続く。

 だが、実体を持ったアンデッドは数を減らし、奥へ進む程にスピリット系のアンデッドが数を増やしていく。


 突如として、壁の中からでも姿を現し襲ってくるレイスは、常に気を張って警戒しなければならない厄介な敵であった。

 また、シクロの時計感知では、レイスを感知することは難しい。


 だが、ここで活躍するのがミストのスキル。

 サンクチュアリ。一定範囲に存在する味方の能力を上げ、敵の能力を下げるスキル。


 このスキルが発動している限り――ミストは、その範囲内に入ってくる敵の能力低下を感知出来る。


 すなわち、間接的に敵の接近自体を感知可能でもあるのだ。


 感知範囲はさほど広く無い為、索敵スキルとしては不十分なものの、壁の中から迫るレイスに対しての警戒としては十分過ぎる程に優秀なスキルだった。


「――右から二体来ます!」


 ミストは壁の向こうから迫る敵の存在を感知し、仲間に伝える。


「前からも三体来るぞ。多分、右が不意打ちだろうな」


 シクロがミストの言葉に反応しつつ、前方から迫るレイス三体に身構える。

 ミストルテインの銃口を向け、告げる。


「壁から来るのは任せた」

「任せとき!」

「前はよろしく、お兄ちゃん」


 シクロの要求に、カリムとアリスが応える。

 ミストはサンクチュアリを維持する為に集中している為、レイスの出現するエリアが続く限りは、他の三人が主に戦闘をこなすように配分されている。


「じゃあ――いくぞ!」


 シクロは言って、ミストルテインの引き金を引く。


 銃撃音が三発響くと同時に、射出されたのは――エネルギーキューブを圧縮した弾丸。

 アンデッド系の魔物に特に効果の高い弾丸である。


 当然、今回の敵、レイスのようなスピリット系のアンデッドにも有効である。


 弾丸は三体のレイスの胴体へと正確に着弾。同時に炸裂し、エネルギーキューブが持つ生命エネルギーが放射される。


「――オォォオオッ!!」


 レイス達の、悲鳴のような鳴き声が響く。

 それと共に姿が霧散し、千切れて散り散りになって消滅してゆく。


 正面からのレイスは、問題無く瞬殺された。


 だが、まだ戦闘終了ではない。

 直後、ミストの言葉通りに、右側の壁をすり抜けて二体のレイスが姿を現す。


 そして、これを待っていたかのように構えていた二人。


「――ハァッ!!」


 一人はカリム。剣閃と共に炎を生み出し、実体の無いレイスの肉体を魔法的なダメージで引き裂き、掻き消す。


「――『サンダーレイ』っ!!」


 もう一人はアリス。雷の光線を幾筋も放ち、レイスの肉体を穴だらけにする。

 ダメージから肉体を維持できず、レイスは消滅してしまう。


 こうして、無事五体のレイスとの戦闘も終わる。


 だが――難なく戦闘を終えたように見えて、実は幾つかの問題がある。


 一つは、メンバーの消耗。

 ミストがスキル『サンクチュアリ』を発動し続けている為に消耗しているのはもちろん、カリムとアリスも消耗していた。

 出現するレイスは強敵の部類であり、二人にとっても雑魚扱い出来る魔物ではない。


 一撃で倒してはいるものの、これは仕留め損ない壁に逃げられることを警戒してのことである。

 少々過剰気味の一撃で葬ることを意識していること、そして連戦する状況が続いていることもあり、見た目以上に魔力を消耗していた。


 この中で、全く苦もなく探索を続けているのは、シクロだけであった。


 当然、シクロもそれを理解しており、探索のペースは他の三人に合わせている。

 また、昼休憩を挟むことで三人に魔力と体力の回復をする時間も作っている。


 いずれは――レイスを撃破していれば、十分にレベルも上がり、難なく進めるようになる。

 そう考え、シクロはまだまだ気長に行くつもりであった。


「――ふぅ。にしても、レイスばっか出るようになってもうたなぁ」


 臨戦態勢を解き、カリムが呟く。

 その言葉通り、ここ暫くはレイス以外の魔物と遭遇していない。


「ああ。だいぶ奥へと進んでいる証拠だ。あと一日か二日も進めば、次のボス――エルダーレイスの部屋に到達出来るはずだ」


 エルダーレイス。それはかつて、シクロがディープホール脱出の際、最初に戦ったボスである。

 あの時は油断から苦戦をしたが、今はあの時以上の実戦経験と戦闘能力がある。間違いなく、楽勝で撃破する自信があった。


 故に――シクロは、ここを三人の成長の糧にしようと考えていた。


「……何度か話し合った通り。エルダーレイスとの戦いで、ボクは援護だけに集中するつもりだ。本当に、それで大丈夫だな?」


 その言葉に、三人共に頷く。


「大丈夫、分かってるよお兄ちゃん。――お兄ちゃんが一人で倒したボスぐらい、私達も倒せなきゃ、この先一緒に進むなんて無理だもんね」

「せやな。経験的な意味でも、レベルアップ的な意味でも。ウチらが中心になって倒した方がええはずや」


 アリスが決意を言葉にして、カリムが理屈を語る。


 二人の言葉はそれぞれ真実であり、実際にエルダーレイスを突破した後は、レイスなど比較にもならない程に強い魔物が多数生息するエリアへと突入することとなる。


 人面の怪物や、岩に擬態したカエルの魔物。

 彼らも強かったが――当然、その生息域に至るまでに出現した魔物も強敵揃いであった。


「……私も、がんばりますっ!!」


 メンバーの中で最もレベルが低いミストも、エルダーレイスとの戦いに向けて気合を入れる。


「よし。じゃあ、どんどん進んで、どんどんレイスを倒していくぞ!」


 おーっ! と、三人もシクロの呼びかけに声を上げて応える。


 こうして、四人はレイスを相手にレベルを上げながら、着実にディープホールの深層を目指して進んでいった。

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