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旅日記  作者: 山菜歩
10/20

ふたりめの旅人

僕はルイス。


僕の眼下には、ひたすら茶色い絶壁がそびえている。

見ているだけで、気分が荒んでくる。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


僕の国は、いつも内戦が起こっていた。

いつ自分の命がなくなるか、怯えて暮らす日々を送っていた。

ある日。

住処も、父さんも、母さんも、姉さんも、友達も、みんな一度に失った。

爆弾テロだった。

「おつかいに行っていた」と言う理由で、僕だけが助かった。

みんな跡形もなく吹き飛ばされた。


僕は、僕の全てを奪ったこの国が嫌いだ。大嫌いだ。


絶望し、心を閉ざしかけていたそんなある日のこと、旅人がこの国を訪れた。


大きな革のトランクを担いだ女の人。

短い髪にバンダナを巻き、日焼けした浅黒い肌。

一瞬男の人かと思った。

危険だと言われている、高山鉄道に乗りたいがために、この地を訪れたらしい。


「だって、面白そうじゃない」


それが動機だとか。

何か、変な人。

でも、ちょっとだけ、お話してみたいと思った。

旅人は*****と名乗った。


何から話そうかと迷っていたが・・・。


「どうしたの君?目が死んでるぞ??」


実にストレートな質問だった。


いいチャンスだ。

住処も、父さんも、母さんも、姉さんも、友達も、みんな失ったことも。

この国が嫌いと言うことも。

全て話した。




「ふぅん。で、君はどうしたいの?」

相槌を打っていた旅人が、僕に聞いた。


え?


「君はこの国が嫌い。この国が嫌いなら、さて君はどうするの?」


ぼくは、どうしたいのかな?


「自分に正直に答えてごらん」

・・・・・・・・・・・・・・・


ここから出ていきたい。


「じゃあ、そうしようよ」


でも!

何が起こるかわからない。

悪いことが起こるかもしれない。

死んじゃうかもしれない。


「うん。そうかもね」


そうかもねって・・・!?旅人さんは怖くないの?


「もちろん怖いよ?でも私ならさ、起きるのかすらわからない不安に押しつぶされるより、今出来ることを考えるかなぁ?」


・・・・・・・・・・・・・・・・


何で?

「ん?」

何で旅人さんはそこまでして旅をするの?


しばらく間をおき、旅人さんはトランクを持ち上げて立ち上がった。


「私はね」


旅人は続ける。


「私は後悔したくないだけなの」


・・・・・・・・


「『ああ、あの時あれを見ておけば良かった』『こうすればよかった』って、悔しい思いをしたくないだけ。私のギリギリの生き方は根底にそういう考えを持っているからね・・・。バカみたいな動機でしょ?」


この言葉は、後に僕が旅に出ようと決めた、決定打となった一言だ。



そう言うと、旅人さんは去っていった。



―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


僕はルイス。

旅の相棒は、いない。

この身一つで、旅をする。


"あとは君自身が決めなさい。

君がどうしたいのか。

そうしたいのなら、どうしていくのか・・・"


今さっきまであった国境線は爆撃で吹き飛び、兵士たちはその攻撃と対応でてんてこ舞いになっていると、旅人から聞いた。


"その選択が間違いだと言われても、

君が納得できたのなら、

それはそれで正しかったと胸を張って言えるでしょう?"




"君の好きなように生きなよ"


どこまで行けるかわからないけど・・・。

この選択が正しいって胸を張って言えるくらいに、強くなりたい。

旅人さんの言葉を胸に、僕は壊れた国境線を越え、新天地へと最初の一歩を踏み出した。


旅日記シリーズ第10弾。「ふたりめの旅人」


最後までお読み頂き、ありがとうございます。


彼がこれからどんな生き方をしていくのか。

彼がこれからどんな旅をしていくのか。




これは作者にも「まだ」わかりません。


ただ、彼が少しでも成長していけるように、見守っていくつもりでいます。



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