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うどんとそば

作者: 仲原傾

 ファミリーレストランのテーブルに、ある二人の男が座っていた。

 休日の昼時というのもあって、店内には家族の笑い声と忙しそうな店員たちの足音が絶え間なく響く。

 そんな暖かな喧騒の中、二人は黙って睨み合っていた。二人の間の空気には奇妙な緊張感で満ち、今にも何かが爆発しそうな危うさをはらんでいる。

 この二人、今日この場所で、互いの主義主張が相入れないことに気がついてしまったのだ。

 人間には生来備わったもの、人生の中で選別したものによって個々に好みが生ずる。それらの一つ一つが異なることは、独立した個人の塊である社会で生きていれば誰もが理解していくものだ。

 好みが合うに越したことはないが、合わなくても妥協してうまくやっていくことは十分に可能であることも知っている。

 それでも、この男たちは戦わざるを得なくなった。どうしても妥協できなかった、どうしても譲れなかったのだ。

 青いジャケットを着た男が満を持して語り出した。


「どうかんがえても、そばのがうどんより上だ」


 今度は緑のシャツを着た男が口を開いた。


「いや、うどんの方がそばよりも優っている」

 

 そば派の男、鈴木は呆れ顔で額を抑えた。

「どうかしてるぞ佐藤。うどんが勝てるわけがないだろう」

「今のセリフはなんだ! 香川県に土下座してこいこのうどん不孝者!」

「香川限定かよ! うどん不孝ってなんだよ!」

 そもそもお前は香川県民でもなんでもない神奈川県民だろう、と言いたげな鈴木を無視して佐藤は声高に語り出した。

「うどんというのはな、麺類の中でも特に包容力が高く、個性の豊かさ、活躍の幅が多いんだ。うどんというだけでどれほどの種類があると思う。讃岐等のブランドなら話もそうだが、俺はカレーうどんの話がしたい。そう、カレーだ! インドからヨーロッパを通って日本へやって来たあの留学生を取り込み、国民食となったあのカレーうどん! あのスパイシーさとボリュームを受け止める出汁の味わいと、うどんそのもの。あの麺の素直さがうどんの魅力そのものなのだ! いや、カレーだけではない。鍋の締め、病人食、あらゆる面でうどんは活躍する。あの素朴な小麦の味わいゆえに! 香りだか十割だか二八だかとプライドが高いそばにはできない芸当だろう。最近はうどんチェーン店の展開に伴って世間はまさに大うどんブームといっても過言ではない! ちなみに俺は釜玉うどんに明太子トッピングしたやつが好き!」

 言い終えた佐藤の顔に笑みが浮かぶ。完璧な演説だったと、そう思った。

「その程度か、佐藤」

「何?!」

「俺に土下座をしろというなら、お前は長野に五体投地でもしてろ」

「長野?!」

「長野といったら信州そばだバカたれ!」

「お前のいうことも一理あるが、それでもそばの方がまだ上だ。そばは伝統と格式高さを武器にしつつ、柔軟性も兼ね備えている。椀子そば大会に落語の時蕎麦などから分かるように、時代とともに人々と生きてきたそばの伝統は今更語るべきではないだろう。初めは塩で一口、蕎麦湯は欠かせないといった通の意見や格式高い高級そば店を引き合いに出してもいいが、今回はお前の土俵に乗って柔軟性で勝負してやる。そばを楽しむにはなんか色々必要そう、といったイメージがあるのは確かだ。しかし、全くそんなことはない。もしそうだったら、定年退職した方々が一斉に蕎麦を打ち始めるわけがないだろう。

 そばというやつは意識しないだけで皆の生活に寄り添っている。駅の立ち食いそばなんていい例だ。そば粉だけで見ればガレットという活用方法もある。乾麺の蕎麦もしっかり家庭に普及しているじゃないか。言っておくが、乾麺に関してはそばの方がうどんより茹で時間は短く、手間がかからない。自炊をしないお前は知らないだろうがな。それにラーメンは別名中華そば、これは麺類といえばそばという日本人に刷り込まれた共通認識故ではないだろうか。ちなみに俺は薬味はネギだけたっぷり入れる派だ覚えておけ!」

 自分の主張を言い終わった鈴木はニヤリと笑ってソファに沈み込む。相手の土俵に乗って突き落としてやったと思い、快感に浸りきっている。

 相対する佐藤の瞳はまだ死んでいない。彼の目には自身が愛するうどんの勝利が見えている。

 佐野が反駁を言いかけた瞬間、二人のもとにウェイトレスがやってきた。




「お待たせしました。カルボナーラと冷麺でございます」

「あ、カルボナーラこっちです」

カルボナーラは佐藤のです

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