P.15: 〜△月×日 アフリカ某所にて〜
私は歩。
旅が趣味の人間である。
旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。
気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。
そんな旅の途中の話である・・・。
何だか変わった・・・と言うより、変な名前が多い部族だ。
たまたま電車から降りた先で見つけた部族の印象だった。
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部族の人によると・・・。
首長が名前をつけることになっていて、「首長がテントから出た時に見たもの」の名前をつける。
サンライズとか、ブルースカイとかならまだわかる。
シルフも何とかOK。
きっと強風でも吹いていたのだろう。
ただ・・・。
明らかにおかしいだろ的な名前が・・・
フライングバード?
ツードッグファイト??
ボルケーノ???
・・・・・・・・・・
うちの故郷に来たら、明らかに新聞の三面記事モノですよ?
・・・でも、ボルケーノは何か分かる気がする。
どこかの奥さんが怒り狂っていたのだろう。
私のネーミングセンスはゼロだが、首長ほどひどくはない・・・と自信を持って言える・・・ようになった。
今日初めて。
・・・嬉しくないけど。
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昼食を振舞われているときに小耳に挟んのだが、表立っては言わないけど、部族の人々も首長のネーミングセンスには辟易しているらしい。
“そりゃあ、そうだよなぁ・・・。
むちゃくちゃな名前、付けられたくないもん。”
私はぼそっとつぶやいたのだった。
部族の人々も、私の一言に苦笑していた。
昼食後。
やはり長老も私の発言を耳にしたていたのか、長老が私に提案した。
「今日、赤ん坊が生まれる。そこまで言えるのなら旅人さんが名前をつけてくれ」
と。
私は快諾した。
出産シーンに立ち合いたかったが、部族のしきたりで、産婆と夫以外の人が立ちあう事は禁止されているとのこと。
・・・一女性として、経験してみたかったんだけどなぁ・・・。
待つしかないか。
来客用のテントがあてがわれ、私は夜明かしした。
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・・・夜中。
不穏な会話が風に乗って私の耳に入ってきた。
・・・ふぅん。そう言うこと。
私はトランクから、ある物を取り出した。
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明け方。
おぎゃぁ・・・おぎゃあ・・・。
いつの間にかテントの骨組みにもたれかかって、うとうとしていたらしい。
私はテントから出て、外を見る。
「無事に生まれましたぞ!さあ旅人さん、この子のお名前を!」
赤ちゃんは女の子だった。
実はもう、私は決めていた。
"ティアナ"
"ここの国の言葉ではありませんが、「夜明け」という意味です。そして、私がテントから出て、始めに見えた物です"
部族の人々は「おおっ」と歓声を上げた。
「素晴らしい!」
「いい響きだ!」
えへへへへ。
誉められて嬉しかったけど・・・。
首長はプライドをいたく傷つけられたらしく、私に敵意を向けていた。
側近の男達に命じて私の周囲を取り囲む。
やっぱりね。
おぉ、棍棒持ってるよ。
同時に私は動いていた。
後ろ手に持っていた、缶ジュースほどの大きさの黒い缶のボタンを押し、うろたえたふりをしながら、数秒待つ。
そして、缶を彼らの方に放り投げた。
彼らが一瞬たじろいだ瞬間、私はをトランクを抱えて回れ右。
一番弱そうな男を蹴り倒して、猛ダッシュ。
3・・・2・・・1・・・はいっ!
「はいっ!」という心の掛け声と同時に、ガスの噴出音と共に苦痛の悲鳴が上がったのだった・・・。
前日から、不穏な空気が漂ってたのは感じ取っていたんだよねぇ・・・。
昨晩、グレネ―ドタイプの催涙スプレーの安全キャップを外しておいて正解だった。
てか、寝込みを襲われると思ってたんだけどなぁ・・・?
取りあえず、赤ちゃんに被害が及んでいませんように・・・。
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5分ほど走り回って、鉄道に飛び乗る。
さてさて。危機も脱したことだし。
今度はどこに行こうかなぁ?
私は荒い呼吸をしつつ、青いラベルのスポーツドリンクを一気にあおったのだった。
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で。
赤ちゃんの名前だけど・・・。
・・・「ある物」の名前だったと言うことは内緒にしておこう。
だって私、ネ―ミングセンスゼロなんだもん。
そう言う私も、やっぱりあの首長に負けていないかもしれない・・・。
fin...
旅日記シリーズ15弾、最後までお読み頂きありがとうございます。
アメリカンジョーク全開でお届けしました。
本当のアメリカンジョークでは、もっと卑猥な名前が出てきますが、作品削除されるのを恐れて極力ソフトになるようにしました。
そこが一番苦労したかもしれません(ぇ
最近よく聞く、(歩に取っては)珍妙な名前。
どう考えても、名前の響き重視で、使っている漢字はもはや当て字。
新しい読み方まで作っちゃうツワモノも。
・・・その辺はある意味、感心していたりもするのですが・・・。
あと、意外と多いのは「憂」を使った名前。
「何で?」と思った方!
辞書を引いてみてください。
教養って大事だなぁ…。と思う次第です。
赤ちゃんの名前>>
「ティアナ」という「自動車」の名前です。
意味は作中に書かれている通りです。
お前はアホかと突っ込まれるのは覚悟の上です。
歩の危機脱出シーン>>
リアルの私は、あんなに機敏には動けません。
パニくるのがオチです。
ちょっと書いてみたかったのです。
さてさて・・・>>
実はこの旅日記シリーズ、終わりまで第3コーナーを切りました。
今後の展開は、かなり急になるかもしれません。