ハードボイルド?
女は付属品だと俺は、きっと考えていたのだと思う。——彼女に出会うまでは。
リゾートホテルで給仕のアルバイトをしながら、何とか食いつないでいた俺は、金が稼げない役者の道を捨てきれずに居た。
どんな小さな映画でも構わない。あまり劇場は好きではなかったが、食う為にはえり好みなどはしていられない。先日、劇場のバイトで、気に入られた女と寝た。ブロンドで青い瞳のその女は、俺の首に腕を回し、甘えながら、私のパパに話してあげる。と口にした。反吐が出そうな思いで俺は、良い子だといいながら、その女を抱いた。女はやたら甘えてくるが、俺は冷めた気持ちで、ただただ、コネを得たことだけほのかに嬉しく思った。
掛け持ちでしている、昼間のリゾートホテルの給仕のアルバイト。広いプールサイドには、数多くの裕福な連中が、思い思いにバカンスを楽しんでいる。表情には、絶対に出さない、人好きするといわれる笑顔をはりつけながら、俺は、カクテルを優雅なしぐさで配り歩く。
そんな時だった。
「あなた、ちょっと……」
と、不思議な音色の声で呼び止められて、思わず背筋がピッと張りつめた思いがした。
自らの反応を不可解に思いながら、笑顔を顔に張り付けて声をかけられた方へ振り返り、俺は、固まった。
恐ろしく印象的な強い目をした女が、デッキチェアから身体を起こしながら俺を見つめている。その瞳に呑まれそうになり、思わず喉を鳴らしそうになった。
一瞬で彼女に引き込まれた自分が解ったようだった。よくよく見れば、彼女は、普通のどこにでもいるブロンドの青い目の女性に過ぎない。身体も小柄で、肌は透けるように白いが、スタイルも、特出して
良いとは言えなかった。どちらかというと貧弱な印象すら受ける。それなのに、その彼女の強い瞳に一瞬で引き付けられたように思えた。
「あなた、先日、劇場で演じていたでしょう、私、一度あなたとお話してみたかったのです」
まるで、普通の言葉ですら、甘やかな調べに聞こえる。彼女の上目遣いの瞳がうるんでいるように
錯覚して見えて、俺は酷く戸惑った。