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旅日記  作者: 山菜歩
13/20

P.12: 〜※月?日 日本某所にて・後編〜

こちらはP.12: 〜※月?日 日本某所にて〜の後半部分となっています。

まず前編をお読みになってから閲覧されることをお薦めします。

私は歩。

旅が趣味の人間である。

旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。

気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。

そんな旅の途中、私は迷子になった・・・


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*ー


「ここは『袋小路』と呼ばれる所でね」

民家の縁側に座ると、おじいさんはそう言ったのだった。


おじいさんは呆けた私の手を取り、勝手に民家の庭に入りこんだかと思ったら、ちゃっかり冷酒を拝借していた。

私にも勧めてきたが、私は超下戸なので丁重にお断りした。


"袋小路・・・ですか?"

冷酒代わりに拝借した麦茶を飲みながら、私は聞き返す。

「ああ。物事に行き詰まって先に進めない時に『袋小路に迷いこんだ』と例えるでしょう」

おじいさんはぐいと杯を空け、腰のポーチから煙管を取り出した。

手早く組み立て、手近にあった火の付いた蚊取り線香で葉に火を付ける。

うまそうに煙を吐き出し、満足そうに頷いた。


うん?どこかで見たような表情だなぁ・・・?


「時々迷いこんでくるのがおるんですよ。いろいろな事でにっちもさっちもいかなくなった人が。わしゃあここの番人みたいなモノですわ」

"その方達は、どうなったんですか?"

「知らん。でも8割がたは『袋小路』から抜けていくんだがねぇ」

残りの2割は、どうなったのかは聞かないでおいた。

知らぬが仏、って言うし・・・。

「そうそう、それが賢明ですな」

豪快に笑うおじいさん。

てか私の思考、読まれてた・・・?

「さて、お嬢さんも『袋小路』にいらしたということは・・・何か悩まれている事でもあるのですかな?」

私は麦茶を縁側に置くと、「袋小路」に迷いこむまでの事をおじいさんに話した。


将来をしっかりと見据えている同年代の女性との会話。

彼女と比べて、私は何をしているのかと。

今までの生活、間違ってたんじゃないのかと・・・。


おじいさんは黙って肯きながら、私の話を聞いてくれていた。

「ふうん・・・。」

ひとつ唸り、周りを一瞥すると、すい、と煙管であさっての方向を指した。

「そこの少年。何か言いたそうだねぇ」

煙管を差した先には。


ペルーで別れたルイス君がいた。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


"ルイス君・・・!?"

「旅人さん、こう言ってくれたよね」

私の言葉を遮るように、ルイス君は口を開いた。


「『その選択が間違いだと言われても、君が納得できたのなら、

それはそれで正しかったと胸を張って言えるでしょう?』って。あれ、嘘だったの!?」


"え・・・それは・・・"

言いよどむ私に、更にルイス君はたたみ掛ける。

「僕、旅人さんのその一言を聞いて、旅に出たんだよ!僕の選択が正しかったんだって胸を張って言えるまで、僕はいろんな世界を見ていこうって!」

・・・・・・・・

「それに旅人さんは『自分が後悔したくないから旅をしている』って言ってたよね。今、旅をしていた事を後悔してるの?僕にはそんな風には見えなかったよ!」

私は何も言えなくなる。

「旅人さん、僕と話していた時、すごくいきいきしてたもん。今の旅人さんの顔、僕キライだよ!!元気出してよ!ねえ!!」

私はうつむく。


人の生き方は人それぞれ。

人生に、「間違い」も「正しい」もないんだ。

正しいか否かってことも、自分が決める事。

自分が一番わかりきってた事じゃない・・・。


「答えは見つかったかい?」

"はい。これからどうしていくかまでは"

「うむ。そうかい」

私の返答に、おじいさんは微笑んだ。

"ルイス君、ありがと・・・って、あれ?"

顔を上げたとき、すでにルイス君はいなくなっていた。

私は庭を飛びだし、辺りを見まわす。

「あの少年なら、もうおらんよ」

"あれぇ?お礼にあげようと思っていたモノがあったのになぁ・・・"

「いえいえ。お礼はもう頂きましたよ」

え?


疑問符を浮かべ、縁側に振り向く。

おじいさんは立ち上がると、顔をあげた。

いや。

一瞬までおじいさんだったのに、『歩の彼』に姿を変えていた。


「孫の事をよろしく頼むよ。歩さん」

"あ・・・!待っ・・・!"


ごう。


潮の香りを含んだ風が突然襲いかかり、私は腕で顔を覆った。

風が治まったその跡には、彼らの姿はなく、裏路地が広がっているだけだった。


けけけけけ・・・


ひぐらしの鳴き声に、微かに混じって聞こえた、いたずらっぽい笑い声。

目線を上げると、そこには小さなお社があった。

キツネにつままれたような気分で裏路地を進んだ。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


うーん。さっきのおじいさん。彼のおじいさんだったのかぁ・・・。


彼のおじいさんは、彼が生まれる前に亡くなっていると聞いていた。


"私を助けてくれたのかな?しっかしホント、彼にそっくりだったよなー"


そんなことを考えながら、足取りも軽く、拍子抜けするくらいあっという間に無事に出口に辿りついた。

金魚すくいの屋台を通り過ぎ、私は民宿へと足を向けた。


あちこちを歩いていて、いろんな文化に触れて、感じたこと。

全部が全部プラスじゃないけど、私にとって他には得られない何かをたくさん得ている。

もっと色々見て、触れて、感じたい事がたくさんある。

自分が納得できるまで、旅は続けよう。


まだまだ私も青いなぁ・・・。



・・・そんな事を考えながら歩いていたら、見事に迷子になった事を追記しておきます。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


「あー。それ、キツネに化かされたんですよー」

麦茶を持ってきてくれた娘さんに一連の出来事を話して返ってきた一言に、私は思わず目を丸くした。

"え?キツネ・・・?"

化かされたって・・・。え??

「ええ。キツネっていたずら好きなんです。それにお客さんがいた辺りって、お稲荷さんが奉ってあるんです」

あのお社がそうだったんだ・・・。

「外から来た方が、よく被害にあうんですよー」

"な、何だぁ・・・そうだったの"

ちょっとがっかりだ。

ドラマチックなことを考えてしまった、自分が恥ずかしい。

「何か盗られていませんか?主に食べ物とか・・・」

くすくすと笑いながら、娘さんが聞く。

私は怪訝な表情を浮かべながら、持っていったメッセンジャーバッグをひっくり返した。


水筒、貴重品、フェイスタオル、リンゴ飴、射的の景品のお菓子の数々・・・。


"全部無事です"

でもまだ娘さんは笑っている。

ぬぅ。何なんだ?

「ごめんなさい。手に持っているビニール袋、持ち上げてみて下さい」

私は首を傾げつつも、ビニール袋を持ち上げた。

・・・妙に軽い。

中を見ると・・・・

"・・・あーーーーっ!?お好み焼きがない!!"

たまらず娘さんは、腹を抱えて笑い出した。

「そのおじいさんがキツネだったんでしょうねー」

"え?"

「『お好み焼き欲しさに、お客さんを自分が作った変な世界に迷わせて、自分がお客さんを助けたお礼にお好み焼きをもらっていった』って所でしょう。あはは〜芸が細かい〜」


"いえいえ。お礼はもう頂きました"


おじいさんの言葉の意味がようやく理解できた。

そして私もつられて大笑いしたのだった・・・。




まんまといっぱい食わされた。

「袋小路」の景色も、ルイス君も、キツネの作り物だったのね・・・。


でも、不思議と怒る気は起きなかった。

・・・お好み焼き欲しさに、あそこまでするのかなぁ?って思ったから。

何だかんだで、私の迷いを吹き飛ばしてくれたから。


けけけけ・・・


お祭りの喧騒に紛れて、いたずらっぽい笑い声が、微かに聞こえた。



fin...



後日談。

彼にせがんで、おじいさんの写真を見せてもらった所、「袋小路のおじいさん」とはまったく違う顔だった事を追記しておきます。

あとがき


旅日記シリーズ 〜※月?日 日本某所にて・後編〜

最後までお届けする事ができました。

妖精の次はキツネに化かされた歩です(笑)


物語の舞台>>

神奈川県三浦市の三崎漁港付近がモデルになっています。


食堂を兼ねた民宿>>

くろば亭というお店がモデルになっています。


実際にも宿泊することができます。

その際には、店舗に電話でアポを取りましょう。

突然押しかけちゃダメですよ!



実は・・・>>

三崎漁港を訪れた時に、実際にお祭りをやっていました。

久しぶりにお祭りを堪能したのと、友人の「小説の歩さんみたい」という一言で、このお話を書き上げた次第です。


・・・何度か細かい景色を確認したくて、ゲーム「トロと休日」をプレーしていたことはナイショです。


久しぶりの文章書きだったので、粗がありまくりかもしれません。

ご指摘等ありましたら、ぜひぜひお願いします。


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