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第四話

 俺とラドリアは人族の領域に丸一日をかけ、ようやく辿り着いた。


 魔物が蔓延る森や広野。力の持たない者なら過酷すぎる場所を通り抜け、他の魔王軍に見付からないように細心の注意を払い、神聖オートレアという都市へやってきた。


 ここはとても美しい造りをしていた。


 巨大な湖の上に建つ都市である。


 湖の中心点に十字の橋が架けられ、そこを基点に国が建てられている。


 橋を基点に建てられたものだが、支えているのは魔法によるもの。誰にでも分かるぐらい都市の基盤となる部分に魔方陣が描かれている。


 俺達は都市の造りに感嘆としながら橋を渡ろうとして、門のところで仕事をしている兵を見て踵を返す。

 旅人や商人などの長蛇の列が出来ているのだが、誰もが許可証を見せて通っていたからだ。


 俺達はそんなもの持っていない。どこから手に入れるのかも分からないため、さてどうしようとラドリアと顔を見合わせる。


「テイカー様、如何致しましょうか」


「ふむ、許可証を手に入れるのも煩わしい。さっさと中に入りたいが、他に入れるところはないのか?」


「不法侵入になりますが?」


「うむ。構わない」


「では、直ちに」


 お互いに疲れも溜まっていたからだろうか。思考能力も低下し、サクッと解決する方法となった。


 ラドリアも提案を受け入れてくれたし、侵入罪など問われるならそのときはそのときだ。


 まあ、正攻法では時間も掛かりそうだったし、これが手っ取り早いだろう。


 そんなわけで、不法侵入で橋に設置された門以外の場所から入る方法を模索。


 結論として、数分の時間を要して、ラドリアが頑張ったおかげで入ることに成功した。


 そして俺達が真っ先に向かうのは宿屋。


 ――そこで、人族のおっさんと交渉という名の駆け引きを行う。


「おいおい、あんちゃん。どこの金だこれ。見たことも聞いたこともねえ。使えねえぞ」


「そんな馬鹿なことあるか。魔大陸で発行されている紙幣だぞ」


「困るなぁ。そんなん本物かどうかの見分けも付かねえし、ここ神聖オートレアの金じゃねえと使えねえ」


「そこを頼むよ。おっちゃん」


「悪いな。オレも商売でね」


 目の前で頬をかき、困り顔をするおっさんは宿屋の受付をしている。


 何故、人族の領域に着いてから次に宿屋に居るかというと、ただ単純に睡眠欲求が限界を越えた。


 ただただ、眠い。


 日頃から溜まっていた疲労はもちろんのこと、馬に揺らされたのがトドメだ。疲れがドッと出てきたのである。


 ラドリアも酷い隈があり、健気に目を擦ったりしていたが、馬に揺られていたときは落ちそうだった。だから、俺の提案した宿屋へ直行コースに異は唱えられず、ここに居るっていうわけだ。


 そんなラドリアへ紙幣をひらひらさせながら聞く。


「……なあ、ラドリア。この金はもしかして人族の間ではただの紙でしかないのか?」


「そうですね。人族なら人族でのお金があるのでしょう。この様子であれば、魔大陸で使えていたものは使えない。そう考えたほうがよろしいかと」


「……俺、魔大陸の金しかないぞ」


「大丈夫です。こういうときも考えて、少しばかりの宝石類を持ってきております」


 そうポケットから取り出したのは指先ぐらいの小さな宝石。


 それをおっさんの前にちらつかせ、左右に振る。

 おっさんの視線が宝石にいき、ラドリアがゆっくりと左右へ動かすとおっさんの目もそれに引っ張られていく。


 口角を僅かに上げたラドリアが間をあけ、おっさんへ言った。


「これで何泊できますか?」


「……本物だよな?」


「ええ、もちろん。調べてくださって構いません」


 宿屋の受付テーブルにことりと落とした宝石は真っ赤な石ころだ。魔法なども付与されていない変哲な石。


 テーブルに置かれた宝石をつまみ、光に翳したりしていたおっさんは頷きを返す。


「本物だな。これなら二週間は朝夜の飯付きで泊めれるぞ」


「本当か。ならそれで頼む」


 でかした、ラドリア。


「部屋は一つでいいのか? ベッドは大きいが、一つしかない。二部屋にするなら一週間だけだな」


「部屋は一つで」


「なら、この鍵だ」


 というわけで、ラドリアのおかげで宿を確保した俺達は部屋に赴き、ローブを脱ぎ捨ててベッドに飛び込んだ。

 柔らかい弾みに顔を押し付けて、溜まっていた疲労を溜め息と共に吐き出す。

 ラドリアも早く来ないのかと横目で見たら、俺のローブを回収して壁にある服掛けに置いていた。


「やっと寝れるな」


「はい。では、わたしは床に」


「何を言う。お前のおかげで宿が取れたんだ。こっちに来い。ベッド広いし、二人で寝よう」


 普通に二人で横になれる大きさだ。問題ない。


「……いいのですか?」


「ああ。ほら、寝るぞ」


 遠慮しているラドリアへ手招きする。


「で、では、失礼します」


 おいそれと入ってきたラドリアへ毛布を上げ、二人して柔らかいベッドの感触を味わう。


 いやに緊張するラドリアを余所に、俺は微睡みの中へと誘われていく。


 これからのことなど話もしたかったが、それは後でいいか。





 この人族の領域に着いたのは朝方。丸一日をかけて到達したのは魔大陸に隣接している神聖都市オートレアである。


 大きな湖の上に建てられた都市は、巨大な白い建造物を中心に街並みが作られており、魔法を利用しての水路があったりと美しい外観をしていた。


 初の人族の領域に魔族の俺達が踏み入ったわけだが、宿屋の窓とか覗いた大通りは思いの外賑わいがあって驚く。


 ただ、中でも目を引くのはやはり戦時中のためか、武装している者が多いことか。それらを対象にしている出店もあり、人波で通りが混雑していた。


 そんな俺は窓際の椅子に座り、行き交う人々の様子を眺めている。

 俺は昼過ぎに意識が覚醒し、今だ隣で寝息を立てているラドリアを起こさないようベッドを這い出、椅子に腰を落として寛いでいる。


 さて、この国に来たはいいものの何をすればいいものか。


 暇をもて余す感覚を楽しみながら俺は思案する。


 求めるのは安寧。

 意味のない争いをせず、暇を謳歌できる拠点だ。


 生活基盤を整えるためにも何かしらやらなくてはいけないのだが、どうせなら俺自身が楽しいと思えるものをやりたい。


 顎に手を置く。


 書類整理みたいな地味なやつは飽きた。

 体を動かし、単純明快な仕事で尚且つ羽振りが良い仕事なら喜んでやるが。

 中々ないか。


 そうこう考えに更けていると、ラドリアが目を覚ました。


「おはよう。よく寝れたか?」


「はい。おはようございます。テイカー様、お早いですね」


「どうしてか起きてしまってな。もう少し寝ていてもよかったんだが、二度寝をする気分でもない。とりあえず、この国を拠点にするかどうかは別にして、何をしようかというところだ」


「では、街並みなどを拝見するのはいかがでしょうか?」


「ふむ、そうするか。暇だしな」


「お供します」


 そんなわけで着替えを済ませた俺達は宿を出て、整備された道を歩く。人の波に従いながら大通りをふらついたり、出店などを見て回る。


 やはり、魔族と人族の戦争は影響が強いようだ。


 どの道にも鎧を着こみ、武器を持っている者が多い。

 警備兵もいるが、多種多様の服装で出歩いているのは冒険者。


 この国の美しい外観をぶち壊している冒険者は、血生臭い戦争を好む変わったやつらである。

 魔族の血を求め、魔族の首を切っては嬉しそうに天に掲げる。

 そんな、とち狂った精神異常者だ。


 俺は勇者の側付きみたく振る舞う冒険者を殺したことがあるが、発言すら支離滅裂な異常者であった。


 俺は一切関与していないのに、お前のせいだとか意味分からないことを言ったあげく死ねとか言われた。

 もちろん、お前が死ねと言って殺した。


 まあ、そんな過去があり、この国にやべえ奴等の筆頭たる冒険者が沢山いるなと、あまり関わらないようにしようとフードを深く被り直す。


 でも、ここは魔大陸よりも安全なのは間違いない。あれだけ腐るほど湧いていた勇者を全然見ないのだ。


「気にはなっていたんだけど、勇者って何なんだろうな」


「……哲学的なものですか?」


「いや、あいつらって何であんなに居るんだろうって。しかも、同じ剣しか持たないし。物語とかだと勇者って常に一人じゃん」


「それは物語だからですよ。魔王が沢山いるように、勇者も沢山いるんじゃないでしょうか」


「んー、そんなものなのか」


 そんな他愛のない話を広げ、街並みを観光気分で歩きつつ、ふと立ち止まる。


「そういえば、俺たち金ないよな。この紙幣を換金できるところもないんだよな?」


 取り出した魔大陸の紙幣をラドリアへ見せるが、首を振られる。


「魔大陸の紙幣は敵国のものになりますので、換金所なども扱っていないかと」


「では、何かしらで稼がねばならぬか」


「はい、提案なのですが、冒険者になるのはどうでしょうか。実力があれば大金が簡単に手に入る職業と聞いております」


「魔大陸に攻め込んできている戦闘狂共と同じ仕事に就けと言っているのか」


「いえ、魔大陸に行く冒険者は一部だそうですよ。何かしらの恨みがあって、魔族を殺しに行くのだとか。他の上位不死者の報告によると冒険者に限って、強い怨念を必ず抱いているそうです」


「ほう、興味深い。あいつらはただの戦闘狂と思っていたが、訳あって来ていたのか。というか、どうして魔族を恨むんだ? 俺たちって何もしてないよな? 殺られそうなら殺るけど」


「一応、大魔王の指示で魔族全員に御触れが出ています。しかし、こちらから手を出すなとありますが、一部の者は人族の領域で暴れているという情報もあります。それで恨んでいるのではないのでしょうか」


「ふーん。どこの馬鹿がちょっかいかけてんだろうな。そいつらのせいで魔大陸に攻め込んでる数が増えているってなら、一刻も早く制裁するべきだぞ」


「調べましょうか?」


「いや、人族の領域に来てるんだ。直ぐに分かるだろ」


「分かりました。では、冒険者になるかどうかの件はどうします?」


「……頭おかしい冒険者が一部だけなら、別になってもいいような気もする」


 本当に大金が手に入るのなら、一仕事してから豪遊するのも有りだ。

 実力が必要な点においては俺達は人族の水準を遥かに超えているし、魔族のどこの馬鹿が人族に手を出しているのかも分かるだろう。


「決めた。冒険者になろう」


「では、場所を聞いてまいります」


「頼む」

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