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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
6/73

第6節 ここから……



「……お昼寝したい 」


 窓から差し込む日差し。

 それが暖かくて心地がいいから、歩くたびに睡魔がやってくる。


(寮……部屋の番号ってどこだっけ? )


 朧気な記憶をかき分け、覚えていた『27』という数字を探していると、しばらく歩いてやっとその扉を見つけた。

 すぐにその扉を開くと、中には本を読んでいる誰かが居た。


 それは長い緑髪を胸に抱く、顔も仕草も女っぽい男。

 けれどその目は驚くように見開いていた。


「えっと……何か用ですかね? 」


「……… 」


「あのー? どうかしましたか? 」


「寝る 」


「へっ? 」


 床に寝そべると、冷たい木が心地よくてすぐに眠たくなってきた。


「……えっ、本当に寝てるの!? 」


「……… 」


「……待って待ってめちゃくちゃ怖いんですけど!? なに!? なんなんですかほんと!!? 」

 

「おーす邪魔するぞ〜……あっ? 早速人殺しか? 」


「いや違いますよ!!? というかあなたたち誰ですか!!? 」


 耳にひびく大声のせいで、頭の中がガンガンする。

 普通にイラつくし、めんどくさいし、寝たいし、寝たい。


(うるさい……殺すか…… )


「俺はヤマト・ホルテンジエ! ロジー王国の『ゲシュペンスト』だ、今日からお前らのルームメイトな!! 仲良くしようぜ!!! 」


「ロジー……ですか 」


「……? 」


 男は読んでいた本を閉じ、ヤマトをじっと見つめているが、当の本人はなにも気にしないようにケラケラ笑った。


「で、お前は? 」


「あっすみません、自己紹介が遅れました。僕はユウト・カイナ……ケルパー王国の貴族です 」


「貴族……なるほどな。まっ、よろしく頼む 」


「はい、こちらこそ 」


(カイナ? )


 ぎこち無く笑い合う二人はどうでもいいとして、ちょっと気になることがある。


 カイナは確か、腕を意味する言葉なはずだ。

 それを名前に組み込むなんて、少し珍しい。


「んでおめぇの名前は? えげつねぇ魔術ぶっぱなしてたから気になってんだよ!! 」


「……… 」


「おっ、無視か? 」


「……? 」


「寝てるお前の聞いてんだぞ? 」


「あっ、俺か 」


 とりあえず体を起こすが、自己紹介と言うのがなんなのか分からない。


「何を言えばいい? 」


「名前とか出身国とか……だなぁ 」


「ハルト・ディアナ。出身は『人国』……それだけ 」


「「えっ!? 」」


 自己紹介とやらをしただけなのに、ヤマトとユウトは肩を組んで向こうを向いてしまった。


「人国ってあれか!? 無法地帯、死体製造国みたいな場所か!!? 」


「でもなんか納得行きましたよ!? あの世間知らずというか、ヤバい空気は!! 」


 二人は小声だが、ここまで近いとバリバリに話の内容が聞こえている。

 その丸聞こえの内緒話を聞いてると、二人は作り笑いでこっちに振り返った。


「あー……うん、聞いた俺が悪かったな 」


「そうか 」


 気まずそうにガリガリと髪を搔くヤマトを無視して、眠ろうとする。

 だが今度はユウトに肩を叩かれ起こされた。


「あの……あなたって一体なんなんですか? あの魔術はいったい…… 」


「『詠唱魔術』、語った現象を顕現させる……これでいいか? 寝たいんだが 」


「待て待て寝んなって。俺もお前に興味があんだよ! 」


「うるさい 」


 ヘラヘラ笑うヤマトの顔面を殴る。

 しっかりと重さを乗せた拳なはずだが、ヤマトは無傷。

 しかもヘラヘラと笑っている。


「いい拳じゃねぇか!! やっぱおめぇ強いな!!! 」


(……? 殴った感覚が人じゃねぇ、というか硬い )


「まぁ今は殺し合いしたい訳じゃねぇ。単純に質問がしてぇ 」


 そう言われると、急にヤマトは抱きついて来た。


「お前そんなに強いのによぉ、なんで()()に来た? 破滅願望でもあんのか? 」


「……どういう事だ? 」


「とぼけんなよ、魔法使いになる意味なんてねぇだろ 」


「いや、本当に知らん 」


「……ん? いやいやそんな訳 」


「俺、逆推薦で来たからこの学校のことなにも知らん 」


「……逆推薦!!? いやぁ、あんだけの魔術持ってたらそうなるか 」


 ヤマトは驚いたように眉間にシワを寄せる。

 が、こっちとしては何がなんだか分からない。

 

「えーっと、僕が魔法使いについて説明しましょうか? 」


「あぁ 」


 首をひねってると、ユウトがそう話しかけてきた。


「では失礼して。まずこの学園、『ヘレダント』は世界唯一の魔法学校であり、ここを卒業したものを『魔法使い』と呼びます。魔法使いは基本、色んな国に雇われたり、危険地帯に行ったりするのですが……ちょっとでも命令に逆らったりすると、基本的に殺されますね。だからヤマトさんが心配してるのは……魔法使いが不自由な仕事だからです 」


「……? じゃあなんでお前らはここに居るんだ? 」


「……っ! ふざけ」


「よぉしお前ら!! 飯食いに行こうぜ〜!!! 」


 急に腕を回され、ヤマトから肩を組まれた。

 そのせいか、拳が放たれる前にユウトは止まった。


「暑苦しい 」


「あんま首突っ込んでやるな。殺し合いは好きだけど喧嘩は嫌いだ 」


「……? 分かった 」


「よーし!! じゃあ食堂行こうぜ〜、ここの飯もうめぇかなぁ!!? 」


 あえて大声を出すようなヤマト。

 それに渋々着いていくユウトと一緒に、部屋を出る。


「すみません、ヤマトさん 」


「ん、何がだ? 」


「いやさっきの……いえ、なんでもありません 」


「あぁ、何も無かったよな 」


(……誰だコイツら? )


 親しげに笑う二人。

 その見覚えのない二人に首をひねってると、白髪の男が不思議そうに近付いてきた。


「おうどうした? 腹いたか? 」


「……誰だ? 」


「えっ? ヤマトだけど……大丈夫か? 」


「あぁヤマトか、ごめん 」


 謝りながらも、とりあえずヤマトの胸元に顔を埋める。

 そして匂いを嗅いでいると、困ったような声とともに、顔を引き剥がされた。


「えぇっと……どした急に? 」


「臭い嗅いでた 」


「お……おぉそうか!! 聞いた俺が悪かったな!!! 」


 変な震え声とともに、ヤマトは素早く振り返った。

 その瞬間、小さな弱音がたしかに聞こえた。


『こいつと五年、やってけっかな…… 』







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― 新着の感想 ―
[良い点] お、おぉ……想像以上に主人公がクセモノでした(;゜_゜) あまりの世間知らずぶりがコミカルでもあり、ルームメイトたちの言う以上に怖くもある。二人のリアクションがいいので、面白さと怖さの両方…
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