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旅日記  作者: 山菜歩
15/20

P.14: 〜◎月◎日 イタリア某所にて〜

私は歩。

旅が趣味の人間である。

旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。

気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。

そんな旅の途中の話である・・・。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


いい時期にここを訪れた。

以前から興味を持っていたカーニヴァルと重なったのだ。



マスケラをかぶった仮装行列で有名な街なので、今私は仮装パーティーを堪能しているのだが・・・。

どうやら明日、オレンジ投げとやらをするらしい。

以前訪れた国の、トマト投げ祭りみたいなモノなんだろうか?

(トマト好きの友人は、『なにぃぃぃぃ!?農家が一生懸命育てたトマトを(以下略)』って小一時間ほど憤慨してたっけ)

怪我しないのか?

謎は深まるばかりである。

マスケラの下で、私は眉根を寄せた。


・・・ちなみに私は今、黒いマントを羽織って赤い羽飾りの付いた、顔の上半分を覆うマスケラを着けている。

マスケラは、目の部分が金色のアラベスク模様に縁取られている


断っておくが、ウケ狙いではない。

決してびっくり人間の人ではない。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


スタンドバーでレモネードを片手に、バーのオーナーと話していたところ。

本当に、丸のままの生オレンジを投げあうとの事。


"けが人は出ないんですか?"

「いえ。けが人は毎年出ますよ」

そんなきな臭い事、笑顔で言わないで下さい。

私は少し身を引いた。

"・・・さぞかし、凄いんでしょうねぇ・・・"

何とか相槌を打つ。

「もう壮観ですよ!通りは一面オレンジ色!飛び交うオレンジ!すっきりしたオレンジの香り!」

確かに非日常的な光景であるとは認めます。掃除の人が大変だろうなぁ。

つか、「オレンジ」連呼しすぎです。

何故か気圧され、更に半歩後ずさる。

「旅人さんも、ぜひ参加されてはいかがでしょうか」

ボーイの口調と笑顔で、きな臭くて血生臭い事を言わないで下さーい!

"は、はぁ・・・"

完全に私はドン引きし、部屋に戻った。


無論、夕食のデザートのオレンジは残したのだった。

あんな話しを聞かされたあとじゃあ、ねぇ・・・?


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


翌朝。

フェスティバルのスタッフの声で目が覚めた。

カーテンを開け、外を見る。

うぉ・・・。

トラックから運ばれてくる木箱には、オレンジの山、山、山・・・。

(あれを投げるのかぁ・・・)

私は思わず、感心のため息を漏らした。



会場では、参加しない観客には赤いかぶり物の着用が義務付けられている。

私は赤いバンダナを装着した。

今年は様子を見て、面白そうだったら来年参加しようと思う。

「無いよりはマシ」程度の装備で、最前列に陣取る。

何でも観客にも被害が及ぶほど危険らしい。


オレンジ合戦の背景としては・・・

中世の独裁主君の圧政に苦しんだ、英雄率いる庶民達が一揆するシーンを再現したお祭りらしい。


悪役の馬車が会場にたどり着いた瞬間・・・

うおおおぉぉ!という掛け声と共にオレンジが飛び交う。


うおぁ・・・こりゃ確かに一面オレンジ色!すっきりしたオレンジの香り!

何か故郷の冬場の豆投げに似てるけど、怖ええぇぇぇ!!


観客もヒートアップして、歓声と野次が混じった声援を参加者に飛ばす。


うわぁぁぁ・・・お兄さん鼻血出てるよ!

あわわわ・・・オバサマ!エキサイトしないで!つか素手は反則でしょ!?

ひゃああ!リーダーのお姉さん、額割れてるから!美人が大無しですよ!?


きな臭くて血生臭さ全開な会場とは裏腹に、立ち上るオレンジの爽やかな香り。

カオス過ぎますってばぁ!?


絶対に参加しない。

そう心に決めた瞬間。


ごす


後頭部に鈍い衝撃。

足元に転がるオレンジ。

・・・けが人が出るって理由が、身を持って分かった。

痛いよこれ。


ただ、私は変な方にスイッチが入ってしまった。


"誰だぁーっ!?私にオレンジぶつけてきたやつはぁー!?"


私は一気にヒートアップ。

バンダナを剥ぎ、奇声を上げて群集に特攻していったのだった・・・。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


結果。

頭にたんこぶ2つ。

腕と肩、背中に青あざ6個所。

全身から立ち上るオレンジの香り。

私の被害状況だ。


オレンジ投げが行われたストリートも、アスファルトの部分を探す方が難しい程に、オレンジの残骸で埋めつくされている。


さすがのホテルマンも、私の様相に驚いていた。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


部屋に入り、服と全身の洗濯をする。


しっかし、この国で妙にすっきりしたなぁ。

ここの所、物書きがスランプ気味だったし、仮装行列は、前から興味があったイベントだったし、友人達に教わったダンスが役に立ったし・・・。


いいリフレッシュになったかも。


"彼と友人達に、報告がてらに手紙でも書こうかな?"

湯舟に浸かり、痛む頭をさすりながら私は思ったのだった。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



余談。


夕食のデザートのオレンジは、しっかりと残したことを追記しておきます。


あんなオレンジ色の凶器、当分見たくないやーい!!!



fin...


あとがき


旅日記シリーズ14弾、最後までお読み頂きありがとうございます。


歩大暴走の巻です(笑)

それもそうですが、一度は訪れてみたい国のお話を書くことが出来ました^^



オレンジ合戦>>

イタリアのイブレアで、カーニヴァルの締めとして行うそうです。

作品内では歩が特攻していきましたが、実際には観客席にはケガ防止のための網が張られます。

それでも観客が巻き込まれる事もあるって・・・。

相当エキサイティングなんでしょうねぇ・・・。怖っ!



仮想行列>>

ものすごく興味のあるイベントです。

マントを羽織って、仮面をかぶって、踊ってみたい・・・←ただのアホです。

実際に箱根でマスケラ(仮面)を見たことがあるのですが、どれも美しい。

本場イタリアに行けば、一点ものの貴重なものもあるそうです。

まさに芸術品です。

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