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07 攻略計画




 シクロは話を戻すために口を開く。


「謝罪の件で話が逸れましたけど――ディープホールの調査依頼についてですが。ボク達もちょうど、これから本腰を入れてディープホールの攻略に向かおうと思っていたところです。しっかりやらせてもらいますよ」

「そうか、それは助かる」


 そうして、次はより具体的な、ディープホールで起こっている異常の詳細についての話だった。


「ディープホールでは現在、中層――と言っても攻略済み階層の、という意味だが。中層の獣型の魔物、ヘルハウンドの凶暴化が最も厄介な現象だとして報告に上がっている。他にも、小型の魔物が凶暴化している例もある。冒険者が狩った魔物の死体を、異常個体だからということで売れそうにない為廃棄する事案もあり、中にはダンジョン外で廃棄し、寄生虫がダンジョン外にも広がっている可能性が懸念されている」


 グアンの説明に、シクロは納得したように呟く。


「なるほど。それで……」

「シクロ君。気付いたことが?」


 グアンに問われ、シクロは答える。


「はい。ボクが前回受けた依頼が、正にその外部で広がったパターンでした。ヘルハウンドの異常個体が増殖していて、寄生虫が増殖するサイクルも出来上がっていたので、それらも含めて処理してきました」

「なるほど……詳細を聞いても構わないかな?」

「はい」


 そうしてシクロは、件の寄生虫について、知っている限りのことを語る。


 ヘルハウンドから最終宿主に寄生する可能性が極めて低く、ヘルハウンドさえ処分してしまえばダンジョン外での感染拡大については食い止められるであろう、という予測についても話をした。


「そうか。事実、その村ではもうヘルハウンドの異常個体は確認出来なかったのだな?」

「はい。間違いなく、狩るほどに数は減っていました。感染源となるヘルプラントが他にも生息していれば、ああも減り続けることは無かったはずです」


 グアンは報告を受け、顎に手を当てたまま考え込む。


「……しかし、ディープホール内部にそのヘルプラントが生息しているという報告は受けたことが無い。ダンジョン内での感染については、他の原因が存在する可能性が高いな」

「そうですか。ちなみに、予想なんかはありますか?」


 シクロが問うと、グアンは躊躇いながらも口を開いた。


「ふむ……あくまでも、私の元冒険者としての予想でしかないが……ヘルハウンドの生息する領域を、さらに深く潜ればアンデッド系の魔物が増える階層がある。寄生虫が神聖属性に弱い、という点を考えると、その辺りの魔物に突然変異体が現れた可能性が高いな」

「ギルドでは、まだそこまで調査が出来ていないんですか?」


 シクロが問うと、グアンは頷く。


「残念ながらな。ヘルハウンドの異常個体が強力であること、アンデッドの生息域が攻略済み階層の最下層であることが重なり、調査は殆ど進んでいない。奥に原因があるはずだ、ということ以外は何も分かっていないに等しい状況だ」


 それはつまり――それだけギルドは、シクロの力による早急な攻略を望んでいるということにもなる。

 ギルド側で解明が進んでいない以上、スキル選定教の介入を防ぐには、もうSSSランク冒険者という手札しか残っていないも同然の状況だった。


「――分かりました。出来る限り早く……明日にも、準備を終わらせてディープホールの攻略に向かいます」

「ああ、宜しく頼む」


 そうして――シクロはグアンと握手を交わすのだった。




 その後、シクロ達一行はギルドを後にすると、長期間のダンジョン攻略に備え、物資を買い込みに向かった。


 シクロ本人は腹時計の停止により、食事を必要としていない。だが、他の仲間達は当然食事も水も必要となる。そうした資源はもちろんのこと、ダンジョンを探索する上で欠かせない道具も諸々を買い揃える。


 そうして買い出しを終えた一行は、冒険者向けの宿を取り、翌日に備える。

 シクロは自室に篭もり、近頃は夜の習慣として根付いてきた、時計生成で生み出せる魔道具の設計、改良を続けていた。


 そんな時――シクロの部屋をノックする音が響く。


「はい。どちら様?」

「ご主人さま。少しいいですか?」

「ミストか。いいよ」


 シクロが答えると、ミストは扉を開き、部屋に入ってくる。

 そしてシクロが設計をしているのを見ると、微笑みを零す。


「ご主人さまは、いつも頑張り屋さんなんですね」

「いや、そんな立派なもんじゃないよ。こうやって何かしてないと、漠然と不安に成っちゃうだけなんだ」


 シクロは苦笑を漏らしながら言う。


「――で、ミストは何の用で来たんだ?」

「はい。用、といいますか。少し、ご主人さまとお話がしたくて」


 ミストは少しだけ、言いづらそうにもじもじとしながら言う。

 そんなミストの様子が微笑ましくて、シクロは笑みを浮かべながら頷く。


「分かった。いいよ、ゆっくり話そう」


 言うとシクロは設計をしていた作業を止めて、ミストを呼んでベッドに座る。

 ミストはシクロに呼ばれるがまま、同じくベッドに座り、隣り合わせとなる。


「――いよいよ、本格的にディープホールの攻略が始まるんですね」

「そうだな。元々は、その為に奴隷の仲間を求めて……ミストと出会って。そのお陰で、いろんなことが良い方向に変わった」


 言いながら、シクロは当時の――と言っても、それほど時期が離れているわけでもないのだが、ミストと出会った頃のことを思い返す。


「自分でも、あの頃はボロボロで、情けないとこばっかり見せてたなって思うよ。……それでも、ずっとミストはボクを信じて、付いてきてくれた。ありがとう、ミスト」


 シクロは、湧き上がる感謝の気持ちをそのままミストへと伝える。


「……ずるいです」


 ミストは、少しだけ顔を赤らめて言う。


「私が先に――ご主人さまに、ありがとうって言いたかったのに。私の方が、ずっとご主人さまに感謝してるんだって伝えたかったんですよ?」


 どこか茶目っ気を出しながら言うミストを見て、シクロは何か温かい気持ちが胸の中から溢れてくるのを感じた。


「ご、ごめん」

「うふふ。別に、いいですよ。ご主人さまに喜んで貰えているのなら、その分だけ私も嬉しいですから」


 ミストは言いながら、可愛らしく笑う。

 そんなミストを、シクロは言いようの無い感情に包まれ、何故か恥ずかしくなって目を逸らすのだった。

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