12 一目惚れ
「シクロちゃんっ! ママは、一目惚れをしてしまいました!」
と、夕食の席で突如カミングアウトをしたサリナ。
「……えっと? どういうことなの母さん?」
突然言われても話についていけず、シクロは尋ねる。
「シクロちゃんのお仕事場に居た人、とってもカッコよかったでしょう? あの人にね、ママは一目惚れしちゃったのよっ!」
「……ああ、そういうこと」
確かに、イッケーメン伯爵はイケメン男性だった。シクロから見てもそうだったのだから、サリナから見ても同様だったはず。
そして――シクロは、母サリナが恋多き女であることをよく理解している。
何しろシクロと妹アリスは、なんと半分しか血がつながっていないぐらいなのだから。
二人の父親は違う。それはつまり――そんな短期間の間に、二人の男性と子供を作ったということにもなる。
何でも、サリナは若い頃から色々な男性を相手に恋に落ちては、やがて飽きてまた別の男性と恋に落ちる、ということを繰り返していたのだとか。
そうしてある日、旅の冒険者との間に子供を作る結果となった。
だがその男性はすでにサリナの元から去っていた。つまり――シクロが生まれる前から、既にサリナはシングルマザーとなっていた。
そして一度ならず二度までも、同じような流れでアリスを身ごもり、出産。
さすがに二度の出産を経て反省したサリナは、以後我が子を立派に育てるまでは恋を封じようと心に決める。
だが――それでも生来の気質は変えられない。サリナはこれまでにも、いろいろな男性に気移りすることがあった。
それをシクロもしっており――そして自分とアリスの為に我慢してきたということも理解していた。
だから、今回の母の恋はようやく子育てという楔から開放されてから初めての恋であるとも理解していた。
「で、どうするつもりなのさ?」
「あの人の名前をまず教えて欲しいの!」
「そこから!?」
確かに、サリナにイッケーメン伯爵は名乗ってすらいなかった。
だが……名前も知らぬ相手に恋をするとは、さすがにシクロも若干引く。
が、それでも母を束縛するのは悪いと考え、シクロは正直に答える。
「……あの人はイッケーメン伯爵っていう人で、あの日たまたま仕事を見に来ていただけの、貴族様だよ」
「そうなの。貴族様なのね――なら、まずは侍女として雇ってもらうところかしら?」
身分が違うことを知ってもなお、サリナに諦めるような様子は無かった。
シクロはため息を吐く。
「はぁ……。まあ、母さんの好きにしなよ」
「ありがとう、シクロちゃんっ! さすがは私の息子ねっ!」
こうして、サリナはイッケーメン伯爵をどうやって落とすのか、作戦を立て始めるのであった。
そうして――数日後には、伯爵家の侍女として雇われることになったサリナ。
だがなんと、イッケーメン伯爵家の侍女は全員が住み込みで働いていた。
だから――サリナもまた、実家を出ていくこととなってしまう。
こうしてシクロは、とうとう家に一人きりとなってしまうのであった。
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