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第九話



 当初の予定通りにゴブリン討伐を再開し、ラドリアのおかげもあって時間が掛からず残り二匹を討伐すると、俺達はギルドへ戻った。


 ゴブリン討伐の報酬を貰うためだ。


 俺達の現状として一銭もない。勇者の支援金を貰えれば当分は働かなくていいのだが、それは五日後に支給される。


 まあ、でも。ゴブリン五匹だと端金にしかならないが、貰えないよりはマシな感覚だ。

 魔大陸ではいくらゴブリンを狩ったところで無賃金だったからな。


 とりあえず、低賃金で効率も悪いが、ギルドの受付へ行き、換金場所まで誘導される。


 倒した証明が必要ならゴブリンの死体を目の前で出そうと考えていた俺は、換金所を受け持つギルド員へ聞いたらいらないらしく、ギルドのシステムとやらを説明された。


 討伐依頼は現地へ行き、指定された魔物を倒すだけ。

 採取依頼は指定された物を持ち帰り、報酬と引き換えとなる。


 他に護衛依頼など多岐に渡るものも説明されたが、長くなるので割合する。


 つまるところ、討伐依頼は楽に終わる。


 冒険者だったらギルドプレート、勇者だったら首飾りに。倒した魔物の種類などが精密に反映され、それをギルド側が見て報酬を渡すらしい。


「依頼の受注証明書とギルドプレートを」


 男性職員にラドリアが渡す。

 ゴブリンを倒したのはラドリアだけなので、俺の首飾りは外さずに待つだけだ。


 二分少々の短時間で確認を終えたギルド員は困った顔をしていた。


「あの、諍いでもありましたか……?」


 諍いとは何のことだろう。


「何か問題が?」


「……ええと、こちらのほうにゴブリン三匹を倒した後に数十名の冒険者と三名の勇者様のお名前が書かれています。これが事実ですと、少し面倒事になると言いますか」


 記憶を遡り、あいつらのことかと思い至る。


 森の浅瀬で勇者及びその他十五名を殺したことだろう。ピンと浮かばなかったのは俺達にとってゴブリンを殺すのと勇者を殺すのは同じだ。


 理解できる言葉を発して喚くかどうかの違いしかなく、害虫駆除をやった気分なのだ。


 ここは人族の領地。感性が異なることを早めに慣れないといけないなと思いつつ、長年染み付いた魔族としての生き方は拭えはしないと思ってもいる。


「そういえば、あいつらからイチャモンを吹っ掛けられてな。殺されそうになったから殺したわけだが」


「……では、事実なのですね。こういう件は稀にあるのですが、ギルドマスターを呼んで審議に入るので少々この場でお待ちになっていただいてもよろしいですか?」


「テイカー様、どうしますか?」


 ラドリアが俺と職員の間を割って問い掛けてくるが、それは面倒事になる前に逃げるかってことか。


 周囲を見渡しながら戦闘体勢に移行したラドリアの横顔を見る。直ぐに俺の予想は外れていたことがわかった。


 この顔は過激なことを考えているラドリアだ。


 全員殺そうとか思ってそう。


「やめよ。俺たちは悪いことはしていないからな。正当防衛だ。審議の結果によってはやぶさかではないが、最終的な結論を聞いてからでも遅くはあるまい」


「かしこまりました」


 糸に魔力を送っていたラドリアは俺の言葉でやめ、一歩後ろの定位置に戻った。


 不穏な気配を感じてか、困り顔を引きつらせた職員へ問う。


「待ってもいいが、どれぐらい掛かるんだ」


「じゅ、十分少々で構いませんので」


「わかった。では、大人しく待つとしよう」



 ギルドの受付とはまた別に設置された換金所はギルド内の橋に置かれており、依頼を終えた冒険者がこぞって来ていた。


 プレートを証明書代わりに職員へ出し、報酬額を受け取って一喜一憂してたりと様々な反応をしている。


「いやぁ、美味しい依頼だったな。飲みでも行こうぜ」


「うわ、これだけかよ。馬車代含めると赤字じゃねえか」


 そんな彼等の様子を見物しながら時間を潰していたら、俺達のほうへ先程の職員が老けた男性と若い女を引き連れてやってきた。


「おい、あれって……」


「ほ、本物だよな。初めて見た……」


 遠巻きに見ていた者達が俺達のほうを注視し、野次馬が群がって大きな輪ができていた。


 そんな空気を意に介さない白い髭を蓄えた男性が名乗りを上げる。


「大聖堂ギルド支部を受け持っているギルドマスター、ヴェルスタという。勇者となったそなたの報告は来ている。それで、勇者同士の争いが発生したとのことだが……詳細を聞く前にこちらの御仁を紹介したい」


 そう言って隣から出てきたのは若い女。

 外見はラドリアと同じぐらいの年齢で薄い桃色の髪をしていた。


 腰に差しているのは一本の剣だ。束の部分が黒く、持ち手は白い。刀身は見えないが、鞘は髪色に合わせた桃色となっている。


 その女は元気よく前に出ると俺に両手を出して頭を下げてきた。


「あの、初めまして! キョウカ・サエギです! 好きです、わたしと付き合ってくださいっ!」


 何を言っているのだろうと考えてしまった。


「……」


 数秒ほど思考したが、何言ってんだ、こいつ。

 理解できない。


 頭に花畑でも湧いてんのか。


「あっ! 間違えました! その、一目惚れしちゃって、聞く順番を間違えましたね。えっと、隣に居る女性って彼女とかですか……?」


「そうですが、何か?」


 ラドリアが対抗して俺の前に立ち、さも当然のように返すが、訳分からなくなるからやめてほしい。


「……ラドリアは下がってくれ」


「はっ」


「あんたがここの最高責任者たるギルドマスターなのは分かったが、この女はどうしてここにいるんだ? 関係ないだろう」


「キョウカ・サエギです!」


 視界に映る女を無視してギルドマスターへ聞く。


「知らないのも驚きだが、こちらの方は七聖勇者でな。丁度、この支部に来ていたので、判決をこの方に一任することにした」


「七聖……?」


「テイカー様、あの勇者が言っていた七聖です。あの勇者は七聖シュウスケと言っていましたが、同類の者です」


 またしてもラドリアが俺の前に陣取り、魔糸を行使するために両手を広げた。

 魔力を纏わした魔糸には尋常ではない殺意が乗っている。


 一触即発の空気に野次馬たちも視線を集中し、剣を抜く者までも現れた。


 騒然となったギルド内で、俺を含めた三人だけが平然と話を進める。


 平然なのはギルドマスターと隣にいる七聖勇者の女。


「どういう経緯なのか分からないが、矛を納めてくれんか」


「俺が殺した勇者は因縁を勝手につけてきた挙げ句、七聖シュウスケなる者が俺たちを殺しにくると喚いていた。この女も七聖なんだろう。俺たちを殺しに来たんじゃないのか」


「何のことですかー? わたし、分かりません。七聖のシュウスケさんとは同じ地球から来ましたけど、ほぼほぼ無関係ですよ!」


 間延びした声で七聖キョウカ・サエギは身振り手振りで関係を否定するが、それに苛ついているのはラドリアだ。


「この女、殺していいですか?」


 中々、混沌とした状況を作り出している。


「……話がややこしくなるから少し黙っていてくれ。あとそこの女も口を閉じろ」


「……はっ」


「ええっ!? むぅ、分かりました。……お口にチャックしときます」


 二人が黙ったのを機に、俺はため息を吐きながらギルドマスターと対話する。


「それで審議というのはどうやる。俺たちは吹っ掛けられた喧嘩を買って、殺されそうになったから皆殺しにしただけだ。それが悪いというなら、俺たちはそれ相応の対応をするが」


「勇者含め冒険者を殺した事実は認めているのだな。それならば、本来なら現場検証などをやってからだが、今回は七聖勇者キョウカ・サエギ殿の能力を使って判決してもらう」


「能力?」


「固有スキルと言うらしい。神から与えられた七聖たる力だ」


「そうですっ! 過去を覗き見してサクッと解決します!」


 女が再度でしゃばってきた。


 ラドリアの眉間に皺が寄るが、俺の言い付け通りに口を閉じている偉い。


 過去を覗き見とは精神異常系の能力か。

 魔大陸だと淫夢族、通称サキュバスが持つ能力と同系統。


 どれほどのものかは知らないが、厄介な力だ。


「また珍しい力だな」


「そうなんです。手を触れたら発動するので、無実かどうか見極めるためにもどうぞ両手を」


 手を握るために嬉々としてやってくるが、俺はそういう精神干渉に対して耐性が一切ないのでどうしようかと悩む。


 しかし、勇者を殺したのはラドリア。

 ラドリアはあらゆる耐性があるので、任せることにしよう。


 七聖が俺のほうに手を差し出してくるのを避けて、脇にどけてラドリアにお願いする。


「ラドリア、両手だそうだ」


「……わたし、ですか」


「ええっ……あなたですか?」


「何か文句でも?」


 険悪な表情で互いに睨み合っている。


「喧嘩はよしてくれ」


 俺が仲裁に入ると、二人とも嫌々といった形で手を握る。


 この七聖勇者は俺たちが勇者を殺した件について審議するため、過去を視るのだが、どこまで視れるのだろう。

 俺達が魔族と分かってしまうのか。


 まあ、そのときはそのときだな。


「では、記憶を遡ります。……これは、糸でしょうか。三人の勇者に複数の冒険者。憧れに、恋……」


 目を瞑りながらぶつぶつと呟く七聖勇者。


「……いつまで手を握られなければいけないのでしょうか。虫酸が走ります」


 人族に拒否反応でも持っているのか、ラドリアは心底嫌そうに顔をしかめている。


「我慢してくれ」


 そうこうしていると七聖勇者が目を開いた。


「……魔族?」


 俺とラドリアを交互に見やり、まさかと驚いて出てしまったような小さな声でそれを呟いた。

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