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第六話

 金に目を眩むとはこのことだろうと理性の一部が訴えてくるが、俺は勇者になる。


 二ヶ月に一度は魔族の首を取らねばならないという制約、もとい同族殺しをするかどうかは後回しにして――言ってしまえば二ヶ月間は遊んで暮らせる。


 悪くない。そう思わないか。


 俺はこの国に留まるかも決めていないのである。


 思いっきり楽んであとは逃げればいい。なんて、考えるのは勇者に興味がないからだろうか。


「ラドリア、俺は勇者になる」


「はっ。テイカー様の道行くままに」


 俺の副官たるラドリアは賛同し、相槌を打った。


「こちらが勇者様である証明書です! 支給される聖剣については五日後には本部から届くので、後程取りに来ていただくようになります! そのときに支援金をご用意させていただきますね。あと、こちらは冒険者プレートになりますっ」


 受付嬢は俺に小さな光輝く石が銀細工されている首飾りを渡し、ラドリアには手に収まるぐらいの薄い板を渡していた。


「見たことのない石だ、これは?」


「聖堂教会本部にある神聖結晶から削り出した物になりますね。ただ光る装飾品ではなく、魔族を倒せば魂がこちらに封印されて記憶されます。勇者様は皆が身に付けていますので、必ず首に掛けてください」


「……神聖結晶か」


「ギルドプレートと同様にとっても貴重な代物なので、紛失には気を付けてくださいね。再発行には金貨五枚もかかりますので。これで登録は終わりになりますが、何か質問はありますか?」


「大丈夫だ。あとで分からないことがあれば、また聞くことにしよう」


「はい。では、お気をつけて」


「うむ」


「勇者様に神聖なる光の加護があらんことを」


 受付嬢が最後に俺達を見送るが、とてつもなくおぞましいことを言われたような気がして振り返れば、両手を胸に祈りを捧げていた。


 顔が引きつってしまう。

 光の加護とかやめろよ。浄化されるだろ。


「テイカー様。このあとはどうされますか。金は援助されるとのことですが」


「そうだな。暇だし、冒険者らしく依頼でも受けてみようか」


「では、あちらへ。あそこに貼られている票を受付まで待っていき、依頼が受注されるようです」


 冒険者の動きを観察していたラドリアの指示に従い、依頼票が貼られている箇所に足を運ぶ。


 依頼票は木製の大型ボードに何枚も貼り付けられていた。

 目を通していくと依頼の種類は様々で、報酬額や失敗したときの罰金なども詳しく書かれていた。


 俺達以外の者も沢山群がっており、依頼票を仲間同士で吟味したり、討伐対象である魔物の特性などを話している。


「ラドリアは何かやりたいものはあるか?」


「いえ、特には」


「なら、ゴブリンを殺そう」


「ゴブリン、ですか? 最下級の魔物ですよ?」


 魔大陸に繁殖しているのと人族の領地内のゴブリンは違うかもしれないが、雑魚で有名なゴブリンだ。

 緑色の肌に黄色の目。知能があるのかも怪しい耳障りな声を上げ、特に若い女型魔族を襲う。


「それはあっちの話だ。この近辺での魔物がどうなのかも知っておきたい」


「分かりました。では……後ろの者達を片付けましょうか」


「そっちは俺が相手する。依頼を頼む」


「わしこまりました。では、受付へ受注してまいります」


 素直に受付へ行くラドリアの背中を見、俺は反対方向に向き直る。

 遠くでずっとこちらを見ていた奴だ。そいつを囲む取巻き共は薄気味悪い笑みを浮かべていた。


「で、お前らは俺たちに何用だ?」


「へえ、見てたの気付いてたのな。お前、勇者なんだろ? さっき受付嬢が騒いでたの見てたぜ」


「それがどうした」


「いや、オレも勇者なんだよ。あんたの連れとお前、オレたちと同盟組まねえか?」


 勇者の証なのだろう聖剣と首飾りを見せてくる男は俺に手のひらを差し出してきた。


 握手を求めているわけじゃないのは態度からして明らかだ。


 椅子で偉そうに足を組み、軽い感じに見下している。

 態度が悪く、とても仲良く出来そうにないな。

 あと、見るからに弱そう。


「同盟だと?」


「ああ、初心者だから知らねえかもしれねえが、勇者ランクを維持するのは辛いんだよ。二ヶ月に魔族を一人殺さねえと剥奪される」


「それはさっき受付嬢から聞いたが」


 やれやれと肩をすくめた男。


「で、簡単だと思っただろ? やってみれば分かる。二ヶ月なんてあっという間だ。魔大陸に行く時間、捜索する時間、魔族を倒す時間。殺せばその場で神聖結晶の首飾りに記憶されるが、殆どの勇者が最初の二ヶ月で降格する。毎日豪遊出来る生活から一転して、負け犬になる。そんなの嫌だろ?」


「……魔族を殺すのを手伝えと言っているのか」


「そうじゃねえ。同盟を組んで魔大陸の情報を共有して、魔族をぶっ殺すんだ。そのほうが効率も良いだろ?」


「ハッ、効率が良いだ。本気で言ってるのか?」


 こいつは弱い。足を引っ張りそうだし、薄汚い考えが見え隠れしている。

 一緒に行動したところで足手まといにしかならんだろう。

 まあ、勇者と行動を共にするなんてハナから願い下げだが。


「……何がおかしいんだ。勇者になったからって自惚れてんのか、テメェ」


「それも分からないようなら……」


 そこまで言って、押し黙る。

 そうか、どうして格の違いが分からないのかと思っていたが、不死者の力を制御しているのだった。


「お前、後悔してもしらねえぞ。オレは七聖と繋がってんだ」


 七聖と聞いたことのない言葉が出てきたが、それを聞く前にラドリアが戻ってきた。不穏な空気を察してか、俺の前に立つ。


 ちらりと彼女の表情を横目にすると、彼等を虫けらを見るような目で一睨みしていた。


「……テイカー様、どうなさいましたか」


「そう睨まなくてもいいぞ。奴も勇者らしくてな、少し挨拶をしていたところだ」


「左様ですか。依頼の受注は済みましたが」


「なら、さっさと行こう。ああそうだ。なあ勇者、お前の名前は?」


 ギルドを出ようとするが、そういえば大事なことを聞くのを忘れていた。


「……勇者ランクB、大蛇のルダ」


 名前だけで良かったが、勇者ランクと二つ名を言うのが礼儀なのだろうか。

 なら俺も同じように答えるとしよう。


「俺は勇者ランクAのテイカーな。覚えなくていいぞ」


 まるで、強者のように振る舞う俺。

 いや、事実として負ける気は更々ないほど相手は雑魚で、ランクも俺のほうが上である。


 奴はそれを聞くと眉尻が上がり、顔が怒りに染め上がっていくのを俺は一笑し、背中を向けてギルドを出た。


 さあ、ゴブリン狩りだ。


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