P.02〜△月○日 日本某所にて〜
私は歩。
旅が趣味の人間である。
旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。
気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。
そんな旅の途中の話である・・・。
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そんな旅の途中。
私はある国の蚤の市で腕時計型のラジオを手に入れた。
性能は、そこらのラジオに負けていない。
ラジオフリークの彼へのお土産にしようと思う・・・。
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私はある街を訪れた。
その街には、ある都市伝説があるという。
夏の日の夕方。
FMのチャンネルを廻していると、気まぐれに受信する音楽番組があるという。
大規模なカーニバルが行われる事で有名な国の曲ばかりをチョイス。
時折、その国にまつわる豆知識を披露する。
DJはマリアという若い女。
発信源もわからない。
番組名もない。
人々は「南国の幽霊番組」と噂するようになったという・・・。
その街のホテルにて。
私はトランクを部屋に放り投げると、自身の身体もベッドに投げ出した。
うー。何日ぶりのふかふかのベッドだろう。ここの所、ずっと野宿だったもんなぁ。
枕に顔を埋めただけで、疲れがドッと出てきてしまう。
いけないいけない。
無理やり身体をベッドから引き剥がし、服の洗濯と自分自身を洗濯しに向かった・・・。
たっぷり3000は数えるくらいにバスダブを満喫し、茹でダコ状態の自分を冷房全開で冷ましながら、ふと私は腕時計型のラジオを手に取った。
竜頭型のチューナーをいじり、聴き慣れた番組が裏蓋のスピーカーから流れてくる。
西日が部屋を照らし、白い壁に私の影を落とす。
「・・・・・・・・」
私は闇雲に、チューナーをいじってみた。
番組・・・ノイズ・・・番組・・・ノイズ・・・
何度繰り返しただろうか。
それは唐突だった。
ザザ・・・・・Ah〜♪・・・・ザザザ・・・
南国の、曲。
私はハッとし、チューナーの目盛りを確かめた。
日本の放送局にはありえない数字だった。
私は更に細かくチューニングをあわせる。
ザザザザ・・・・・・で、・・・・でした。今日もビーチから見える夕日がキレイね。私のいた国の夕焼けも、とてもキレイで・・・
たぶん、これだ。「南国の幽霊番組」は。
私は確信した。
ビーチ・・・。
私がいる街も、海辺の街・・・。
そんな都合のいい事があるわけ・・・ないないっ。
私は頭を横に振ると、ベッドに座った体勢のまま横に倒れた。
しばらく相棒のトランクを見つめていたが、いつの間にか南国の音楽がメリーさんの大群を呼び・・・。
きっと、南国のヒツジさんは、頭に羽根飾りをつけてサンバのリズムに乗って現れるんだろうなぁ・・・。
くだらないことを考えながら、食事をすることも忘れて私は眠ってしまった。
・・・夜中、冷房の寒さで目を覚ましたときには、ラジオからはノイズしか流れていなかった事は言うまでもない。
翌日。
都合のいい事が起こってしまった。
夕方だというのにあまりの暑さに参ってしまい、日陰でトランクを椅子代わりにしてその場に座り込み、私は一気に水を飲み干した。
憎たらしいほどに、西日がきつい。サングラスを買っておかなかったことを激しく後悔した。
一息ついて、また私は歩き出す。
すると
微かに声と音楽が聞こえてきた。
南国の曲、若い女の声・・・。記憶を探る。
昨日ラジオで聞いたばかり。
周りを見渡すと、砂浜に一軒家がぽつり。
私は砂浜に降りた。
さくさくと砂を踏みしめながら、一軒家に辿りつく。
広々としたテラスに、様々な放送機器。
室内には大量のレコード。
ここだ。
「南国の幽霊番組」の本拠地は。
「今日も暑かったね〜。夏の日の夕暮れ、いかがお過ごしでしょうか?DJマリアです」
ヘッドホンを片手に、マイクに向かってひたすら話す。
話しベタな私には羨ましい限りのトーク術だ。
後ろでは、男の子がパタパタと彼女のサポートに立ち回っている。
ふと、彼女と目が合った。
私は立ち去ろうとしたが、彼女は「待って!」とジェスチャーをする。私は足を止めた。
「では今日の1曲目、お聞き下さい」
マイクのボリュームを下げると、彼女は私に手招きをした・・・。
「びっくりしました。ここに人が来るなんて・・・」
栗色の長い髪をいじりながら、彼女は言った。
私もとってもびっくりしました。昨日聴いたばかりの声の主に会えるなんて。
私と彼女は笑いあった。そんな女2人の様子を、男の子がそっと覗いている。
彼女曰く、男の「子」と言っても童顔なだけで、れっきとした成人男性。
「どうしてもここで働きたい」と駄々をこねられ、それ以来手伝ってもらっている「優秀なアシスタント」とのことだ。
「彼」は小柄でくりくりとした黒い双眸。
誉められたのが嬉しかったのか、頬を赤く染めているのが何とも可愛らしい。
何だか、子犬みたい・・・
私はそう思った。
ラジオ放送の真っ最中なので、彼女との会話は途切れ途切れだったけど、おおよその事情がわかった。
彼女はとにかくおしゃべりが大好きと言うこと。
自分の生まれた国のことをもっと知ってほしいと言うこと。
自分の生まれた国の音楽をもっと知ってほしいと言うこと。
ラジオ放送を始めた動機は、それだけだという。
私は幻のラジオ公開生放送を、しばし堪能することにした・・・。
「番組の終わりの時間が近づいてきました。今日最後の1曲。・・・マリアの我侭を聞いてください」
彼女はマイクに向かってそう言った。
「私、好きな人がいるんです。どうしても気持ち伝えたいけど、うまく言えなくて」
ぱさ
後ろで微かにだけど音がした。
「彼」がレコードを落とした音だった。
一瞬だけど、表情が見えた。
衝撃、落胆、絶望。
そんな色が垣間見える表情だった。
そうか、彼は・・・。
私は彼女を睨みつけた。
だが、彼女は無視してトークを続ける。
「私の好きな人、いつもマリアをフォローしてくれる頼もしいパートナーなの。
でも、好きになっちゃったら、このラジオ、続けられなくなっちゃうんじゃないかって思って。
この番組が続けられたのは、彼が色々サポートしてくれたから・・・。
男性として見ちゃって、パートナーとして見れなくなっちゃうのが私怖くて・・・」
打って変わって。
彼、目まん丸。顔真っ赤。
私も目まん丸。
「それでも私、彼のこと好きだから・・・。自分を勇気付ける為にこの曲流します」
彼女の流した曲は、有名なラブソングだった。
「サキさん・・・」
私は彼の声を、背中越しに聞いた。
既に砂浜に足を下ろしていた。
え?何でって?
・・・だって、お邪魔したら悪いでしょ?
私だって、そんなヤボなことはしたくありません。
ああもう。
何だか無性に彼に会いたくなった。
せっかく故郷に帰ってきたんだし・・・。
・・・腕時計型のラジオと、このエピソードをお土産に、このまま彼の家に突撃することにしましょうか♪
私はトランクを担ぎなおし、砂浜をさくさくと歩いていった・・・。
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その街には、ある都市伝説があるという。
夏の日の夕方。
FMのチャンネルを廻していると、気まぐれに受信する音楽番組があるという。
大規模なカーニバルが行われる事で有名な国の曲ばかりをチョイス。
時折、その国にまつわる豆知識を披露する。
発信源もわからない。
番組名もない。
でも、DJはマリアと言う若い女ひとりから、ふたりに増えたという・・・。
fin...
旅日記第2弾。
私は自称・ラジオフリークです。
職場でFMヨコハマが流れていて、いつの間にかラジオ好きになっていたと言うか・・・。
NOEVIR SAÚDE! SAUDADE(J-WAVEより放送)が大好きで、そのテーマに沿ったのと・・・。
あと、歩の考えとをミックスさせた結果、こんなお話ができちゃいました。
自分の思っている事・知っている事を、大勢の人に知って欲しい。
こう思っている人って、たくさんいると思うんです。
歩もその一人で、「ブログ」「小説」という形で出しています。
それだけじゃなくて、ある人はエッセイや小説だったり、またある人は写真や絵で表現したり・・・。
無線をやっている友人がいますが、
「もっと規模を大きくしたいよなぁ」
そう思って、そして歩の大好きな「FM放送」に的を絞りました。
一応登場人物にも設定はございまして・・・。
DJマリア
ハーフという設定にしているので「マリア」と「サキ(咲)」の2つ名前があります。
「彼」が最後の方に「サキ」と呼んだのは、そういう理由です。
日系3世。
おしゃべりが大好きで、母国の事をもっと知って欲しいと思っている、愛国心の強い女性。
「ラジオ」という手段を通し、自分の趣味も兼ねて番組を放送しています。
マリア側の「彼」
ちゃんと名前は考えてありますが・・・あえて出しませんでした。
たまたま聴いたマリアの放送に聴き惚れて、彼女のアシスタントに志願。
彼女が断り続けても3日3晩軒下に居座り、彼女が根負けしたという逸話も持っていたりします。
言葉少なで照れ屋。マリアの事が大好きな青年。
*尚、マリアがやっていることは、現実世界では「海賊放送」という立派な違法行為に当たりますので、よい子はマネしないでください。




