11 お昼休み
シクロはその後、イッケーメン伯爵に修理の様子を一通り実演してみせた。
それが終わると、ちょうどお昼休みの時間が近づいていた。
「いやあ、素晴らしい手際だったよシクロ君」
「ありがとうございます!」
「いやあ、まったく惜しいね。時計使いでさえなければ、誰もが求める魔道具技術者になりえただろうに……いや、すまない、言っても仕方のない話であったな」
「……いえ。それでもボクは、時計使いとして立派になるため頑張るつもりですから」
べた褒めのイッケーメン伯爵だったが、だからこそ『時計使い』になってしまったシクロの不遇が強調されるような形になってしまう。
「――話がそれてしまったね。ともかく、今日はありがとうシクロ君。よいものを見せてもらったよ」
「いえいえ。伯爵様のお願いでしたら、これぐらいはなんということはありませんよ」
「ははは!」
というように、伯爵の方から話題を変え、話を切り替えた。
「にしても、時刻もそろそろ昼時であるな。シクロ君はどこかへ食べに行くのかね?」
「いえ。母さんに作ってもらった弁当が――」
言って、シクロは自分の荷物を探る。
「……あれ? 弁当が無い」
「ほう。それではせっかくだ。修理の様子を見せてもらった追加報酬として、昼食に招待しよう」
「そ、そんな!? 悪いですよ! そこまでのことをしたわけではないですし!」
慌てて遠慮するシクロ。
「ふむ。そうかね。まあ無理にとは言わんが――」
そうやって、昼食の誘いとお断りの問答が何度か続く。
すると、シクロはふと気づく。
「――あれ? また誰か近づいてくる?」
そう。シクロはまた、時計の気配を感じ取ったのだ。
そして今回の時計の気配は、よく知ったものであった。
「この気配は……ああ、なるほど」
「――シクロちゃん! お昼のお弁当、忘れてたわよぉ?」
勢いよく扉を開いて部屋に入ってきたのは、なんとシクロの母サリナであった。
「母さん、ありがとう」
「うふふ。シクロちゃんったら、おっちょこちょいなんだから。もう」
ポンポン、とシクロの頭を撫でるサリナ。
「ほう、お母上か。お若く見えるな」
と、様子を見ていたイッケーメン伯爵が呟く。
すると、それに反応押したサリナがイッケーメン伯爵の方を向き、そして――目を見開く。
「――まあっ!」
「ん? どうしたのかな?」
「い、いえっ! なんでもありませんわっ!?」
なにやら口調も様子もおかしくなっている母サリナを見て、シクロは首を傾げる。
「……母さん? どうしたの?」
「し、シクロちゃんっ! とりあえずお弁当、渡したからねっ!!」
そう言い残して、サリナは慌ただしく部屋を出ていくのであった。
「……どうしたんだろう?」
そんなシクロの疑問は――その日、帰ってから夕食の席で判明するのであった。