P.11: 〜☆月☆日 日本某所にて〜
私は歩。
旅が趣味の人間である。
旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。
気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。
そんな旅の途中の話である・・・。
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"そろそろ誕生日だから、一度帰ってきたらどうだ?"
恋人から、滞在先のホテルに手紙が来た。
手帳を見る。
ここしばらく開いてなかったから、しおりは2ヶ月前にはさまっていた。
故郷はそんな時期かぁ・・・。
故郷には、中国の伝説にまつわるお祭りを各地で行う。
・・・オトナの解釈で要約すると。
"仕事に支障をきたすほどのバカップルがおりました。
そのあまりのバカっぷりに怒った神様が、星の川をはさんでふたりを引き離しました。
しかし、悲しみに暮れるふたりの姿を見て、神様は年に一度だけ会える日を与えたのでした・・・"
という伝説である。
で、その日が私の誕生日でもあるわけで・・・。
私たちが住んでいる近くの地域で、お祭りが開催されるのだ。
"今ならまだ間に合うぞ。"
私は荷物を一気にまとめると、旅券会社に電話をしたのだった・・・。
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およそ18時間後。早朝。
私は故郷の地に立った。
あの後。
私は奇跡的に、キャンセル分の席を取ることができたのだった。
そしてありがたいことに、彼が迎えに来てくれていた。
"朝早いのに・・・大変だったでしょ?"
「なになに。聴きたかったラジオ番組があったから、ずっと起きてたんだ」
"あはは・・・あなたらしいね"
「あ、そうそう。「南国の幽霊番組」、深夜にも放送を始めたみたいだぞ?」
"え!?嘘ぉ!?てか聴けたんだ!"
軽口を叩きあいながら、彼の家に向かったのだった。
・・・電車内で、お互い爆睡していたことは言うまでもない。
彼の家に到着して、更に朝寝。
起きた時は昼過ぎだった。
"あ、そろそろ準備しないと・・・"
「何言ってんの。お祭りは明日だよ」
・・・・・・・・・・・・・・
私は、時差ボケにならない人間だ。
エコノミークラス症候群も慣れっこ。
でも、旅をしていて未だに慣れないのが、日付変更線をまたいだ時の時間の換算。
ワールドタイムの時計ほしいと、切実に思う今日この頃だ。
夕食の時。
彼曰く、明日は「お楽しみ」があるそうだ。
しかも私にはたまらない事だという。
何度聞いても教えてくれない。
ぬぅ・・・。気になって寝れないじゃないか。
私はむくれたのだった。
・・・結局、寝たのだが・・・。
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翌日。
会場に来て、私は飛び上がるほど喜ぶことになった。
今年から、浴衣の貸し出しサービスを始めたらしい。
これはもう利用するしかないでしょう!
1時間後。
私は藍染めの生地に白抜きのとんぼ柄、赤のへこ帯を蝶結びに。
彼は灰色の浴衣に、黒の帯を貝の口に結んでいる。帯には上下に細い白のラインが入っていた。
和装に変身した私達は、会場である大通りに向かった。
赤・緑・青・黄・オレンジ等々・・・
私の視界は、様々な色彩で彩られていた。
最近荒涼とした風景しか見ていなかったから、とても新鮮だ。
やはり中国の伝説の為か、赤×金の配色の飾りが多い。
くす玉、吹き流し、地元の子供達が描いたバカップル・・・もとい、織姫と彦星の絵。
忘れちゃいけない屋台のごはん。
焼きそば、たこ焼き、お好み焼き。
私は綿あめをついばみながら、彼の後ろを付いていった。
ショルダーバッグのベルトを掴みながらだが。
あるステージでは、「ミス織姫」なるイベントが開催されていた。
要はミスコンである。
和装美女に目を奪われている男性が多数。
そんな男性に鋭い眼光を飛ばしている女性も多数。
私は思わず苦笑した。
何故か彼も苦笑していた。
・・・ちょっとは鼻の下でも伸ばしてみろっつーの。
面白くないなぁ・・・。
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一通り見終わって、私達は川べりに足を運んだ。
慣れない下駄で歩きつかれた足を放り出す。
すると
「はい、誕生日プレゼント」
と言い、彼は手のひらサイズの箱を差し出した。
私は受け取る。
"開けてもいい?"
彼は「どうぞ」と手で促した。
箱の中に納まっていたのは、バックライト付の黒いデジタル時計だった。
順繰りにメニューセレクトボタンを押すと、ワールドタイム機能がついていた。
「おまえさんの手紙を読んでいると、いつも日付が2日ほど過去になっていたり未来になってたりするんでね。日付変更線に慣れてないんだと思ってさ」
"うわぁ・・・。ありがとう!"
浴衣に足を取られ、半ばもつれるようにして彼に抱きついたのだった。
「でも、天の川が見えないね」
そう。私は生まれてこの方誕生日に晴れたことがないのだ。
"別に、いいんじゃない?"
彼が不思議そうに私を見る。
"だって、いくらバカップルでも覗き見されるのは嫌でしょうしー"
「ごもっともだな」
彼は腹を抱えて笑い出した。
"せいぜいいちゃいちゃしてなさい。会えるのは1日だけなんだから・・・"
私は曇った夜空を見上げ、心の中でそう言ったのだった。
fin...
旅日記シリーズ第11弾。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
一応誕生日記念と言うことで、執筆させて頂きました。
ハッピーバースデー自分。
*バカップル全開のお話ですが、リアルではこんなにいちゃついていませんのでご了承下さい。
七夕祭りのモデル>>
神奈川県平塚市の七夕祭りがモデルになっています。
・・・念の為ですが、浴衣の貸し出しサービスは行っていません。