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旅日記  作者: 山菜歩
12/20

P.12: 〜※月?日 日本某所にて・前編〜

私は歩。

旅が趣味の人間である。

旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。

気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。

そんな旅の途中の話である・・・。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



訪れた土地で、偶然お祭りに出くわした。

訪れた先の土地で何かしらのイベントに出くわすと本当に驚く。


「お祭りは誰もが童心に帰る事ができる」


昔からそう言われているが・・・私も例外ではなかった。

・・・小さい頃、お祭りの日って朝からワクワクしてたよなぁ・・・。

それが偶然出くわしたとなれば、サプライズも加わって、ワクワクドキドキ度数150%ですって!

祭り会場に一歩足を踏み入れると、香ばしい香りと明るい喧騒に包まれる。

移動舞台で演奏されるお囃子。

お祭りは始まったばかりのようだ。


近くにあった、食堂を兼ねた民宿に交渉してみた所、部屋が空いているようなので一泊泊めてもらうことにした。

荷物を置いて、部屋の窓からお祭りの様子を見ていると。

「失礼いたします」

と、控えめにふすまがノックされた。

私が返事を返すと、ふすまが開く。




そこにいたのは、私と歳が近そうな女性だった。

長い黒髪がよく似合う、美人さんだ。

少し危なっかしい手付きでお茶の準備をはじめる。

"えーと・・・。女将さんですか?"

「え?あ、いーえー。違いますよー」

彼女は私の問いに、リズミカルな返答をくれた。

"えーと、じゃあ・・・"

「ここの娘です。両親の手伝いをしてるんですよー。母は今お囃子の本部に出張中です」


娘さんは一度地元を離れて別の仕事をしていたけど、仕事が行き詰っていた事と、やっぱり家業を継ぎたいという思いから、帰郷したらしい。

帰ってきたときのご両親の反応が怖かったとか、笑いながら話してくれた。


「でも、やっぱり小さい頃から両親の姿を見てきたからかなー?って思って」

"なるなる。将来は女将さんですか"

「はいー!まだまだ『女将見習い』ですけどねー」

娘さんは笑顔でVサインを向けた。

そう言われるのが嬉しくてたまらないようだ。

「お婿さんが来てくれれば、なおさら嬉しいんですけどねー。これで4代お店を継げるんですよー」

頬に両手を当て、今にも踊りだしそうな勢いだ。

止めた方がいいのだろうか?

「はー、がんばろ。ところでお客さんは何をされてるんですか?」

"え?私?"

いきなり話しの矛先を向けられて、私は驚いた。

「はいー。何か旅慣れてる感じなんで、もしかして旅行雑誌のライターさん?」

"えーと・・・。似たようなモノです"

返答に困ったが、何度か手記を出した事があるので嘘ではない。

「えーすごい!世界中を飛びまわる女性、かっこい〜!」

"あははは・・・"

私が苦笑していると、階下から娘さんを呼ぶ声が聞こえた。

「はーい。すいません。ちょっと失礼しますね。ゆっくりお祭りを楽しんで来て下さい」

娘さんは一礼すると、ぱたぱたと階段を降りていった。

ふむ。ユリさんね。

きっとこの民宿の看板娘なんだろうな。

階下のお店で、いろんな人から声をかけられてる。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


食堂で海鮮丼を食して、突撃準備OK。

漁港ならではの安さとうまさに納得し、お祭りにいざ突入〜!


今年2度目の屋台めし。

食後のデザートにはリンゴ飴。もちろん特大サイズ。

落書きせんべいに夢中になって、射的でお菓子をごっそりゲット。

飴細工職人の腕に思わず唸り、からから回る風車も目に美しい。

小さい頃に集めていたお面の数々。

喉が乾いたら、かちわりで喉を潤す・・・。


これだから故郷のお祭りは好きだ。

何歳になっても、楽しさが変わらない不思議。


だけど・・・。

今日はちょっと違った。

さっきの娘さんとの会話が頭から離れなかった。


しっかりしていたなぁ。

同じ歳で、ちゃんと将来見据えていて。

私は何をしてるんだろう。

当てもなく、ぶらぶらとあちこちを歩き回って。


ちゃんと将来の事を考えていた?

これからどうやって生きていくの?


いろんな事が頭を巡る。

最初の方はかする程度にしか感じなかったけど、時間が経つにつれ、この思考は重みを増していった。

前方に集中できずに、何度か人にぶつかった。


これはまずい。

少し人混みから離れた。

しゃがみこんだ通路の先には、下町のような裏路地が顔を覗かせている。


こういう所、一度来てみたかったんだよなぁ・・・。


何かに呼び寄せられるように、私は裏路地に入っていった。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


車一台すらも通れない裏路地を、私は歩く。

家々から漏れ出る笑い声。

風鈴の涼しい音色。

時折すれ違う、水鉄砲を持った子供達。

夏の夕暮れを感じさせる、ひぐらしの鳴き声。

裏路地を彩る、真っ赤な夕日。

夕日と影が織りなす、赤と黒のコントラスト・・・


考えを振り切りたくて、私はひたすら歩いた。

東西南北どこを歩いているのか。

どこへ向かおうとしているのか。

何もわからないまま、ひたすら歩いていた。


気が付くと。

私は右も左もわからなくなっていた。

路地裏の入り口も出口もわからない。

軒にぶら下がっていた提灯もなくなっている。

お囃子の音も聞こえない。

林立する家屋の壁には、夕日が差している。

オレンジ色の壁面を時折素早く駆け抜ける、黒い影。

人のようでいて、人にあらず。

影はそんな形をしていた。


きゃはははは!


私のすぐ後ろを、子供の笑い声が通りすぎた。

振り向いても、姿が見えなかった。

形の見えないモノに急かされている気がして、ものすごい焦燥感に駆られた。

小さい頃、道に迷って家に帰られなくなったときの、あの感覚。

妙に赤い景色の中に置き去りにされ、全身に鳥肌が立った。

冷や汗が背中を伝う。


やだ・・・やだ・・・!!


「もしもし」


問いかけと共に肩を叩かれ、私はぎゃっ、と飛びあがった。


私の背後にいたのは、浴衣姿のおじいさんだった。


おじいさんの優しげな目を見た瞬間・・・

私はその場で腰を抜かしたのだった。



To Te Continued...

旅日記シリーズ史上初(大げさ?)。

前後編の作品になりました。


久しぶりに文章を書いたので、かなり粗があるかと思います。


舞台設定等は、後編に書こうかと思います。

もう少し、お付き合いください・・・。

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