P.03回想:〜☆月△日 ヨーロッパ某所にて〜
私は歩。
旅が趣味の人間である。
旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。
気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。
そんな旅の途中の話である・・・。
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「南国の幽霊番組」の後、私は本当に彼の家に突撃したのだった。
アポなしの突然の私の来訪に彼は驚きつつも、温かく迎え入れてくれた。
お土産の腕時計型のラジオを手渡す。
案の定、珍しい物好きであり、ラジオ好きの彼は喜んでくれた。
そして私は旅の土産話をする。
そんな土産話の中の一つである・・・。
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ヨーロッパ某所の島国でのことである。
私はトランクを担ぎ、のんびりと歩いていた。
ここの所ずっと海辺を歩いていたので、緑がとても美しく感じる。
空気もとても新鮮・・・なような気がする。
トランクを降ろし、公園のベンチにどっかりと座って背伸びした時だった。
「さぁさぁ!ジョン爺の人形劇の始まり始まり〜!!」
・・・今時珍しい。
私の故郷で廃れてしまった文化が外国で未だに残っていることに、私は素直に感激した。
からからと鳴るベルの音に、子供達が集まってくる。
「ねぇねぇジョン爺。今日は何のお話をしてくれるの?」
子供の一人が、目をきらきらと輝かせながら訊いた。
きっと彼は子供達の人気者なのだろう。
「今日は妖精のお話だよ。・・・あぁ、そこの旅人さんもどうだい?いい土産話になるよ」
私に話を振ってきたよ。
・・・面白そうだし、見てみようかな?
「よぉ〜し。クリック?」
「「「クラック!!」」」
「人形劇の始まり始まり〜!!」
どうやら故郷の紙芝居屋とは違って、お金は取らないらしい。
アコーディオンを鳴らしながら、人形劇が始まった・・・。
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主人公は冒険好きのひとりの少年。
ある日、少年は森に遊びに行った。
そこは昔から「妖精が出るから、子供は遊びに行ってはいけない」と言われている森だった。
曰く、妖精に魅入られた子供は、彼らに引き込まれてしまう。
曰く、妖精に気に入られたら、一生森から出てこられない。
「そんなわけあるか」
少年は忠告を鼻で笑い飛ばし、その森に入っていった。
その森は誰も入ってこないから当然手付かずで、ふわふわとした苔の上に寝転び、少年はそのまま眠ってしまった。
しゃらさら
しゃらしゃら
微かな物音に少年は目を覚まし、目を見張った。
大人の手の平くらいの大きさの人間が、空を飛んでいる。
背中には、羽根。
その姿は、何度も絵本で見た。
妖精だ・・・
少年はそう思った。
妖精の一人が少年に近づき、七色にきらきらと輝く花を少年に差し出した。
妖精達は、少年の来訪を心から歓迎しているようだった。
楽器を取り出して、小さな音楽会を開いてくれたり。
少年の周りでくるくると踊ったり。
少年は楽しいひと時をそこで過ごしたのだった・・・。
少年が「帰らなきゃ」と思ったのは、それから7時間後のことだった。
妖精達は引き止めたが、少年はそれを振り払って森を出た。
辺りには少年の見たことのない風景が広がっていた。
一体どういうことなのか?
少年は通りかかった街人に訊ねた。
「何を言ってるんだい?今は西暦××年だよ?」
妖精達と過ごした時間は、確か7時間だったはず。
なのに、何で70年も経っているの?
・・・・・・・・・・・・・・・・・
実は妖精達の世界では、1時間は人間にとって10年に相当すること。
少年は図書室で読んだ本の内容を思い出した。
少年は時の流れにおいてけぼりにされてしまったのだった。
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・・・何と言うか、後味悪いなぁ・・・。
私の素直な感想だった。
似たような話が故郷にもあるが、まだそっちの方が救われている。
だって、帰ってきた後、時代の流れに(強制的に)対応してるし・・・。
「一瞬の楽しいことに目を奪われると、後々大変なことになっちゃうよ?わかったかな?」
「「「はぁ〜い!」」」
は・・・はぁ〜い・・・。
私もつられて手を挙げたのだった。
・・・私も、楽しそうなことにはすぐ飛びつくし、ハザードウェイな生き方してるもんなぁ・・・。
翌日
私は「泉の森」と呼ばれる森に足を運んだ。
何でも森の中央部にある湖の景色がとても素晴らしいとの事だ。
地元の人に是非と言われて、私は足を運ぶことにした。
心地よい、緑の匂いを孕んだそよ風。
・・・何だか森林浴にハマる人の気持ちがわかる気がする。
でも、残念なことに、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
山の天気は崩れやすいし、もしかしたら一雨来るか?
と思った瞬間。
轟音と共に、バケツをひっくり返したような雨が地上に降り注いだ。
ぎゃあああああっ!
私は雷が大嫌いな人間である。
私は散歩道を外れ、森の中に入っていった。
やれやれ、雨がやむまで少し休むか。
トランクから雨具を取り出そうとして、視界の端に何かが映った。
・・・羽根?
私は顔を上げた。
何もいない。
私は再びトランクに目を向ける。
しゃらさら
しゃらしゃら
微かな物音が私の耳に響いた。
再び顔を上げる。
いつの間にやら。
大人の手の平くらいの大きさの人間が、空を飛んでいる。
背中には、羽根。
その姿は、何度も絵本で見た・・・ことがある。
・・・・・・は???
あまりの事態に、私は声を失う。
これって・・・まさか・・・。
よ、妖精・・・デスカ?
私のあっけに取られた顔を見て、妖精達はケラケラとおかしそうに笑っている。
そしてするりと私から離れると、くるくると踊りだした。
周りの妖精も、楽器を取り出して演奏を始める。
彼らの楽器は、とても繊細でキレイな音色を奏でる。
きっと私たちには出せない音だろう。
独特の旋律、独特のリズム、独特の節回し・・・。
・・・何か、もっと聴いていたいなぁ・・・。
元々民族色の強い音楽が好きな私だ。
今まで聴いたことのない音楽に、私はすぐに虜になった。
気のせいか、少し眠くなってきたような・・・。
頭にぼんやりと霞がかかったような感じになった。
しばらく妖精たちの演奏会と舞踏会を堪能していると・・・。
一人の妖精が、私に花を差し出した。
七色にきらきらと輝く、小さな花。
私は受け取ろうとして
一瞬手が止まった。
昨日の人形劇。
妖精たちに魅入られると・・・どうナっチャうンだっケ?
私は霞がかった頭を強引に働かせてすぐに結論に思い至り、手を引っ込めた。
そして妖精たちにこう言った。
ごめんね。
私には帰る所があるし、帰りを待っていてくれる人達がいるの。
だから私、このお花は受け取れない。あなた達とも遊べないの。
でも、歓迎してくれてありがとう。
通じたのかどうかはわからないけど、花を差し出した妖精はがっかりしたような、残念そうな表情を浮かべた。
妖精達は一斉に音楽を奏でる。
私は強烈な睡魔に襲われ・・・。
木の葉から垂れた水滴で目を覚ましたのだった。
周りを見渡しても、森が広がるばかり。
雨はいつの間にか上がっていた。
起き上がってまず目に入った物は。
びしょ濡れになったトランクの中身・・・。
私は思わず嘆きの声を上げた。
そして。
荷物を漁っていて気づいたのだが、後で食べようと思っていたチョコレートの缶がなくなっていた事を追記しておく。
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「・・・それ、歩の夢だったんじゃないのか?」
彼は笑いながら私に言った。
夢じゃないもん。ホントに見たんだもん。
下手したら一生会えなくなってたかもしれない、えまーじぇんしーな事態だったんだぞ?
彼は笑う。
「これが本当の『フェアリーテール』。なーんてね」
何それ?
「『おとぎ話』ってこと」
誰がうまいこと言えと言った。
くっ・・・証拠写真があれば・・・!
前の国で、簡易カメラを買っておかなかったことを、ここに来て初めて後悔した。
言い返せない変わりに。
私は彼に目掛けてクッションを投げつけたのだった。
fin...
旅日記第3弾。
今回の舞台は森。ファンタジー風味で書きました。
このお話は「妖精伝説」と「コティングリー妖精事件」が元ネタになっています。
ジョン爺の人形劇>>
1:「妖精伝説」と、童話「浦島太郎」をミックスさせた、とんでもないお話になってしまいました。(本物の妖精伝説は、もっと残酷なお話です)
2:ジョン爺と子供達の間でやり取りした言葉。
「クリック? クラック!!」
これは、お話の語り部が「お話しますよ?(クリック?)」と観客に確認を取り、観客が「いいですよ!(クラック!!)」と返す、お約束のやり取りです。
・・・何か、駄文中の駄文かも・・・?
グダグダな展開になってしまったのも、ひとえに筆者の筆力不足です、はい。
もう酷評覚悟です。はい。
少しずつ勉強していきますです。はい。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。