薬屋
宿屋の看板。明るく照らされたそれを気づけば睨め付けていた。嫌悪感からだろうが、今は好き嫌いを言っている余裕はない。
宿屋の、先ほどより重く感じる扉を僕はゆっくりと開けた。
「いらっしゃい。今度は御独りで?」
先ほどの店主の憎たらしい笑みが、扉越しからこちらに襲ってきた。
「泊まりじゃないです。町の薬屋の場所を聞きに来ました」
笑顔には笑顔で返す。もちろん憎い笑みには憎い笑みだ。
「ほう薬屋ですか。だったら左手に行ってすぐの交差点を左に曲がってしばらく歩けば見えてきますよ」
「どうも」
そう言葉を返し、宿屋に足を踏み入れることなくその場を去った。
日も完全に暮れた町だが、背の高い街灯と家の明かりが歩道を照らし、雰囲気は悪くなかった。だがしかし、今目的地にしている薬屋はどこか違った。
まともなのは『薬屋』の看板だけで、外壁は手入れされてないのかボロボロで、植物の蔦が生い茂って、何だかここだけが過去の時間に取り残されているんじゃないかと思わせる感じがあった。当然だがいい感じはしない。入ってすぐに白髪の老婆に薬の実験体にでもされそうだ。
それでも恐れている暇はないと、僕は扉を甲高い擬音を出しながら開けた。
中は、外とは打って変わって明るく清潔的だった。僕の知っている薬局とは違い、各症状に1つの薬が陳列してある。疲労、腰痛、頭痛……結構細かく分かれている。巫女っちに症状を聞いてから来るべきだったか。とりあえず、症状は熱とか風邪とか疲労とかその辺りだろうか。
薬をあれこれ探している時だった。
「……いらっしゃぁい」
突然の声の響きに思わず生唾を飲んだ。声が異様に低く震えていて不気味だったからだ。
恐る恐る振り向く。
「ひぃっ」
そこには薬屋の外装に似つかわしい不気味な白髪の老婆が、僕のすぐ背後で腰を曲げて佇んでいた。