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旅日記  作者: 山菜歩
17/20

P.16: 〜△月×日 ブラジル某所にて〜

私は歩。

旅が趣味の人間である。

旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。

気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。

そんな旅の途中の話である・・・。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


皆様は、「南国の幽霊番組」を覚えていらっしゃるだろうか。

今私は、「南国の幽霊番組」のDJ・マリアの故郷に向かっている。

ホテルに滞在している時、彼女から彼経由で私宛にカーニバルのお誘いの手紙と、チケットが送られてきた。

例の子犬クンも連れて来るという。

子犬クン、元気かなぁ・・・?



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


空港に降り立つと、熱を帯びた風が吹きつけてきた。


ここは南半球。

故郷はまだ肌寒い季節だが、まだこちらは残暑真っ只中。

この国の気温が大規模なカーニバルよって、更に10度ほど上昇する時期でもある。


当然人が集まれば、治安の悪さも比例する。

それを押してでも見てみたいと思うのが人間のサガなのではないだろうか。

いや、これは私の自論なんだけど。


そんな訳で、ホテルのセーフティボックスに即興でこしらえた段ボール製ダミートランクと、

「ばーかちん♪残念でした」等々けなし文句満載のダミーの札束を入れた財布を残したのだった。


メッセンジャーバッグ一個に、最低限の額のお金、水筒を詰めていざ出陣!


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


そして、再会。

Oiオゥイ.歩」

"やっほー、マリア"


挨拶を交わすと、ふたりはあの時と同じく笑いあった。

そこに、牛のバーベキューを5〜6本と、豆のスープを抱えた子犬クンが帰ってきて、きょとんとした目でこちらを見ていた。

きっと彼女から、何も言われてなかったのだろう。


入場チケットを入手に出来たのは、彼女のおかげだ。

カーニバルのチケットは競争率が高く、販売開始数分で即完売するほど。

それでも見たい人は、ダフ屋に頼ることとなる。

ダフ屋もダフ屋で、客の足元を見ているのだろう。

日本円にして、8万円を軽く超える額で売りつけてくるらしい。

彼女がチケットを格安で手に入れられたのは、知人がチケットを取り扱っているらしいのだ。

子犬クンに関しては、日頃の感謝と慰安旅行のプレゼントだそうな。

・・・深くは追求しないが。


「さ、行きましょう」

「サキさん!スープがこぼれる!」

"ああぁ・・・コロッケ食べたかったのにぃ・・・"

ふたりの抗議を無視して、マリアは子犬クンと私の手を引き、会場内へと進んでいった。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


会場内は熱気があふれ返っていた。

マリア曰く「あと10分遅かったら、中に入れなかったわ」とのこと。

現に入り口付近は修羅場と化している。


「牛肉コロッケにに包み肉、甘いのがいいんなら、とうもろこしのお菓子にチョコレート。ちょ〜っと一杯やりたいんなら、ビールに糖キビのカクテルあるよ〜」

よくもまあ、あそこまで営業トークが浮かぶもんだ。

コロッケを買い求め、私が思わず感心していると。

「ねえ」

牛のバーベキュー4本目に取りかかっていた子犬クンが、勢いよくこちらを見た。

よく食うね、キミ。

"おお、初会話。で、何?"

「サキさ・・・マリアさんに、酒、飲ませないでね」

"それはわかったけど、何でそんなに必死の形相なの?"

「・・・サキさん、ひどいからさぁ」

"・・・ほう。"

「火のない所に煙をおこすタイプだから・・・」

"・・・・・・あそう。"

「意外でしょ?」

"まあ確かに・・・。なら、私にも飲ませない方がいいぞ。"

「・・・え?」

"私も荒れるらしいから。"

「え・・・?『らしい』・・・って・・・?」

"私ほとんど飲まないんだけど、飲んだ時にやったことを覚えてないの。"

子犬クンはがっくりと肩を落とした。

「俺の周りには、酒乱しかいねぇのかよ・・・」

私は「どんまい」的な意味をこめて、彼の肩をぽんと叩いた。

"君と彼を、一度話させてみたいよ。"

はぁ・・・。

子犬クンは大きなため息をついた。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


時間まで3人で雑談をしていた。

マリアと子犬クンは、めでたく恋人同士になったとか。(こんにゃろめ)

その後彼もDJに加わり、今はふたりでラジオの運営をしているらしい。

最初はなかなか話すことが出来なくて苦労したと、子犬クンは苦笑していた。

「でもだいぶ上達したのよ?」

「そ、そうかなぁ〜?」

マリアの一言に、顔を真っ赤にして照れる子犬クン。


うん。彼の本名も教えてもらったけど、これからも子犬クンと呼ぶことにしよう。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


オープニングの音楽と共に、カーニバル開演。


その瞬間、会場はものすごい歓声に包まれた。

流れてくる地響きにも似たサンバのリズム。

子犬クンは「うわ!」と声を上げ、両耳を塞いだ。

「すごいでしょう!打楽器の演奏隊だけでも200名以上いるのよ」

絶叫に近いマリアの説明によると、1チームが千人単位の大規模な構成で、山車もたくさん。

制限時間内に、とにかく踊りまくるというのだ。


大規模な移動ステージでダンサーがステップを踏み、観客にアピールする。

そして・・・

「ここの会場は、コンテストも兼ねているの。だから、みんな必死よ」

マリアの解説に、私は2度頷く。

子犬クンも「すげー!すげー!」とはしゃいでいる。

あ、チームの旗を持っている美女に投げキッスされて顔真っ赤にしてる。


私は言葉も出なかった。

いや、言葉なんて必要なかった。


マリアはくすっと笑うと、

「この会場は、いろんなサンビスタ(サンバの名手の事)を生み出した所でもあるの。競争意識も芽生えるけど、サンビスタとオーディエンスが一体になれる。このカーニバルのいい所よ」

"それ、すっごくよくわかる"

言葉にしなくても、見ているだけでチームの熱気と情熱、そしてこのカーニバルへの思いと観客を楽しませたいと言う気持ちがひしひしと伝わってくるから。


気が付くと、私も子犬クンも踊りだしていた。

その様子を、マリアは微笑ましげに見ていた。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


長かったようで短かったカーニバルが終わって・・・

「何言ってるの?まだまだ終わりじゃないわ」

「はいー!?」

"へ・・・?"

子犬クンと私は、同時に声を上げた。

ふたりともすでにへロヘロである。

舞踏会バイレに行かなきゃ、カーニバルに来たとは言えないわ」

対称的に、彼女はピンピンしている。

「サキさんまさか・・・お酒・・・」

「ええ、もちろん!」

「うあああああぁっ!いつの間に!?」

「あはははは!」

頭を抱える子犬クン。

からからと笑うマリア。

彼の証言を信じるのなら・・・今夜は荒れるな。

ちょっとスカしてみたのだが・・・私の予想は見事に的中したのだった。


主要ホテルやバーで、バイレは行われる。

周りの客が汗みどろの乱痴気騒ぎしている勢いもあり、マリアは大暴走。

子犬クンと私はダンスにほとんど集中できず、彼女のブレーキ役にまわっていた。

結局解放されたのは明け方だったのだった・・・。


私の宿泊先のホテルまで、3人で歩いて行った。

あれだけ騒いでおいて、未だに元気なマリア。

「「お疲れ」」

子犬クンと私は、ぐったりしながらもグータッチで別れたのだった。


・・・何だか彼と、妙な友情が芽生えたようだ。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


うー・・・。

イタリアに引き続いてのお祭り騒ぎだったけど、国によってここまで違うとはなぁ・・・。


シャワーを浴び、ベッドに横になったはいいけど、私は眠れずにいた。

身体は疲れているけど、興奮しきっていて頭が冴えているのだ。


"寝れて起きたら、歌で有名になった海岸にでも行ってみようかな?"

心の底からのんびりと過ごしたいと思ったのは、本当に久々の事だった。


身体がギシギシ痛いし、当分動きたくないかも・・・。



fin...


旅日記シリーズ、第16弾。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

「南国の幽霊番組」に関しましては、「旅日記→P.02」を参照して下さい。


そしてお祭り企画3編、書き上げることができました!

日本、イタリア、ブラジルの3つは、「いつか書こう」と思っていたお話でした。


今回の舞台>>

ブラジルはリオ・デ・ジャネイロでございます。


リオのカーニバルは、2月下旬~3月上旬くらいに行われるそうです。

一度カーニバルの写真集を見せて頂いたのですが、衣装も舞台セットも素晴らしい!

音楽はラジオでしか聴いた事がないのですが、是非是非生で見てみたいものです。



「どんな形であれ、自分を表現できる人が羨ましい」

私の知人が言っていた言葉です。

ふとその言葉を思い出し、そして私自身も体験した事のある「ダンス」をお題にして書いてみました。

・・・私、学生時代に南中ソーランを踊ったことがあって、その大将をやった事があるんですよね( *--)σ

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