P.09:〜×月×日 ペルー某所にて〜
少々鬱展開気味です。
苦手な方は閲覧注意願います。
私は歩。
旅が趣味の人間である。
旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。
気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。
そんな旅の途中の話である・・・。
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危険度を完全に無視してこの国に入国していた私を、現地の人が驚きの表情で迎えてくれた。
何せ、紛争地帯という危険な場所である。
そして、私がここを訪れた理由を告げ、更に驚かれることとなった。
「人が乗る乗り物ではない」
そう言われる乗り物がこの地にあるらしいとの情報を手に入れ、私はここに足を運んだのだった。
普通なら、まっすぐに空港に向かえるのだが・・・。
時間はたくさんある。
モノズキな私は高山鉄道という「最凶」らしいの乗り物に乗ることにしたのだった。
だって。
高い山を登って、隣町まで行くなんてステキじゃない!
プラットフォームでトランクに腰掛けながら、私は鼻歌交じりで電車を待っていたのだった・・・。
実際乗車してみて。
・・・どこが、「人が乗る乗り物ではない」んだろう??
景色は荒涼としているけど、乗客もそこそこいるし、結構快適じゃん。
その時はまだ、そう思っていた。
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数十分くらい経った頃だろうか。
どさ。
どさどさ。
後ろから、重たい音がした。
荷物が落ちたのかな?と思って後ろを振り向いたら。
乗客3人が、倒れていた。
ひとりは顔面蒼白で、唸りながら頭を抱えている。
ひとりは、意識が混濁している。
ひとりは痙攣を起こしている。
・・・「人が乗る乗り物ではない」と言われた本当の意味を理解した瞬間だった。
高山病。
下手したら命を落としかねないぞこれ!!
炎熱地獄の列車には乗ったことはあるが、これは炎熱地獄以上の地獄だ。
携帯用の酸素ボンベを取り出し、私は口に当てて、新鮮な酸素を吸う。
動作確認の後、比較的軽症の人に酸素を吸わせた。
気休め程度にしかならないだろうが、ないよりマシだろう。
高山病の治療は低地に移動するしか方法はない。
あとの2人は・・・重症の状態だ。
即時に専門の集中治療が必要だ。
ここまで来ると、もう酸素ボンベは役に立たない。
私には、どうすることもできない。
車掌に状況を伝え、あとは間に合ってくれることを祈るばかりだ。
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幸い私は何ともなかった。
丈夫な身体でよかった・・・。
軽症の乗客は、低地に降りてしばらくしたら回復したようだった。
何を言っていたかはわからなかったが、握手を求められた。
感謝されているのだろうか?
私は握手に応じ、乗客にぎこちなく微笑んだのだった。
重症の乗客2人は、すぐに病院に搬送された。
私も救急車に乗り込もうとしたが・・・軽症の乗客が私を引きとめた。
乗客が首を横に振る。
私は歯軋りをしたが・・・頷いたのだった。
彼が言わんとした事が何となくわかったのだ。
私は彼に会釈をすると、悔しさを振り切って足早に空港へと向かったのだった・・・。
fin...
旅日記シリーズ第9弾。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
高山鉄道>>
ペルーの中央鉄道(カヤオ−ラ・オロヤ間)をイメージしています。
海抜4781メートルを走行するのだから、高山病のリスクも伴う、まさに「最凶」の鉄道です。
自然の前には、人間って無力だよね。
友人と話した時にそんな話題になった事があり、書かせて頂いた次第です。
次回は少し、登場人物の視点が変わります。