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いずれ覇王と成る君へ  作者: エマ
臥薪嘗胆編
1/73

第一節 語り手



「ん? 」


 馬車のゆれで目が覚めた。

 ぼやける視界の中を、慌てる大人たちが騒いでいる。


(うるさい…… )


 寝起きで頭がぼーっとする。

 けれど外からあの臭いがし、脳をたたき起こして幌をひらく。


『ウガァァウ!!!! 』


 そこには数百を超える獣がいた。

 朝露をちらしながら迫る獣は狼の形をしており、数メートルは超える体でピッタリと馬車に迫ってきている。

 

(追われてたんだ。というかまずいなぁ、タックルでもされたら簡単に横転する )


 人の足で獣から逃げるのは不可能だ。

 馬車が壊れれば、数と牙で蹂躙され、全員仲良く腹の中。


(……ここで殺すか )


「あぶねぇからどけ!! 」


「やめて!! 離して!!! 」


 右手を前に出した瞬間、急に座席に突き飛ばされ、俺を押した大人は泣き叫ぶ女の子を外に蹴り飛ばした。


「いっ」


 獣につぶされて死んだ女の子。

 けれど名も知らない大人は不機嫌そうに眉をひそめた。


「肉が足らねぇ!! おい立て!! 女子供は後ろに行って身をかがめろ!! 力あるやつは武器を持て!!! 守るぞ!!! 」


「ねぇ……なんであの女の子を見捨てたの? 」


「『ゲシュペンスト』だからだ!! んなことはどうでもいいからお前も後ろに行けって!!! 」


 ゲシュペンストという意味不明な存在。

 それは人にとって、死んでも構わないもののようだ。


 けれどそれを見捨てる人間の方が……ただ気持ち悪く感じた。


「あっ? 」


 掴まれた腕をはじき、帆の外に身を乗り出す。


「おい危ねぇぞ!! 」


志鉄(してつ)(へん)ずは名も無き鋼打ち 」


 後ろの声を無視し、獣の群れに手を伸ばす。


「清廉なる炎をともし、頑固たる人徳をゆがめ、悲哀の海にて怒りをしずめる。そうして生まれた銀鎖……打ち手の怒りを継いだ物、それ即ち、獣の意を止めるもの 」


 詠唱とともに、空から産まれ落ちた千の銀鎖。

 それらは自らの意思で獣たちに突っ込んだ。


「ギャオ!!? 」


 鎖は頭骨を貫き、腹を貫き、獣の息の根を止めまわる。

 何匹かは躱したが、鎖は追尾するようにうなり、獣の足を消し飛ばす。

 するとさらなる鎖が降り注ぎ、獣は血肉となって飛び散った。

 

「……あっ 」


 蹂躙される獣の肉。

 その中に人の手のようなものがあった。

 けれどそれは進む馬車のせいで次第に見えなくなっていった。


「すっ……すげぇよお前!!!! 」


「助かった……ありがとう……ありがとう!! 」


「ありがとうお兄ちゃん!!! 」


「ありがとう!! お前のおかげで犠牲者はゼロだ!!! 」


 声をだして喜ぶ人間たち。

 その誰もが少女が死んだことに触れていない。


(外じゃこれが普通なのか? )


「そう、どういたしまして 」


 異分子にならないよう適当に同調する。

 すると全員が嬉しそうに笑い、大歓喜が巻き起こる。


「そういや兄ちゃん! お前って魔術師か? 」


「うんん、今から魔術学園に入学するとこ 」


「あー、この時期は入学生多いもんな 」


 少女を蹴落とした爽やかなおっさん。

 そいつは前の幌を開けると、その向こうにいる御者の青年に声をかけた。


「命の恩人様が学園にお急ぎだとよ!!! 」


「ヘイ了解!! お任せ下さいませぇ!!! 」


 うるさい会話とともに、馬車は加速した。


 どこに向かうかは誰も話してない。

 けれど学園といえば、みんな分かったように同じ名を口にする。


「これより魔術学園『ヘレダント』に向かいまぁす!!! 」


 

 


 



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― 新着の感想 ―
[良い点] 描写が丁寧で馬車の疾走感がすごく伝わってきます。 走ってる始まりっていいですね。 長い詠唱かっこいい! [一言] 読みたくなって読みに来ました!物語が始まるワクワク感がすごいです!
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