10 復讐の先に
戦いを終えたシクロは、武装を解除して振り返り、声をかける。
「時間をかけ過ぎた。悪かったな」
と、戦いを――拷問を、復讐を見守り続けていた三人に向けて言う。
「いや、それはええねん。それよりも……」
カリムは聞くべきことを迷い、一度頭を振って考えを改めてから、別の言葉を口にする。
「それよりも、これで寄生虫が湧き出てくる問題は解決したって思ってええんやな?」
「だと思う。けど、これで確定ってわけじゃないからな。もうちょっと調査する必要はあるな」
シクロが言うと、それに補足するようにアリスが口を開く。
「お兄ちゃん。それと、こんなことが起こった理由までは分かってないわ。あのフレッシュゴーレムがどういう経緯で寄生虫を生み出す化け物に変わったのか、追加調査もしたほうがいいと思う」
「そうだな。まあ、何でも調べれば分かるってわけじゃないが……調べずに帰るってのは杜撰だろうな」
アリスの提案に、シクロも含め全員が同意する。
こうして、原因究明のための追加調査として、さらに深部へと潜ることが決定した。
一先ず事態収束の報告の為にノースフォリアへと戻ることも考えられたが、続けての探索を選んだ。
これには――シクロ以外の三人に嫌な予感があった為でもある。
異常な個体へと進化を遂げていた、階層主のタイラント。それだけであれば、まだ自然現象の範疇であった。
だが――その変異種の中に、人の魂が入り込んでいた。
しかもそれは、このダンジョンを最も深くまで探索した人物、シクロと因縁のある相手。
偶然で片付けるには出来すぎている。
何か、通常では考えられない程強大な存在の意図が関与しているように感じられて仕方がなかった。
そして、そんなものが居るとすれば、さらなる深部であるだろう、とも。
また、何らかの意図が働いているのであれば――こうしている間にも、その何者かは次の行動に移っているかもしれない。
それを思うと、悠長に地上へと帰還する気にはなれなかった。
シクロとしても、調査という形で気を紛らわせる対象があるのは有り難かった。
こうして四人は、さらなる深部へと足を踏み入れていく。
――が、この日は階層主の部屋を突破してすぐ、野営をすることとなる。
ここからはいよいよ、冒険者が到達した記録のほぼ無い階層。記録上の深層である。
魔物に関してはレイス等のスピリット系のアンデッドが出没するようになり、通常よりもさらに警戒して探索を進めなければならない。
階層主を突破し、体力を消耗した状態での強行軍は避けたかった。
と言っても、シクロ以外は戦闘に参加していない。あくまでも階層主到達までの疲労が主ではあったのだが。それでも強行する意味は薄い。
そうして野営となり、シクロは例のごとく、寝ずの番をしていた。
やることもなく、ただ仲間の起床を待つ時間。
空白の時が流れるばかり。
故に――シクロは考え込んでしまう。
様々なことを、余計なことを考え込む。
ただぼうっと、思考の海に浸っていると、誰かがテントから起き出してくる様子が見えた。
「……ご主人さま。少し、お話ししませんか?」
「ミスト」
現れたのはミスト。このタイミングを待っていたかのような登場であった。
「どうしたんだ? 明日も調査は続くんだ。休んだほうがいいのに」
「はい。でも……ご主人さまと、お話ししておきたかったので」
にこり、と笑ったミストは、シクロの隣に腰掛ける。
「ご主人さまは――あのアンデッドの元となった人と、因縁があったんですよね?」
ミストの直球の問に、シクロは一瞬驚きながらも頷く。
「ああ。あいつは――そうだな。絶対に許せない人間だった」
「だから、ああいった復讐をしたんですね」
ミストの言葉に、シクロは怯える。
そこから続く言葉が、自分への拒絶の言葉になるのではないか。そんな不安に襲われた。
だが、ミストはそんな裏切りのような言葉を口にする人間ではない。
続いたのは、許容の言葉。
「安心しました。ご主人さまにも――やっぱり、許せないことってあるんですね」
思わぬ言葉に、シクロは目を見開く。
復讐後の展開がなかなかの難産となり、投稿が遅れてしまいました。
どうにか書き上がったので投稿続けてまいります!