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旅日記  作者: 山菜歩
11/20

P.11: 〜☆月☆日 日本某所にて〜

私は歩。

旅が趣味の人間である。

旅の相棒は大きな革のトランクひとつ。

気の向くまま、時間の流れるまま、私はどこまでも行く。

そんな旅の途中の話である・・・。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―



"そろそろ誕生日だから、一度帰ってきたらどうだ?"


恋人から、滞在先のホテルに手紙が来た。

手帳を見る。

ここしばらく開いてなかったから、しおりは2ヶ月前にはさまっていた。


故郷はそんな時期かぁ・・・。




故郷には、中国の伝説にまつわるお祭りを各地で行う。


・・・オトナの解釈で要約すると。


"仕事に支障をきたすほどのバカップルがおりました。

そのあまりのバカっぷりに怒った神様が、星の川をはさんでふたりを引き離しました。

しかし、悲しみに暮れるふたりの姿を見て、神様は年に一度だけ会える日を与えたのでした・・・"


という伝説である。


で、その日が私の誕生日でもあるわけで・・・。


私たちが住んでいる近くの地域で、お祭りが開催されるのだ。


"今ならまだ間に合うぞ。"


私は荷物を一気にまとめると、旅券会社に電話をしたのだった・・・。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


およそ18時間後。早朝。

私は故郷の地に立った。


あの後。

私は奇跡的に、キャンセル分の席を取ることができたのだった。

そしてありがたいことに、彼が迎えに来てくれていた。


"朝早いのに・・・大変だったでしょ?"

「なになに。聴きたかったラジオ番組があったから、ずっと起きてたんだ」

"あはは・・・あなたらしいね"

「あ、そうそう。「南国の幽霊番組」、深夜にも放送を始めたみたいだぞ?」

"え!?嘘ぉ!?てか聴けたんだ!"


軽口を叩きあいながら、彼の家に向かったのだった。

・・・電車内で、お互い爆睡していたことは言うまでもない。

彼の家に到着して、更に朝寝。


起きた時は昼過ぎだった。


"あ、そろそろ準備しないと・・・"

「何言ってんの。お祭りは明日だよ」

・・・・・・・・・・・・・・

私は、時差ボケにならない人間だ。

エコノミークラス症候群も慣れっこ。

でも、旅をしていて未だに慣れないのが、日付変更線をまたいだ時の時間の換算。

ワールドタイムの時計ほしいと、切実に思う今日この頃だ。


夕食の時。

彼曰く、明日は「お楽しみ」があるそうだ。

しかも私にはたまらない事だという。

何度聞いても教えてくれない。

ぬぅ・・・。気になって寝れないじゃないか。

私はむくれたのだった。


・・・結局、寝たのだが・・・。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


翌日。

会場に来て、私は飛び上がるほど喜ぶことになった。

今年から、浴衣の貸し出しサービスを始めたらしい。

これはもう利用するしかないでしょう!


1時間後。

私は藍染めの生地に白抜きのとんぼ柄、赤のへこ帯を蝶結びに。

彼は灰色の浴衣に、黒の帯を貝の口に結んでいる。帯には上下に細い白のラインが入っていた。

和装に変身した私達は、会場である大通りに向かった。


赤・緑・青・黄・オレンジ等々・・・

私の視界は、様々な色彩で彩られていた。

最近荒涼とした風景しか見ていなかったから、とても新鮮だ。

やはり中国の伝説の為か、赤×金の配色の飾りが多い。

くす玉、吹き流し、地元の子供達が描いたバカップル・・・もとい、織姫と彦星の絵。

忘れちゃいけない屋台のごはん。

焼きそば、たこ焼き、お好み焼き。

私は綿あめをついばみながら、彼の後ろを付いていった。

ショルダーバッグのベルトを掴みながらだが。


あるステージでは、「ミス織姫」なるイベントが開催されていた。

要はミスコンである。

和装美女に目を奪われている男性が多数。

そんな男性に鋭い眼光を飛ばしている女性も多数。

私は思わず苦笑した。

何故か彼も苦笑していた。

・・・ちょっとは鼻の下でも伸ばしてみろっつーの。

面白くないなぁ・・・。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


一通り見終わって、私達は川べりに足を運んだ。

慣れない下駄で歩きつかれた足を放り出す。

すると

「はい、誕生日プレゼント」

と言い、彼は手のひらサイズの箱を差し出した。

私は受け取る。

"開けてもいい?"

彼は「どうぞ」と手で促した。


箱の中に納まっていたのは、バックライト付の黒いデジタル時計だった。

順繰りにメニューセレクトボタンを押すと、ワールドタイム機能がついていた。


「おまえさんの手紙を読んでいると、いつも日付が2日ほど過去になっていたり未来になってたりするんでね。日付変更線に慣れてないんだと思ってさ」


"うわぁ・・・。ありがとう!"


浴衣に足を取られ、半ばもつれるようにして彼に抱きついたのだった。



「でも、天の川が見えないね」

そう。私は生まれてこの方誕生日に晴れたことがないのだ。


"別に、いいんじゃない?"


彼が不思議そうに私を見る。


"だって、いくらバカップルでも覗き見されるのは嫌でしょうしー"

「ごもっともだな」

彼は腹を抱えて笑い出した。


"せいぜいいちゃいちゃしてなさい。会えるのは1日だけなんだから・・・"


私は曇った夜空を見上げ、心の中でそう言ったのだった。




fin...

旅日記シリーズ第11弾。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。


一応誕生日記念と言うことで、執筆させて頂きました。

ハッピーバースデー自分。


*バカップル全開のお話ですが、リアルではこんなにいちゃついていませんのでご了承下さい。


七夕祭りのモデル>>

神奈川県平塚市の七夕祭りがモデルになっています。

・・・念の為ですが、浴衣の貸し出しサービスは行っていません。

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