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第七話

あらすじの下に書いたのですが、基本的に週末は更新しません。

 ギルドを出て、元来た道と逆方向に歩いていく。


 方向に意味はない。俺達が向かう先は都市を出るために通る関所。しかし、この都市の中心点は先ほどまで居たギルドで、前後左右に大通りが伸びている。その道に従って歩けば、どの道もたどり着くのは関所となる門なのだ。


 そう距離も変わらなさそうなので、見ていない箇所も観光気分で二人してほっつき歩いている。


 ここは幻想的だ。

 人族が作り出し、生み出したという汚点を除けばだが、俺が支配したいぐらいである。


 ここを宵闇で覆えば、さぞ美しくなることだろう。


 だが、俺は魔王をやめた。

 人族の領域で大々的に拠点を作ろうとは考えていない。ひっそりとした住居を構え、そこで部下達と暮らすのだ。


 理想の未来を描いて、呑気なことを浮かべているとラドリアが俺にさりげなく近寄り、小声で聞いてくる。


「先ほどギルドにいた取巻き一人がわたしたちの後ろを着けています。あの勇者の差し金でしょうが、いかがなさいますか。殺しますか?」


 そう判断を求めてくるが、ラドリアは一度も後ろを振り返っていない。なのに、どうして分かるんだ。


 本当かどうか確認するべきなのだろうが、ラドリアが言うのなら確かだろう。


「たまたまじゃないのか?」


「いえ、明確にこちら側へ意識を向けています」


 ラドリアが偶然を否定する。

 あの勇者の反感を買ったのかもしれない。


 ギルドを出るとき顔真っ赤にしてたし。


「放っておけ。俺たちに敵対するのなら武力行使に出るが、目的が分からないままではな」


 俺も然り気無く後ろを振り返り、後を着けてきている者を見ようとするも誰が追跡者か判別できなかった。


 ここは大通りで人の行き来は激しいし、馬車だって通っている。出店なども並んでいて遮蔽物が多く、俺が後ろを見たところでどいつが勇者の取り巻きなのか分からない。


 そもそも、勇者の取り巻きなんて顔すら覚えてなかった。


「では、不穏な動きをみせた場合、迅速に対処にあたります」


「ふむ、頼りにしている」


「当然の役目です。テイカー様をお守りするのもわたしの仕事、こういった技術はアザメもルーリエも身に付けておりますゆえ」


 アザメとルーリエの二人もか。

 見掛けによらず、こういうことも出来るとは今まで知らなかった。

 まあ、俺の部下だし、そらぐらいは当然か。ラドリアが直々に教えているときもあるし。


 二人には暫く会っていないが、念話で伝わっているからもうそろそろこちらへ向かっている頃だろう。


 そんなこんなで追跡者に後をつけられながら、俺達は関所までやってきた。


 関所は四方の門であり、大通りから伸びた長い橋となっている。湖に建っている国という珍しい場所ならではの趣を感じる。


「そういえば、俺たちここを通らないで入ってきたけど、出るときは大丈夫だよな?」


 何人か並んでいる最後尾を陣取りながら順番待ちをするついでにラドリアへ話を振る。


「ギルドから渡されたプレートや御身が身に付けた首飾りは身分証にもなっているので、これを見せれば問題はないかと」


 ラドリアは白銀色の薄いプレートを取り出し、俺に掲げる。

 そこには名前が掘られていて、ラドリアのフルネームが刻まれていた。

 俺の首飾りには名前が刻まれることもなく、ただ光っているだけ。これが証になるのだろうか。


 俺の首飾りなんて、勇者から殺して奪えば簡単に成り済ませそうだが。

 そうこうしていると俺達の番がやってきて、平然とラドリアがプレートを見せて素通りし、続いて俺も首飾りをローブの中から取り出して警備兵に通行の許可を求める。


 兵士の反応は顕著だった。


「ゆ、勇者様でしたか。どうぞ、お気をつけて!」


 周りの者と対応していたときと違う。目上の者を敬うような態度。


 これから先、勇者と言われることに慣れることはないだろうが、勇者であれば暮らしやすい国かもしれない。


 そんなことを思った。


 何もせずとも金が入り、施設代も優遇される。

 勇者ランクを維持し、二ヶ月に一度は魔族を殺すという点はあるが。 


 無事に関所を超えたら、すぐ近くに鬱蒼と生えている木々の中へと足を踏み入れる。

 国を抜ければ森に囲まれている。


 ここにゴブリンが居るそうだ。依頼票に書いてあった。


「さ、ゴブリンを見つけてぶっ殺すとするか。目標は五匹、早めに済ませよう」


「では、索敵を開始します」


 そう言って、ラドリアが両手を広げた。


 ローブで隠れていた指先が太陽の下に晒される。

 雪のように白く、指荒れもない。

 不健康気味に青白いが、綺麗なものだ。


 肌が青いのは不死者の適性を色濃く受け継いだ証拠でもある。


 白い手には俺と同じような指輪が十個嵌められ、そこから伸びるのは薄い糸。魔力を送り、操ることができる。

 因みに、俺にはその糸が見えていない。


 極薄の糸すぎて、純近接型しか見えないだろう。近接型は身体強化が得意な傾向があり、俺のような遠距離型は苦手とされている。

 ラドリアは一冊の厚い本を大事に持っているから魔術師と勘違いされることもあるが、魔糸使いだ。


 両手から広げた糸から反応を拾ったのか、ピクッと肩を動かして俺に教えてくる。


「ここから真っ直ぐ、五分歩いたところにゴブリンが三匹。付近に他の反応はありません」


 野良のゴブリンか。

 群れる習性を持つゴブリンが三匹しかいないのは珍しい。

 魔大陸だと一匹見つければ百匹は近くにいる。雑魚な代わりに数が多くて駆除するのが大変面倒なのである。


「よし、依頼は五匹だけだし、好都合だな。大量殺戮もする気はないし、簡単に済ませるついでに魔大陸との違いを知ろう」


「では先導致します」


 ラドリアの後ろを着いていくと報告通りにゴブリンがいた。

 木の棒を振り回し、三匹で戯れている。


 俺とラドリアが音を立てて近寄るとこちらへ気付き、敵意剥き出しにして唸り声を上げた。


「緑の肌に黄色の目、あちらと変わりはないようだな。背丈も腰ぐらい、全体的な筋肉の付き方から非力なのも同じ。もしかして、あのクソ野郎が作ったのが、人族の領域まで来ているのか」


「どうでしょうか。ゴブリンごときが魔大陸を渡れるとは到底考えられませんが」


「だが、あのクソ野郎なら人族の領域に手を出してもおかしくはない」


 クソ野郎とはゴブリン族の王、第五魔王だ。

 魔族や人族の女を拐い、ゴブリンの子を孕ませ屈強なゴブリン戦士を厳選しているクソ野郎。


 あいつの精鋭部隊は全員がゴブリンだが、肌が黒だったり、巨人族のような体格を持つ亜種で編成され、数も多いため非常に厄介な部隊である。


 目の前にいる普通のゴブリンのように肌が緑で目が黄色、体格も並み程度だと第五魔王の都市から追放されたり、雑兵にされたりで魔大陸のそこら中にゴブリンの巣が作られている原因は第五魔王のせいである。


 そんな、はた迷惑なゴブリン達に多大な被害を被っていたのは第七魔王が管轄している蠱惑の都市。女型魔族しかいないそこは第五魔王の格好の的とされ、一時期は魔王同士の抗争が勃発していた。


 俺のほうにも被害が出たので、第七魔王とは短期間だけ同盟を組んでいた縁がある。

 俺も言えたことじゃないが、第五魔王は非人道すぎる行為を散々やり尽くし、俺の部下までを標的にしようとした。


 さすがに看過できず、都市同士の戦争が勃発したが、良い機会だったと言えよう。

 俺と第七魔王の都市に被害はなく、第五魔王の全体の五割は削れたからな。


 そんなわけで、俺は様々なゴブリンを殺した経験がある。


 しかし、目の前のは見たところ本当にただのゴブリン。

 唸り声を上げ、威嚇してきて今にも襲いかかってきそう。


 だが、俺は対話を試みる。


「我が名はテイカー。第二魔王、宵闇都市を支配するものなり。貴様らに問おう。お前たちの主人は誰だ」


「キヒッ?」


 小首を傾げるゴブリン。

 野良のゴブリンは話など通じないが、第五魔王が管轄する都市には話をするゴブリンもいる。


 俺はこいつらを、本当はクソ野郎の指示でやってきた斥候役なのではないだろうかと疑っている。魔大陸の全都市に人族側を刺激するなとお触れは出ているが、第五魔王がゴブリンの尖兵を放ち、バレても知らぬ存ぜぬを通しそうな輩だ。


 俺は言葉の意味を理解してそうにないゴブリンを前にして、一歩前に踏み出して魔王らしく再度問う。


「もう一度だけ聞く。二度目は無いと思え。お前らの主人は誰だ」


 それなりの魔力を解放し、圧を送るも過敏に反応したゴブリンが木の棒を片手に襲い掛かってきた。


「キシャッァ!」


 俺は嘆息する。

 これぐらいの圧を見せれば斥候役ならいち早く逃げに徹する。


 つまり、このゴブリンは野良。


「知ってた。やっぱり話も通じねえし」

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