ふたりめの旅人
僕はルイス。
僕の眼下には、ひたすら茶色い絶壁がそびえている。
見ているだけで、気分が荒んでくる。
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僕の国は、いつも内戦が起こっていた。
いつ自分の命がなくなるか、怯えて暮らす日々を送っていた。
ある日。
住処も、父さんも、母さんも、姉さんも、友達も、みんな一度に失った。
爆弾テロだった。
「おつかいに行っていた」と言う理由で、僕だけが助かった。
みんな跡形もなく吹き飛ばされた。
僕は、僕の全てを奪ったこの国が嫌いだ。大嫌いだ。
絶望し、心を閉ざしかけていたそんなある日のこと、旅人がこの国を訪れた。
大きな革のトランクを担いだ女の人。
短い髪にバンダナを巻き、日焼けした浅黒い肌。
一瞬男の人かと思った。
危険だと言われている、高山鉄道に乗りたいがために、この地を訪れたらしい。
「だって、面白そうじゃない」
それが動機だとか。
何か、変な人。
でも、ちょっとだけ、お話してみたいと思った。
旅人は*****と名乗った。
何から話そうかと迷っていたが・・・。
「どうしたの君?目が死んでるぞ??」
実にストレートな質問だった。
いいチャンスだ。
住処も、父さんも、母さんも、姉さんも、友達も、みんな失ったことも。
この国が嫌いと言うことも。
全て話した。
「ふぅん。で、君はどうしたいの?」
相槌を打っていた旅人が、僕に聞いた。
え?
「君はこの国が嫌い。この国が嫌いなら、さて君はどうするの?」
ぼくは、どうしたいのかな?
「自分に正直に答えてごらん」
・・・・・・・・・・・・・・・
ここから出ていきたい。
「じゃあ、そうしようよ」
でも!
何が起こるかわからない。
悪いことが起こるかもしれない。
死んじゃうかもしれない。
「うん。そうかもね」
そうかもねって・・・!?旅人さんは怖くないの?
「もちろん怖いよ?でも私ならさ、起きるのかすらわからない不安に押しつぶされるより、今出来ることを考えるかなぁ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・
何で?
「ん?」
何で旅人さんはそこまでして旅をするの?
しばらく間をおき、旅人さんはトランクを持ち上げて立ち上がった。
「私はね」
旅人は続ける。
「私は後悔したくないだけなの」
・・・・・・・・
「『ああ、あの時あれを見ておけば良かった』『こうすればよかった』って、悔しい思いをしたくないだけ。私のギリギリの生き方は根底にそういう考えを持っているからね・・・。バカみたいな動機でしょ?」
この言葉は、後に僕が旅に出ようと決めた、決定打となった一言だ。
そう言うと、旅人さんは去っていった。
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僕はルイス。
旅の相棒は、いない。
この身一つで、旅をする。
"あとは君自身が決めなさい。
君がどうしたいのか。
そうしたいのなら、どうしていくのか・・・"
今さっきまであった国境線は爆撃で吹き飛び、兵士たちはその攻撃と対応でてんてこ舞いになっていると、旅人から聞いた。
"その選択が間違いだと言われても、
君が納得できたのなら、
それはそれで正しかったと胸を張って言えるでしょう?"
"君の好きなように生きなよ"
どこまで行けるかわからないけど・・・。
この選択が正しいって胸を張って言えるくらいに、強くなりたい。
旅人さんの言葉を胸に、僕は壊れた国境線を越え、新天地へと最初の一歩を踏み出した。
旅日記シリーズ第10弾。「ふたりめの旅人」
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
彼がこれからどんな生き方をしていくのか。
彼がこれからどんな旅をしていくのか。
これは作者にも「まだ」わかりません。
ただ、彼が少しでも成長していけるように、見守っていくつもりでいます。