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もう会えない君へ

作者: 八波草三郎
掲載日:2017/09/27

「どうしてなの、モース!?なぜ何も言わずに行ってしまったの?」

 通信画面に映る彼女に糾弾を受ける。

 彼女の名はシュンスラ。俺の大切な大切な女性ひとだ。

「ごめん、シュンスラ。これはすごく考えて考えて考え抜いた結果、俺の出した結論なんだ」

「ずっと前から決めていたっていうの?どうして言ってくれなかったの?私があなたを選ばなかったから?」

 俺が出発したのはシュンスラがウェルキと結婚してバカンスに行っている一ヶ月の間の事だ。


 ウェルキは俺の幼馴染で親友。俺達は学生時代にシュンスラに出会い、同時に恋をする。

 想いを確かめ合った俺達は、互いに遠慮なくシュンスラにアタックするという協定を結んで親交を深めていった。

 結果は俺の負けだ。彼女は俺の事も憎からず想ってくれていると言ってくれたが、最終的にはウェルキと結ばれる事を選んだ。

 俺は彼らを祝福すると同時に、或るプロジェクトへの参加を決め、訓練を受けていた。


   ◇      ◇      ◇


 その事実自体は大規模天体望遠鏡が建造された400年も前から確認されていた。俺たちの住む惑星を含む銀河は今、銀河衝突の真っ最中である。

 白く渦を巻く銀河は、それそのものが一個の物体に見えてしまうが、非常に希薄な存在である。それ同士が衝突したところで、出る影響はそれほど大きくない。例え、属する星系の軌道が変わったとしても、恒星と惑星の相対距離と軌道が変わらなければ認識する事さえ適わない。

 絶対座標による観測が不可能と言っていいほどの技術レベルでは、相対的には何ら変化はないとしか言えないのだ。


 事態が一変したのは30年前。打ち上げに成功した宇宙望遠鏡が重大な事実を伝えてくる。俺達の星系は、接近中の星系と衝突するという事実が判明した。

 星系同士の衝突でも、宇宙規模で云えば隙間は非常に大きい。しかしその軌道計算結果が編み出したのは、衝突してくる星系の一つの惑星が、我が母星の僅か200万kmの近傍を通過するという事実だ。

 科学者たちは起こりうる状況を想定し始める。様々な見解が飛び交ったが、結論は総じて一致していた。母星の壊滅である。

 接近中から、潮汐力により様々な天災が発生する。巨大な嵐。大津波。それだけでも文明は崩壊しかねない。しかし、通過の数日間の天災は更に何倍ものスケールでそれらが起こると発表された。母星そのものが崩壊するような事は起こり得ないが、地上はいとも簡単に薙ぎ払われる。ほとんどの人類が生き残れないであろうと言われた。

 それがたった70年後に迫っている、と。


 パニックが起こった。誰もが大騒ぎをし、運命を呪った。だが、すぐに皆が気付く。今、生を受けていて、その時まで生きていられる人類は意外と少ないと。

 落ち着いた人々は考える。自分達がすべき努力は子孫の為のものだ。その為には子孫達が生き残れる方法を、冷静に模索しなければならない。


   ◇      ◇      ◇


「どうしてあなたが行かなければならないの?そんな事は偉い人達に任せればいいじゃないの」

 彼女は俺を問い詰めてくる。

「誰かが行かなきゃいけないのさ。それが俺だっていいだろう?」

「それはモースじゃなくたっていいって事じゃないの!?」

 やはり口喧嘩でシュンスラに勝つ事など夢のまた夢。

「志願したのさ。俺に出来る事はそれくらいだって思ったから」

「志願?出来る事?何なの?」

 すぐに説明するとばかりに、モニター上のカメラに向けて手を挙げて見せる。

「俺は君の友達でいられる自信がある。でも…、君を直接幸せには出来なかったけれど、君達の子供を幸せになら出来るって気付いたから」

「私達の子供の為…」

 シュンスラは絶句している。


   ◇      ◇      ◇


 各国の選りすぐりの科学者が集まったプロジェクトチームは一つの方針を打ち出した。


 現状、星系衝突を回避する技術も、母星からの人類脱出エクソダスを実現する技術も我が星には無い。ただし、実現間近の超光速通信技術があると。


 俺の母星の宇宙開発技術は各国の競争で飛躍的な進歩を遂げている。星系内の有人探査もかなり進んでいる状態だ。そこで必要になった超光速通信技術も開発を競った結果、実現されつつある。

 その通信技術を用いて何をしようというのか?


 三光年向こうに観測されている、居住可能と思われる惑星の探査だ。その惑星からはかなりの情報量の電磁波が観測されている。それらの事実から、そこには我が人類とは異なる知的生命体が存在し、文明が生まれている事が判明していた。

 母星は、そこに希望を託した。自分達には人類脱出エクソダスの技術は無い。しかし、あの惑星には有るかもしれない。或いは手を携えれば可能なのではないか、と。


 その為の準備が急ピッチで進められた。

 開発されたのは閉鎖生態系(ビオトープ)型宇宙船である。亜光速までまで加速させたその宇宙船を三光年先まで打ち出す構想。四年掛けて辿り着いた先で、搭乗員が交流と調査を行い、超光速通信技術を共有する事で突破口を見出そうとしている。


 ただし、十五隻建造される閉鎖生態系(ビオトープ)型宇宙船の搭乗員はそれぞれ一名。その宇宙船の大きさで生命維持が出来るのは一名が限界だったのだ。

 たった一名で4年もの歳月を、何もない宇宙空間で過ごすのは非常に過酷と言える。もしかしたら、途中で発狂してしまう可能性も排除できない。無理をした十五という数字はそれの困難さを表していると言っていい。異文明交流の難しさも相まって、精神強度の高いと思われるメンバーが選出され、訓練を受ける事となった。

 俺はそこに滑り込む事が出来、晴れて搭乗員として宇宙船に乗り込み、希望を叶えられる事となった。


   ◇      ◇      ◇


「そんな…。なぜそんなにあなたは優しいの…」

 シュンスラは顔を覆って涙声で問い掛けてくる。

「自己満足さ。気にしなくても良いって言ったって無理だろうけど」

「私は何も返せない…」

「シュンスラ」

 俺は真面目な顔で彼女に呼び掛けた。

「別に俺は死ぬって訳じゃないんだ。あの暗闇の彼方にある惑星ほしは温かく迎え入れてくれると思っているぞ」

「でも、とっても大変だわ」

「それは大変だろうさ。俺はその先にある希望を掴みたい。なに、もしかしたら現地の素敵な女の子との出会いが待っているかもしれないんだぜ。祈ってくれよ」

「そんな事で良いの?」

「十分さ。ごめん、もうバッテリーが保たない。さよならだ」

 宇宙船には広大な光発電パネルが取り付けられているが、光に乏しい星間では通信出来るのは二週間に一回程度、数十分が限度である。それもほとんどが定常報告に費やされる始末だ。

「ありがとう。無理しただろう?」

「無理なんて。あなたの勇気に比べたらこのくらい…」

 画面に乱れが生じる。出力が落ちているらしい。

「待っててくれ!俺が必ず君達の子供を助けるから!」

「モース!」

 それっきり、通信機は沈黙した。これから二週間は一人ぼっちの生活が始まる。

 俺は一つ溜息を吐くと、椅子に寄り掛かった。


 閉鎖生態系(ビオトープ)型双胴宇宙船十一号は、暗闇の宇宙を拡大映像で見たあの青い星に向けて進んでいく。


 もう会えない君への贈り物を届ける為に。

これは僕が夢で見た内容に、肉付けをして一本に纏めた物語です。まるでこれから始まるストーリーのプロローグであるかのような展開ですが、これで終了となります。無理をすれば続きを書けるでしょうが、これはここで終わらせるのが花という感じがしています。

何せ夢を基に書き上げただけなので、即物的でテーマ性に乏しく、外側だけ固めたブリキの人形です。それほど深みは有りませんので悪しからず。

一人称で書いた物語はこれが初めてです。如何だったでしょうか?

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