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10.聖楽の本性

うっ、また二週間たってるだと……

(やばい、まじで、死ぬ……)


 息の限界を迎えた秋人が首に巻きついている聖楽の腕をパンパンっと叩く。こんな細い腕のどこからこんな馬鹿力が生まれてくるのだろうか。


 しかし、聖楽の力は弱められることなく、秋人の視界が端から徐々に白く染まっていく。だんだん聖楽の腕を叩く手にも力が入らなくなって、世界が遠のいていく――、


「せ、聖楽ちゃん!死んじゃう!秋人くん死んじゃうよ!顔が死んだ魚みたいになりかけてる!」


 秋人が失神するギリギリのところで琳佳が慌てて止めに入った。その声を聞いて、聖楽は我に帰ったようにふっと腕から力を抜いた。


「……っはあ、はあ、あぁまじで死ぬかと思った……」


 解放された秋人は必死の形相で思いっきり息を吸い酸素を確保する。


 (た、たすかった……。まじで死ぬとこだった……。けど琳佳さんにナチュラルに死んだ魚とか言われた気がするんだけど……。え、やっぱ死にたい)


「ご、ごめん……、やりすぎた」


 聖楽は若干気まずそうに小さな声で呟いた。一応やりすぎたという感覚はあるのかと秋人は変なところで感心してしまう。


「本当だよ。目の端っこがふわーって白くなっていったぞ」

「ごめん……、でも!あんたが悪いんでしょ!そうだ……!本当最悪!なんでそんなベラベラと人の隠し事言えちゃうわけ!?」


 反省して、しゅんとしていた聖楽だったが、途中で怒りを思い出したようだ。綺麗に整った顔を鬼のように歪めて秋人を糾弾する。


「わ、悪かったよ。琳佳さんならいいかって……」

「ほんと、信じらんない!あれだけ言わないでってお願いしたのに、なんでたったの数時間で破ってくれるかな!?」

「まあまあ、聖楽ちゃん、一旦落ち着いて?ね?」


 なかなか収まりを見せない聖楽と秋人の喧嘩を見かねて、琳佳が宥めようとする。年上の琳佳に言われてようやく聖楽は落ち着きを取り戻し、ドスンと乱暴に元の場所に腰を下ろした。


「もう、二人ともいきなり喧嘩始めるんだから……。お姉さんびっくりしちゃったよ」

「だってこいつが……」

「いや、でもちょっとやりすぎだろ……」


 首をさすりながらボソッという秋人に、「はあ〜?」と再び聖楽が噛みつこうとする。


「はいはい、二人ともそこまで。秋人くん、人の言われたくない秘密を勝手に自分の判断でペラペラ言わないの。聖楽ちゃんも、怒るのは分かるけど暴力はダメだよ?」


 再燃しかける二人を、琳佳は少し強い口調で止め、「はい、二人ともちゃんと謝って」と促す。


 流石に年上のお姉さんに強くそう言われてしまえば逆らうこともできず、「……悪かったわよ」「あ、ああ……、すまん」としぶしぶながらお互いに謝罪を口にする。


 その光景を見て琳佳は満足したようで、ぱんっと手を軽く叩くと、


「はい、じゃあもう喧嘩は終わりね。それで?聖楽ちゃん、本たくさん読むの?」

「うっ……、ま、まぁそれなりに……あはは」

「ふふっ、まぁ聖楽ちゃんが話したくないならいいけど、私も漫画とか読むよ?そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな。そういえば、今秋人くんからライトノベルも借りてるし」


 「タイトル、なんだっけ?」とキョトンとした顔で琳佳は秋人に尋ねてくる。


「ああ、ええっと……」


 首を傾げたときにサラリと揺れる琳佳の髪に気を取られながら、秋人は貸していた本のタイトルを答えた。


「え!琳佳さん、そのラノベ読んでるんですか?どこまで読みました?それ、3巻からの盛り上がりがすごいんですよ!」


 ラノベのタイトルを聞いた瞬間、聖楽はまだ食事がのっているテーブルを興奮した様子でバンっと叩いて琳佳の方へ身を乗り出した。


「え、ああ、うん、まだ2巻の途中なんだ……?」

「え〜じゃあ早く3巻まで読んでください!絶対後悔しないんで!3巻で主人公のライバルが……あ〜もうやばいネタバレしたい!!」


 ラノベの話が出た瞬間豹変した聖楽に、琳佳は身体をのけぞらせて若干引き気味の様子だ。


 そのまま聖楽は熱のこもった作品愛を語り出し、なんとか琳佳に続きを読んでもらおうと必死になっていた。


「それでですね!なんとってもサブヒロインのユリンちゃん!あの子がほんとにいいキャラしてるんですよ!あーでも、原作でユリンちゃんが活躍するのは7巻……、ね、やっぱ早く読んでください!」


 ズンズンと聖楽が迫るにつれ、ズリズリと琳佳が後退していく。困り果てた表情で琳佳はちらっと秋人の方に助けを求める視線を送る。


「……ねぇ、秋人くん、これって……」


 どうすればいいの?と聞きたいのだろうが、そんなもの秋人にだって分からない。秋人は、聖楽の様子に苦笑いすることしかできなかった。


 そう、今日の昼の時も、予兆はあった。間違いない、聖楽はボロが出やすいタイプなのだ。そして一度タカが外れると周りが見えなくなるタイプでもある。もしかすると、聖楽がこの趣味を隠そうとする理由の一つにこれもあるのかもしれない。


「おーい、隠せてないぞ、おまえ……」

 

 外野から秋人がそう呼びかけると、聖楽は体を一瞬びくっと跳ねさせたかと思えば、顔を伏せながらものすごい勢いで後退し、琳佳からズササっと距離を取った。しまいには壁の隅で近くにあったクッションに顔を埋めて体育座りしている。


「い、今のは……わ、忘れて……ください」


 直接表情は分からないが、よく見ると耳が真っ赤になっている。なんて声をかけていいか分からず、秋人はチラッと視線だけで琳佳にパスを出す。それを受けた琳佳は、驚いたように自分を指差して「え、わたし?」と口パクで言うと、困ったような表情のまま、


「ま、まぁまぁ、一旦落ち着こう?ほら、ハンバーグ冷めちゃうし。大丈夫、聖楽ちゃんをへ、変な子だなんて思ってないから!」

「変な子……」


 だめだ琳佳さん!その言い方だと思ってるのがにじみ出ちゃってるよ……!と秋人は内心ひやひやしながら見守る。


「あー……、えーっと……、そうだ!あのラノベの続き、秋人くんに借りて読むから!絶対読むから!だから元気出して?ね?」

「……ほんとに?」

「う、うん。だから、ほら、ご飯食べちゃお?」

 

 琳佳の必死の説得に聖楽はコクリと小さくうなづいてモソモソと四つん這いでテーブルに戻ってきた。


 んーちょろい、ちょろすぎるぞこの同級生。それでいいのか本当に。秋人は驚きを通り越して呆れの眼差しで聖楽見る。


(こいつ、本当にあの黒葛原(つづらはら)か……?ギャップがすごすぎてついていけねぇ……)


 そんなことを思いながら、やっとのことで再開した夕食はその後、聖楽の地雷を踏まないよう当たり障りのない話題で終わりを迎えた。



ポイント評価お願いします~!

何と珍しく次話もできてるので明日0時過ぎに投稿します!ぜひ見に来てください!

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