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15. 新クラス親睦会

 始業式の後、再びクラスに戻って学級委員やら図書委員やらを決めるホームルームが終わると、登校初日である今日はお昼前に解散となった。


 授業すらなく、たったの数時間学校にいただけだというのに、どうしてこんなに疲れているのだろうか。


 朝の一件から、新クラス、始業式での長話といろいろ理由は考えられるが、明日からは今日の倍以上学校に拘束されると思うとうんざりする。


 くぁっと大きなあくびをしながら秋人は靴をえて昇降口を出る。全学年がほぼ同時に解散となったためか、周りは下校する生徒でいっぱいだった。


 生徒の大半は元からの友人か、はたまた新しくできた友達かは知らないが、複数人できゃっきゃうふふと楽しそうに会話しながら歩いている。午前下校ということもあり、彼らのテンションは軒並のきなみ高い。


 校庭をつっきり校門まで秋人が歩いていると、ふと近くの7-8人程度の集団の会話が耳に入った。


「このあとどこ行く!?カラオケ!カラオケ行くべ」

「ボウリングでもいいな、どうよ?」

「うしっ、じゃあどっちも行くぞー、せっかくの新クラス親睦会しんぼくかいだかんな。ぱーっといこうぜ」


 親睦会。その言葉に秋人はついさっきの教室でのやり取りを思い出す。


◇◇◇


『なぁ、秋人。このあとクラスの行ける人で親睦会でもやろうって話になってるみたいなんだけど来るよな?』


 担任に解散が告げられた瞬間、真っ先に帰り支度を整え立ち上がった秋人を引き止めるように小西が声をかけてきたのだった。


 『行かねぇ……』とだけ答えて、秋人がそそくさと帰ろうとすると、グイッと後ろからすそを捕まえられた。


『なんでだよ?行こうぜ?暇だろ?』


 こういう場合は大抵、「一応形だけでも佐藤君を誘っておこう」という余計なお世話からくるお誘いなのだが、こいつの場合は一目で違うと分かる。小西は本当に純粋に自分に来てほしいと思ってくれているのだろう。


 だが、しかし。

 頭の中で軽くシミュレーションをしてみる。現状、秋人と友好的に接しようとしてくれているのは目の前の小西のみ。しかし、ここで忘れてはいけないのは、小西は現時点で仲のいい友達がクラス内にいなくとも、周りから人気を集める人種であることには変わりないということだ。


 とすると、この場合、ファミレスに行くにしてもカラオケなどに行くにしても、次第に小西はみんなの話題の中心へ、残された秋人は結局隅っこでコップ片手にストローを咥え続けるだけという情景がありありと目に浮かぶ。その結果、今年一年、『ドリンクバーの元をとるやつ』などという不名誉なレッテルを張られる羽目になるのだ。


 これはアレだ、友達に誘われて、その友達の友達との遊びに付き合わされるという構図に似ている。こちらとしては面識があるのが誘ってくれた友達だけなのに、肝心のそいつに放置され、結局のところ、突然、仲のいい友達グループに紛れ込んだ異分子としてアウェーな状況に追い込まれるというよくあるアレだ。


 あれほんとなんなの?こっちが渋ると「大丈夫、みんなやさしい奴らだから!」とか言って人数合わせのために必死に誘ってくるくせに、いざ行くと完全放置って、誘ったんなら最後までちゃんと責任とってね?


 ……と、つい昔の苦い経験をフラッシュバックさせてしまった。

 いかんいかんと意識を本題に戻すが、結局のところ秋人の出した結論は、


『悪い。やっぱ行かないわ。夕方に用事あるから』


 純粋に善意で誘ってくれた小西には心の中でごめんと謝っておいた。決してお前は悪くない、だがお前が人気者である限り、俺に未来はないのだ……などと思いながら一人教室を後にしたのだった。


◇◇◇


 今頃は、教室内で目の前の小集団と同じように、親睦会の場所でも話し合っているのだろうか。だとしてももう秋人には関係のない話だった。


 そんなこんなで、帰りに夕飯の買い出しでもして帰るか、などと考えながら朝来たのと同じ道をもくもくと帰っていると、進む道の先に意外な人物の後姿を見つけた。見慣れた白いセーラーの制服に腰上まであるストレートの黒髪、カバンを肩にかけ紐を手でつかみながら信号待ちをするのは、間違いなく秋人の隣人、黒葛原つづらはら 聖楽せいらだった。


(あいつ……、クラス会とかあるんじゃないのか?俺みたいにさぼってきたなんて考えにくいけどな……)


 秋人の脳内では、てっきり今日は聖楽の分の夕食は作らなくていいものだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。普通であれば、道の先に知り合いを見つけたとしても話しかけようなどとは思わないのだが、今に限ってはこれからの買い出しに関わってくる問題だ。日常会話は苦手でも、きちんと名目と話題が決まった事務連絡は得意なのが陰キャの特徴だ。そういう時だけよく口が回る。


 ということで、今日の夜はどうするのかと、それだけでも確認するために、秋人は声をかけることにした。


「……よっす」

「うわっ!?び、びっくりしたぁ……。いつからいたのよ。そんな気配消して近づいてきていきなり話しかけないでよ、もう」

「いや、普通に歩いてきて声かけただけなんですけど……」


 まるで自分が不審者か、はたまた幽霊であるかのような反応を受けて、内心かなり傷つく秋人だった。

 んんっと一つ咳払い。気を取り直して本題に入る。


「おまえ、クラスの集まりとかないのか?今から買い出しに行くつもりだったけど、今日はお前の分作る気なかったぞ」

「ああ、そっか、そういうこと、これからは連絡したほうがいいんだもんね。私のクラスはみんなで集まるの土曜日になったんだ。今日用事があって行けないって子が何人かいたから。ってか、そういうあんたこそ、なんでここにいんのよ?集まりは?」

「行くわけないだろ、そんなもん」


 そう答えると、はぁぁぁ~と大げさにため息をつかれてしまった。聖楽はもはや呆れを通り越して侮蔑ぶべつの表情でこちらをにらみつけながら、あのね、といつもの説教口調が始まった。


「いい?クラス会ってのは、たとえまだ仲良くなくても、クラス全員が行くことに意味があるの!あんたみたいに最初っから、仲良くなる気ないですよ、みたいな行動してると周りは絡みずらいの。たしかに、あんた去年はクラスで孤立してたかもしれないけど、だったら今年のクラスで友達作ればいいじゃない。また今年もボッチよ?それでいいわけ?」

「……趣味が合いそうなやつがいないからな。別に無理やり付き合うくらいだったら、一人の方がラクなんだよ」

「趣味が合うだけが友達じゃないっての……。趣味に限れば、あんたの言うこと私だって分からないわけじゃないけど……。けど、やっぱり、たとえうわべの関係だとしても、周りとは仲良くしておくべきだと私は思うけど」


 ぴっぽーぴっぽーと電子音の鳩の鳴き声が青信号の合図を知らせる。秋人が渡りだすと、当然ながら聖楽も横をついてきた。


「まぁ、これに関してはあんたの考え方次第だからこれ以上しつこくは言わないでおくわ。ところで、買い出しって何買うの?暇だし私もついてっていい?」

「ん?まぁ、いいけど、別に楽しいもんじゃないぞ。そこのスーパー行くだけだし」

「私もお菓子とか買うし。あと、ついていけば今日の献立を操作出来たり?」


 聖楽は、長い黒髪を耳にかけながら、何かを企むような顔でニヤッと笑ってこちらを振り向いてきた。

 その仕草がやけに大人っぽくて、秋人は不意に自分の胸がドキッと鼓動を打つのを感じる。


「ん、まぁ今日は時間あるし、リクエストがあれば聞いてやる。手のこったやつでもいいぞ」

「お、やった!そう言われると無茶振りしたくなるのよねー。ん~、何がいいかな~」


 そうして、秋人と聖楽はアパートまでの道を()れ近くのスーパーへと向かった。



ポイント評価お願いします!

感想もよろしければぜひ聞かせてください。


親睦会には結局行かないというプチタイトル詐欺。

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