解説君、異常気象の対策を考える
「亜紅ちゃん、お腹の赤ちゃんは元気ですか?」
解説君が正太郎に連れられて産婦人科の病室を訪れました。
「元気よ。きっと男の子ね。お腹ぽんぽん蹴るのよ!」
「おや!」
解説君はアンテナをクルクル回して、びっくりしたリアクションをとりました。
「生まれてくる子が安心して生活できる環境を作ってあげなきゃな」
正太郎はそう言って、亜紅の手をそっと握りました。
「温暖化や異常気象が心配だなぁ」
亜紅がぽつりと言いました。
隣の県で集中豪雨があり、災害が日常茶飯事になってきた昨今、一番気になるのは子どもの未来でした。
「夏の高温はクーラーでしのいでいるけれど、いたちごっこだよなぁ」
「高気圧と低気圧の対流がおかしくなってるんでしょう?」
すると、解説君が目をチカチカさせました。
「巨大なドライアイスを製造したらいかがでしょう?」
「二酸化炭素の塊だぞ。余計温暖化に拍車がかかる」
「では、対流圏から成層圏へ熱を逃がす装置を造ったらいかがですか?」
「どうやって造るんだよ?」
正太郎は半分茶化すように言いましたが、半分大真面目でした。
「うまく表現できないのですが、大型ジェット機は成層圏を飛んでいますよね?そういった技術の応用は出来ないでしょうか?」
「べらぼうな研究費がかかるぞ」
「背に腹は変えられません」
「具体的にみんなを納得させられるなら出来るだろうが・・・」
正太郎は眉を寄せて考え込みました。
「科学者連盟のお偉方に相談されてはどうですか?」
「そうだな」
病室を正太郎と解説君が飛び出して行ってしまいました。
「待って!しょーたろー!お腹の赤ちゃんの名前、決めたのよ!」
亜紅が呼ぶ声もむなしく、正太郎たちは戻ってきませんでした。
「せっかちなお父さんだね、暁」
亜紅はお腹をなでながら話しかけました。
「きっと、いい世界にするからね」
それは強い願望でした。
☆
「上空のジェット気流が今までにない動きをしているんだ」
科学者連盟に行くと、皆深刻な表情で説明してくれました。
北半球だけを吹いていたジェット気流と、南半球だけを吹いていたジェット気流の流れが混ざってしまい、北極から南極へ赤道を横切って流れる動きが出ているそうで、それに伴って地上近くの高気圧と低気圧が異常な動きをしているらしいのです。
「ジェット気流の流れをもとに戻すことはできないんですか?」
「いいかい?地球はね、常に一定ではないんだよ」
正太郎と解説君に地学博士のおじさんが話してくれました。
「地質学では、地層によって南極と北極の極が入れ替わっている跡がみられたり、氷河期と間氷期が互いに繰り返されたり、長期間のスパンで常に変化している。太陽活動からの影響も考えにいれなきゃならない」
「どれかを変化させると、他の要因もつられて変化しちまうわけか・・・」
正太郎は顔をしかめました。
「高橋一馬さんたちの研究と協力してなんとかできないですかね?」
解説君が正太郎に言いました。
「宇宙開発かい?・・・子どものときに読んだ『残された人びと(アニメの未来少年コナン)』で、あれは戦争からの避難じゃなかったかな?それとも異常気象からの避難だったかな?短期間宇宙に逃れてやり過ごす話だっけな。」
「まだ、そこまで深刻ではないよ。でもいつかそういう日がくる可能性もあるだろうね」
「気象管理装置」
「SFで出てくるな。そこまで単純に造れたら苦労しないよ」
「正太郎」
「なんだい?解説君」
「SFはいつかSNFになる」
サイエンス・フィクションはいつかサイエンス・ノン・フィクションになる。
「そうだな。そうだよな」
正太郎は微笑んだ。
「やれるだけやってみようか」
「そうこなくっちゃ。正太郎」
「まずは情報収集。地学の基礎勉強して、対策を考えるんだ」
「我々も手伝うよ」
科学者連盟の人たちが頼もしく見えた。