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24 国を完全にひっくり返すために(2)

 紗絵の左右に4人が並び、江戸城の南側、中城、外城の方を向く。背後に3匹の九尾の狐が浮かぶ。


「憲政様、信然さん、禰々子、あと小五郎たち5人は南の2つの廓を落としてくれない? こっちは天満宮を壊すだけで、すぐに湯島天神や神田明神に向かう。将門さんも一緒に向こうをお願いできないかしら?」

【500人ずつ兵がいる廓を2つ抜けというと、わしがいても流石に誰か死ぬと思うが……】


 紗絵の依頼に将門は難色を示す。すると於佳津が悠然と微笑んで返す。


「砕かれた殺生石がすべてうつつに帰って、1つに力を合わせられる」

(そうそう……1つに合わせれば、ものすごいことができる。だから、お助けするわね)


 こだまが楽しそうな声を念話で送る。すると、けいと葦も応ずる。


[さっきの於佳津ちゃんの火球の比じゃないこと、できるわね]

<雷がいいかしら>

[音も光も強烈だしね]

「できるだけ派手にやろう。雷雲よ、来たれ」


 九尾の狐が揃ったせいだろうか。於佳津の透き通る声が、喜びに満ちている。

 5人と3匹の背後には、燃えさかる子城御殿。3階櫓が巨大な松明になったようだ。彼女たちが口々にぶつぶつとつぶやいたり、目を閉じて念じたり……

 日が沈んだばかりの空は、まだ夕焼けが残る。その南の空にたちまち雲が集まって、黒々としてくる。城の上空だけが分厚い雲に覆われ、空が暗転する。


「落ちよ!」


 於佳津が叫ぶ……


……ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!……


 眩い光で視野が真っ白になる。立て続けにする大破裂音。5発が正面の中城に、3発が南の外城に、2発が背後の神社に……。


「すっごい……当然だけど、於佳津姉さんや緒江姉さんの独りの(まじな)いより、すごい」


 涼が幼そうにはしゃぐ。個別に1発2発と打っていた雷撃の比ではない。ずっと迫力と威力に優っている。背後の天満宮は鳥居と本殿が破壊された。城の南の中城、外城は、すべての櫓が全壊している。壊れた建物からは所々煙があがっている。城壁も崩れている所がある。狐の耳には、悲鳴やうめき声が方々から聴こえてくる。


「全員の生気をほどほど使ってこれだけの威力の雷を10連発……うん、これならどんな城でも一たまりもなさそう」

「とどめを刺して歩くだけでも足りるかな?」


 紗絵の言葉に禰々子が笑顔を浮かべながら近寄り、声をかけながら南の中城に向かう回廊へ進んでいく。


「本当にすごい。城の意味がなくなるな」

「これだけやってもらえれば、十分過ぎるぞ」

「早めに済ませましょうか」

「じゃあ、神田明神か、湯島天神で後で落ち合いましょう。よろしくね」


 5人の足軽たち、信然と2体の黒夜叉が彼女に続き、背中に紗絵が声をかける。それぞれがわかったというように手を振る。最後に、将門が取り憑いた憲政が、将門と会話しながら歩む。


【お主、あの雷に少しも動じておらんのか。小童扱いできんな】

「さすがに2年、あの者たちと一緒に働いてきましたからね。雷が好き勝手なところに落ちるくらいでは、びくともしませんよ。えっと、将門様も呪いは使うんですよね?」

【ああ。今日みたいに奴ら3人相手にするあたりまでなら、呪いと剣技を合わせて拮抗できる。当面は様子を見ながら使っていくぞ。しかし、さすがに今の雷はなぁ……霊体のわしなら大丈夫だが、お主の体まで守り切れる自信がない】

「やっぱりそうですか……」

【1発1発で櫓が全半壊するくらいだぞ。5人合わせて10発も集まってみろ……。お主も大変だな。ああいうのを見ると、自分でも強力な呪いが欲しくなるだろう?】

「はい。ただ、彼女たちにも言われているけど、剣術で生きていくしかないかあ」

【古河公方を直接一騎討ちで討ち取ったんじゃろう? そっちの才能はある。上手くいけば、闘気を使えるようになるかもしれない。いろいろ学ぶ時間はあるぞ……】


 まるで、若い武将の悩みを熟練の武将が聞くような対話をしながら、彼らは通廊を渡っていった。


「紗絵ちゃん。旦那さん、いい相談相手を手に入れたじゃない」

「うーん、複雑……。幼くして実父もなく管領にさせられてるから、うちの父や上泉さん以外の手本ができるのは悪くないと思うけど……」


 於佳津と紗絵が会話しながら、回れ右して振り向く。紗絵にしてみれば、庇護してもらった恩人を、今は庇護することになった。

 自分がとんでもない力を手に入れてしまった。その恩人にも、力を持ってもらって、並び立てる存在になれればいい……という思いがある。将門が取り憑いたことが、力の開花のきっかけになれば、本当は紗絵にはうれしいところなのだろうが……。自分だけを頼って欲しいというのは贅沢なのだと思うことにする。

 ほかの3人と3匹も、彼女らに続いて振り返ると、天満宮はほとんど残骸に帰していた。


「ここまで壊れていればね。でも、尻尾を先に動けるようにしておいたらどうかしら」

「いい考えね。紗絵ちゃんと緒江ちゃんは、けっこう力を使っているけど、わたしと涼ちゃんと茉っちゃん、それに狐たちはまだ余裕があるから……2人と3匹はわたしに力を合わせてね」


 於佳津が声をかけて念を招嵐剣に込め始め、茉と涼と狐たちが念を合わせる。


「地よ、裂けよ!」


……ズシン!……


 於佳津が招嵐剣を地面に突き刺すと、地割れが北東に向って走る。剣が刺さった場所では、亀裂は深く深く地中に達して……


「手ごたえあったわ……すごい硬いところに、衝撃が当たって跳ね返ってきた」


 於佳津は、金龍の尻尾のあるところまで、土に亀裂を入れたのだ。


「念のため、少し壊しておきましょうか」


 あとは5人全員で得物を振り回し、力づくで御神体や残った調度を破壊し、社殿を完全な崩壊に追い込んでいった。


「お姉さんたちや紗絵ちゃんみたいに、重い得物に変えようか知らねえ。普通の刀じゃ物足りない」

「うん。茉様と同じに思っちゃった。もうちょっと重いものの方が、いろいろ壊すのに便利よね」

「2人とも、わたしの同い年の頃より、ずーっと鍛えてるものね。いろんな武具から選り取り見取りだわ」

「呪いの強化はお姉さんたちほどじゃないから……どんなのがいいのかしらね……。きゃっ、なに今の?」

「動いたのかしら? 地面が。あっ、また……」


 御神体を打ち壊した茉と涼の会話に於佳津が応じていると、まるで、どくんっどくんっと波打つように地面が動いた。

 金龍の復活が間近に迫っていた。

 国をひっくり返す……その第一歩である。

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