07 地獄よりも
(――ここまでのモンやったんかいな)
シクロと階層主、ブジンの戦いを見学しながら……カリムは、そんな感想を抱いた。
(そら、シクロはんは強いと思うとったけども。それでも……ここまで圧倒的やとは思わんかったわ)
カリムの目には――そして、アリスとミストの目にも、正に蹂躙、と呼ぶべき光景が映し出されていた。
「く、クソがぁぁぁぁあああッ!!」
肉体を『再生させた』ブジンが立ち上がり、シクロを襲おうと動き出す。
しかし、それを制するかのように、直後シクロのミストルテインから弾丸が放たれ、ブジンの手足を吹き飛ばす。
ダンダンッ! という射撃音に一瞬遅れ、ブチブチ、とブジンの肉体が引き裂ける音が響く。
「ほら、立てよ。ボクのことが嫌いなんだろ?」
「ガァァァアアッ!!」
煽るようなシクロの言葉を受け、怒りに任せてブジンは肉体の再生を早める。
腕と呼ぶべき形状すら捨て、触手のような何かと化した肉体を伸ばし、シクロへと攻撃を加えようとする。
だが――それでもシクロには届かない。
「――『レヴァンテイン』」
シクロは新たな武器の名を呼ぶ。
それは一瞬でシクロの左手に握られる形で出現した、銃剣と呼ばれる銃と剣が一体化した形状の武器であった。
触手がシクロに届く間も与えずに、シクロの手にはレヴァンテインと呼ばれた銃剣が握られる。
そして目にも留まらぬ――ブジンでは認識できないほどの速さで剣は振るわれ、触手を切り刻む。
「ギャァァァアアアッ!?」
小さな賽の目状に切り刻まれた触手から、激痛が伝わり叫び声を上げるブジン。
そんな――まるで雑魚をあしらうかのような戦闘が、ずっと繰り広げられているのだ。
それも、カリムでさえ恐らくは『苦戦する』と思われる程の階層主を相手に。
実力差は、誰にとっても歴然。
ただシクロ一人だけが、圧倒的な強者であった。
「苦しそうにしてるじゃねえか、ブジン。治してやろうか?」
「な、何を」
突如発せられた、善意を装ったシクロの発言。これにブジンは困惑する。
だが問いを待つ間も無く、シクロはブジンとの距離を詰め、その腹をレヴァンテインの刃で大きく切り裂く。
「うぎゃああぁァァああッ!?」
「ちょうど身体を治すのに優秀なアイテムがあるんだ。しっかり味わってくれよ?」
言うとシクロは――引き裂いたブジンの腹へと、『あるアイテム』を取り出し突っ込んだ。
それは、エネルギーキューブ。生命エネルギーの塊であり、人には治癒の効果を、そして――例えばエルダーレイスのような上位のアンデッドすら苦しめるほど浄化の効果を発揮するアイテムである。
ブジンはそんな物体を腹に埋め込まれ――そのまま取り出す間も与えられず、引き裂かれた腹の傷が『癒えてしまう』。
「――ッ!? グおぉぉおおァァァァあああッ!? あヅイッ!? シヌ、死ぬぅぅううああァァああッ!!」
浄化の力の塊を埋め込まれ、ブジンは苦しみのあまりのたうち回る。
だが、ブジンがタイラントの亜種という、肉体を持つアンデッドである為、そして再生のエネルギーが膨大に有り余っている為、少量のエネルギーキューブでは死ぬことが出来ない。
ただひたすら、腹の中から浄化され、灼熱のマグマでも飲み込んだかのような苦しみが続くばかりである。
「ああ、悪い悪い。そういやアンデッドには効きすぎるんだったな、忘れてたよ」
シクロは苦しむブジンを見下ろしながら、無表情のまま呟く。
のたうち回るブジンを、嗤うでも、警戒するでもなく、ただ見下ろす。
「……まだまだ、こんなもんじゃないからな」
冷たく、言い放つシクロ。
「テメエが今まで傷つけてきた人たちの苦しみは、まだまだこんなもんじゃない。これは、この程度は――序の口に過ぎない」
容赦はしない。そんな意思が溢れる声で、シクロは言い放つ。
「ほら、続けようぜ。地獄よりも苦しい『不死身』ってやつを」