Last page ~△月×日 日本某所にて~
私は歩。
旅が趣味の人間である。
旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。
気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。
そんな旅の途中の話である・・・。
―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
何があったんだろう?
悪い事じゃなきゃいいけど・・・。
いつもと違う彼の手紙に、私は戸惑いを隠せなかった。
そわそわ、落ち着かないけれど今私がいるのは空の上。
故郷に向かう飛行機の中なのだ。
到着まで、あと10時間以上もあるのか・・・。
私はアイマスクを顔に引き下ろしたものの、なかなか眠れずにいたのだった・・・。
―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
そして10数時間後。
まる1日座りっぱなしだったので、私は思いっきり背を伸ばした。
次いで、大あくび。
「お前はトドか」
いつの間にやら。
後ろにいた彼から頭を軽く叩かれ、私は完全に目が覚めた。
一度彼の家に行き、荷物を置く。
「今日一杯休んで、明日から出かけられそうか?」
"大丈夫だけど、何?"
彼は、少し遠出をしたいと言った。
私はもちろん快諾。
今回は相棒のトランクには、お留守番していてもらおう・・・。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
翌日。
家を出て、彼が切符を取っていてくれたので特急電車に揺られて早1日。
その間、私は気が気ではなかった。
「大事な話がある」
そう手紙には書かれていたが、彼は私の旅の土産話ばかり聞いてくる。
私の話を聞いて嬉しそうにしているので、何だか聞きだせる雰囲気ではなかった。
「次は〜***〜***〜」
車掌のアナウンスが響いた。
「降りるよ」
そう言うと、彼は席を立った。
降りた先は、とても桜が綺麗な所だった。
"・・・えーと?何でここに来たの?"
「何、たまには一緒に出かけて、花見でもしたいなと思っただけさ」
彼は笑いながら言う。
(大事な話しは一体どこへ?)
そんな疑問が頭から離れなかったが、取りあえず彼の後に付いていく事にした。
緩い坂道をひたすら登る。
頭上には桜のトンネル。日本でしか味わえない風景。
近くに学校があるようで、チャイムの音が聞こえた。
あれ?この景色、どこかで見たような・・・?
坂を上った先は、開けた野原になっていた。
そこに大きな桜の木が一株。
その木の下に・・・
「あっ!本当に来てくれたんだ!」
その姿は紛れもなく、あの時の「桜の木の下の青年」だった。
青年は少しだけ、大人びた顔立ちになっていた。
"へ・・・?何で君が・・・?"
私は呆然。
すると、青年は出会った時のように、不機嫌そうな顔になった。
「去年の今日、旅人さんと俺が会った日じゃん」
"え・・・!?"
慌てて手帳をめくる。
「彼から俺の家に手紙が届いたんだ。彼の手紙には、歩から住所を聞いたって書いてあったからね」
確かに私の明確な住所は彼の家だけど・・・うわぁちゃんと手記になっていました。
「で、お前さんは『来年もまた行こう』って言ってたのを覚えててね。今日に間に合うかどうか焦ったよ。地球の裏側にいるって言ってたからさ」
彼が、更に追い討ちをかける。
「忘れてたの〜?」
"ごめんなさい。完全に忘れていました"
私はジト目の青年に、思いっきり頭を下げたのだった。
"てか、何でお互いに知りあったわけ?"
どうやら彼と青年は、何度かの文通を通して彼と友人なったようだ。
彼は初対面の人に対しても、先入観を持たずに心を許せるタイプの人だ。
それ故、友人も多い。
何回か実際に会った事もあり、手紙上だけではなく現実でも良い友人になれたらしい。
「もうちょっとで『あいつ』も来ると思うよ」
あいつ・・・青年の友人の事だ。
「お〜い!生きとったかぁ〜?」
噂をすれば何とやら。
ここまであと数メートルという所で、青年の友人が大きく手を振りながら歩いてきた。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
「生きてんよバーカ!あとゲストがいるよー!」
大声で叫びながら、青年は答える。
「ゲスト?って、あ!去年のトランク担いどったおねーさんやないですか!?」
"・・・すれ違っただけなのに、よく覚えてたわねぇ・・・"
「俺、ミョ−な所で記憶力はいいんです。いっぺん話してみたかったんですわ〜・・・って、え〜と、お隣りの方は、おねーさんの彼氏さん?」
興奮状態から一転。尻すぼみになりながら、ご友人が彼に聞いた。
「えーと、まあそうです」
苦笑しながら彼は答えた。
「文通で仲良くなった例の人だよ。おめーも会いたがってただろ?」
「うわー、うわー。マジかいな!?」
ご友人、今にも踊りだしそうな感じです。
青年と彼は目を合わせると、ニッと笑った。
「セッティング、苦労しましたよねー。こいつは滅多に連絡とれなかったし・・・」
青年は友人を指差し。
「ああ。歩は地球の裏側にいるし・・・」
彼は私を横目で見て。
「「すい(ん)ません」」
私とご友人は恐縮しながらも、彼と青年のサプライズを嬉しく思っていた。
私もご友人と話してみたかったしね。
4人の各々の近況や、他にも彼との事で色々と質問攻め(主にご友人から)をされては青年に頭を叩かれ、私の旅の土産話等々・・・。
日が暮れるまで4人でどっぷりと話し込んだのだった。
大事な話って、この事だったのかな?
その割にはふと真面目な顔になる彼が気になって、私は首をひねった。
-*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
「それじゃあね〜」
「また来年〜」
青年とご友人と別れた後、そこには私と彼がぽつりと残された。
辺りは夕焼け空から夜空に変わりつつある。
「少し、歩こうか」
彼の提案に私は頷いたのだった。
丘を降りるころには完全に日は落ち、所々で桜がライトアップされていた。
"うわー、夜桜なんて初めてだよ!あの二人のことも含めて、ホントにありがとね。"
「・・・え?あ、うん。どういたしまして」
「・・・どうしたの?」
何だか彼がそわそわしてる。
「あーと・・・。今回の事もそうだけど、・・・最近妙に鉄砲玉なお前さんが危なっかしくて感じていての」
"はあ・・・そりゃ危ない事は何度かしてますけど・・・。反省もしていますよ?"
「あ、自覚はしてるのね。じゃなくてだな。そのー、何だ?放っとけないと言うかだな。そうだ!うん」
"・・・いきなり自己解決されても困るんだけど・・・"
困惑度、プラス10。
「すいません。それは口実で、俺も寂しいんです!」
うぁ珍しい!彼が大声出したよ!
"逆ギレ!?確かにあちこち行ってばかりだったけど・・・"
「・・・ちょっとは俺の側にいてほしいんだよ」
頬をぽりぽりと掻きながら、彼はようやく本音を出した。
"あー・・・そゆこと。しばらく旅に出るの控えようか?"
「いやっ!それはしなくてもいい!」
・・・彼の言わんとしている事が、さっぱり理解できない。
「俺は旅をして、旅の事を話しているお前さんの顔が好きなんだ。で、付きあってそこそこ経つだろう?・・・だからさもっとそれを身近で見たいと言うか・・・一緒に同じ事や同じ景色を見たいと言うか・・・だから」
その次の彼の言葉に
私は顔から火を吹いたのだった。
*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―
私は歩。
旅が趣味の人間である。
だけど今は 旅をしてない。
旅の相棒の大きな革のトランクは、ちょっとの間お休み中。
その代わり、左薬指の指輪が相棒とバトンタッチ。
気の向くまま、時の流れるまま、私はどこまでも行く
どこまでも行くけれど・・・
しばらくはここ(彼の側)にいよう
fin...
旅日記シリーズ最終話。最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。
忘れかけていた約束を、彼の助力で「桜の木の下の青年」との思い出し、果たせた歩。
ちょっとだけ成長した青年と彼が友人同士になり、新たに友達が加わって、そして最後には・・・。
彼は生涯のパートナーとなりました。(現実でも、今山菜は結婚準備段階です)
私は友人作りが得意でもあって、また友人同士を引き合わせる仲介人めいたことをすることもあります。
お互い知らない人同士だけど、「山菜にはこんな友達がいるんだ」と知ってほしい、仲良くなれたら尚グッド。
おせっかい焼きだと自覚もしていますが、仲良くなれたとき私はとても嬉しくなってしまいます。
こちらの物語を書いていた時、まさに友人関係で上記のような状態だったのと、最後の最後で歩が宣言していた「来年の今日、またここに来よう」という決意の結果を出すことができました。(日付は、P.05と同じ日付になっています。丁度一年後と言う事で)
これをもちまして、旅日記は一旦終結とさせて頂きます。
完投した自分、お疲れ様。
ずっとお読み下さった方々、本当にありがとうございました。
でも、これだけじゃ終わりません。
どうやら歩の日記帳の欄外に、「メモがき」が残っているようです。
次回おまけ:~メモがき~
もうしばしの間、お付き合い下さい・・・。