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旅日記  作者: 山菜歩
14/20

P.13: 〜●月※日 アメリカ某所にて〜

私は歩。

旅が趣味の人間である。

旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。

気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。

そんな旅の途中の話である・・・。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


地元の方に「是非」と言われて来たけれど・・・。

こりゃ、すごいや・・・。



現在は暦の上では真夏。

でも、私の目の前は白一色。

万年雪かと思ったら、ざらりとした感触が靴越しに伝わってきた。

何とも驚いたことに塩の平原だと言う。

・・・さすがに口にはしませんよ?興味はあるけど・・・。


ざく ざく ざく ざく


少々重たい足音を立てながら、私は真っ白な平原をひたすら歩いていた。

視界の端に、何かを捕らえる。

そちらに目を向けると、一軒の小屋があった。

私は進路を変え、その小屋へと向かった。


・・・・・・・何においてもそうなんだけど、私の思考って、危険より興味の方が勝っちゃうんだよなぁ・・・。

危ないことに遭遇するたびに、いつも彼や友人達から「いい加減その癖を直せ!」って怒られるくらい。

でも、私は快楽主義者で自称・開拓者なのだ。

ふはははは。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


小屋には男性がいた。

小屋の中は、キッチン・リビング・本棚。そして、エアコン。

必要最低限の物しか置いていなかった。


「ここまで来る人は珍しい」と言われた後、冷えたミネラルウォーターを頂いた。

何せ外は50℃近い炎熱地獄。喉もカラカラである。

普通の人なら、この時期に来ないとの事だ。


"なら何故、あなたはここにいるんですか?"

私は聞いた。

「え?」

私の問いに、彼は不思議そうなイントネーションの声を上げた。


"・・・いえ、食料の買い出しとか不便そうじゃないかなぁ、って思って・・・"

「はは。食料に関しては、業者さんの定期便が来るんだ。おかげさまで不自由していないよ」


ああ、なるほど。

私は納得し、頷いた。


彼はミネラルウォーターのおかわりを私に注ぐと、話を始めた。

「ここに住み始めたのはね、"彼女"の面影を探しているからなんだ」


"・・・はい?"

突然話が飛んで、私は首を傾げる。


「彼女とは、雪の舞う冬に出会ったんだ。お互いに本当に一目惚れだった。もう、即座に永遠を誓ったくらい」


・・・やはり興味が勝った。

男性の話に耳を傾ける。

私、意外と恋話が好きなのよねぇ・・・。


「でも、彼女は冬の終わりに亡くしてしまった。持病が急激に悪化したんだ。身体が弱いのは知っていた。でも突然すぎたよ・・・」

・・・・・・

「もちろん私はショックだったさ。神様を恨んだよ。でも・・・」


"でも?"


「彼女との思い出に浸れる場所を見つけられたんだ」


"・・・それがここだったと"


「そう!管理人さんに必死に頼み込んで、管理者として住まわせてもらったんだ!」


"・・・この、炎熱地獄的な場所に・・・?"


「うん。それは承知の上だったさ。でもさ・・・」


彼は一拍置いて口を開いた。




「ここは一年中『冬のような風景』だろう。溶けない雪に囲まれて、好きなだけ彼女との思い出に浸れる。あの頃に戻れるんだ」


・・・・・・。

私は外を眺めた。

確かに、一面の「冬景色」。


「ああ、つまらない話を聞かせたね。済まなかったよ」


"いいえ。素敵なお話しをありがとうございました"


男性からミネラルウォーターを分けてもらい、丁重に礼を言ってから小屋を後にした。




塩の平原を「溶けない雪」と彼は例えた。

きっと彼の時間も、彼女が亡くなった時に止まってしまったんだろう。


過去の思い出を大切にしているのか。

それとも

届かなかった思いに、ずっと繋がれたままなのか。


私には判断できなかった。

どっちもありなような気がしたし、どちらにしても、私には否定する権利はなかったから・・・。


でも・・・。

何とも複雑な心境で、私は塩の平原を後にした。


旅日記シリーズ13弾。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。


今回の舞台>>

デスバレー国立公園です。

その中の塩湖が舞台となっております。

あまりの暑さに塩水湖が干上がってしまい、砂漠一面が真っ白に見えます。


作中の歩は夏にここに訪れたのですが、これは自殺行為なのでやめておきましょう。

57℃という最高気温を叩き出した場所でもあり、水分があっても塩辛くて飲めない。

このような経緯から「デスバレー(死の谷)」と呼ばれるようになったのです。


観光シーズンは1月〜3月くらいがいいと言われています。


私なら>>

恋人を亡くしたことを受け入れ、気が済むまで泣いたら、また前を向いて歩いていくと思う。


歩けないほどの悲しみにあるのなら、その場に留まっていてもいいと思います。

ただ、前だけは向いていてほしいと。


辛い境遇にある人に対して、いつも思う事です

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