この町は呪われている。
先に申し上げますと、句読点や文章表現等の文章能力は皆無です。
ストーリーのみをお楽しみください。
目覚め。
目の前に広がるのは部屋の白い天井ではなく、真っ青な青空だった。視線を上から横に変えると、いつも使っている枕と敷布団、そしていつもと違う生い茂った草花の景色と地平線が見えた。
これはきっと夢の続きなのだろうと僕は再び目を瞑る。
「あの……」
何か声が聞こえた気がしたが空耳だろう。
僕は夢の中で睡魔に従い眠りにつくことにした。
僕は再び目覚めた。今度は飛び上がるように体を起こす。
いけない。完全に寝坊した。
見える景色は夕暮れの薄暗い赤で、遠くの町は街灯に照らされ始めていた。
「?」
ふと冷静になる。
いや、部屋の中から町が見えるはずがない。というか空が夕暮れなのが分かるのもおかしい。でもいつも使ている布団の中に確かにいる。しかし近くにあるはずの目覚まし時計や本棚はない。あるのは……。
そこには体育座りで俯いて寝息を立てている子供の姿があった。紅白の巫女さんの服。黒くて長くて少しぼさぼさした髪。その姿から見るに女の子だろうか?
色々状況が分からない。僕の頬をつねったり、舌を噛んでみたりすると痛い。夢の中で痛覚は働くのだっただろうか?考えるだけでは状況は変わりそうにない。となると一番の最善手は目の前のこの子に聞いてみる事だろうか。しかし眠っているのに起こすのは悪い。
とりあえず女の子を見つつ僕は再び布団に横になるのだった。
再び睡魔に襲われそうになる中、事は進展を迎えた。
「くしゅん」
巫女っちが可愛らしいくしゃみと共に顔を上げたのだ。
『巫女っち』というあだ名は布団の中で考えて命名したものだ。単純に見た目から決めた。
僕は上体を起こす。すると巫女っちは驚いたのか少し体をビクつかせ僕の方を向き、そして姿勢を体育座りから正座へと変えた。
「あの……その……ええっと……」
巫女っちは偉く戸惑っているようだ。視点も定まっていないし、少し震えているようにも感じる。
「私はコミコと申します。……その」
巫女っちは言葉を詰まらせる。
そんな事より偶然にも名前がコミコであだ名がニアピンで驚いている。このまま巫女っちにするか、それとも小巫女っちにするか……。
「えっと……とりあえず、服を着てください。その……風邪をひきますから……」
そう言えば服を着ていなかった。夏の暑い時期は全裸で寝ているのが日常ですっかり忘れていた。そういえば今日は少し冷える気がする。
ふと巫女っちの隣に目を向けると、丁寧に服の上下が畳まれて置かれていた。
「……すまない」
僕は用意された服を着る事にした。
服を着た。長袖に長ズボンである。巫女っちとは違い普通の服だ。
それにしても困った。巫女っちは中々喋らない。困惑した表情と視線が尚更僕を困惑させる。普通、この現状が夢でも、可笑しな現実だったとしても、だ。こういう現状に置かれは僕は、何か情報やチュートリアルな様な物があってから次の段階に進んでいくのではないのだろうか?となると目の前の巫女っちが、あーだこーだ説明をして、それに僕がついて行く感じではないのだろうか。いや待てよ。この状況で指示を受ける前に、逆に僕から変な行動をとれば警告という名の情報が巫女っちから貰えるかもしれない。という事で。
僕は立ち上がり、視線を巫女っちから町の方へと変える。横目に見える巫女っちも困惑しながら立ち上がる。口元は今にも「えっ」と言いそうに小さく開いている。
そんな巫女っちを後目に僕は町へと足を進めていった。
困った。……本当に困った。
とうとう町の中へと入ってしまった。
巫女っちは結局、終始無言で付いて来た。村に入る最中に少し足を止めたぐらいしか動きがなく、何も警告も情報も発する事はなかった。予定外である。
そして情報を発するといえば、この町の人々も何も話してくれない。それどころか僕をよそ者を見るように冷めた視線を送り、仕舞にはわざとらしく避けられる始末。
うーん、どうしたものか。
困った僕の目の先には、照らされた宿屋の看板があった。
視点を看板から巫女っちに変えるが、出会った時以上に挙動不審で、それでなお震えており、今にも倒れてしまいそうな、そんな弱々しい姿が目に映った。そして僕の視線に気づいたのか、僕の顔を下から見上げて笑顔を作って見せた。その笑顔は見るからに苦笑い。彼女も困惑している。
明日になったら話してくれるかもしれない。もしかしたらあの宿で眠れば起きた時には現実に戻っているのかもしれない。
淡い期待を胸に僕は宿屋に向かい、ただただ巫女っちはついて来るのだった。
「いらっしゃい」
店主の声が明るくて、今までにない安心感に包まれた。
「お客さん1人かい?」
僕は店主の問に、宿屋の扉を開けっ放しにしていう。
「2人です」
僕の言葉の後に巫女っちが恐る恐る宿の中へと入ってきた。
「……お客さん、困るよ!」
急な店主の声の変わりように、巫女っちが飛び上がりそうに体を震わせた。僕も同じように驚き、振り向くと店主はその大きく太ましい体を揺らし、店のカウンターから慌てて僕の目の前へと歩み寄ってきた。
あまりの出来事に、僕は聞かざる負えない状況になった。
「どうしてですか?」
店主は大きくため息。その後視線を下げて口を開く。
「その子は駄目だ」
「え?」
僕は思わず巫女っちを見ると、今にも泣きだしそうに震えている。
「何で?」
巫女っちの言われように無意識に言葉が尖ってしまった。
「他のお客さんに迷惑がかかる」
よくわからない返答が帰ってきた。店主は挙動不審に店の周りを気にする。そんなにも他の客の事が気になるのだろうか。
「よく分からないのですが……」
僕の言葉に店主は大きくため息。そのため息の口のまま話し始める。
「その子はねぇ……呪われた血筋の子で町の嫌われ者なんだよ。そんな子がうちの店に居るってなったら、中にいるお客さんはおろか町の人が私を、私の店を敬遠してしまうんだよ。パートナーの君には悪いけど、その子はどうしても入れられない」
「全くもって訳が分からない」
僕の心に思っていたことだったが、思わず言葉が出てしまった。その勢いでその後の想いも口に出してしまう。
「呪われた血筋?周りの人たちが敬遠?何が何だか分からないですけど、家系が悪いだの血筋が悪いだので人を判断するのはどうかと思いますよ!巫女っちの血筋や両親がどうなのかは知りませんが、巫女っちはまだ小さな子供ですよ!そんな子の前で大人の事情をあーだこーだ言うなんて恥ずかしくないんですか!そりゃ話させる状況にした僕も悪いですけど、それでももう少し配慮ってものがあったでしょう!大体呪われた血筋って何なんだ!そんな事を言って巫女っちを軽蔑するあなたやこの町の方が呪われてる!それに」
僕のズボンをギュッと引っ張る小さな手に、僕は我に返った。
「もういいです。慣れてますから……」
巫女っちの悲観な言葉に、憤りを感じ大きく深呼吸をする。
僕は今まで僕がされていたと思っていた巫女っちに対する町や店主の冷ややかな視線を、店主に憎悪を籠めて送って口を切った。
「分かりました。こんな呪われた店、こちらから願い下げです」
僕は扉を開け、巫女っちを押し出すように無理やり外へと誘導してあげる。
そしてふと思った事を宿の去り際に聞く。
「……ちなみに僕一人だったら?」
「もちろん、喜んで」
店主は営業スマイルをここぞとばかりに見せつける。
ふざけんな!僕は言葉を態で表すように扉を思いっきり閉めてやった。
ふと巫女っちが震えているのに気付いた。
「ごめん」
その一言は色んな意味を込めた。今の扉の事、この町に巫女っちを連れ込んだこと、何も考えずここまで連れまわした事。他多数。
店主との対話を思えば、巫女っちの今までの対応も納得する。
完全な人に対する恐怖心、不安感、孤独感……無口や挙動不審になるには十分すぎる材料だ。
「……どうしたものか」
色々あっけに駆られて言葉を漏らしてしまう。巫女っちにまた悪いと思いながら見ると、巫女っちは不思議と今までない位強い視線を僕に向けて来た。
「あの!……えっと」
いつもの巫女っちに戻った。……この子には僕が道を示さなければいけないのかもしれない。
「何かいい方法ある?」
僕は慣れない笑顔を作って見せる。
「その……私の家に来ませんか!」
巫女っちの振り絞った勇気が声や視線から伝わって来る。
こんな強い想いの提案、どんな提案であっても断れないな。
「……そうする。案内してください」
巫女っちは喜びからか何なのかは分からないが、大きく目を見開いて嬉しそうに歩き始めた。
僕は黙って、その初めて見る巫女っちの子供らしい姿に歩幅を合わせてついて行くのだった。
月明かりの中、無言で巫女っちと共にたどり着いたのは、それは大きな神社だった。
神社なのに呪われているとは、分からない事が深まるばかりだ。
「ここが私の家で」
そう巫女っち神社の横の古民家を指さした時だった。
「!」
巫女っちが足をふらつかせ、急に倒れこんだのだ。
慌てて巫女っちに近づく。巫女っちは息はしてるが呼吸が荒い。巫女っちの身体を起こそうと手で支えてやると、巫女っちの異変に気付く。その小さな身体が妙に熱いのだ。
巫女っちの額に手をやると、その熱さに思わず手を跳ね除けてしまう。これは相当な高熱だ。
原因は町に連れ込んだストレスか、それとも寝ている僕を黙って待っていた事か、どちらにせよ原因は僕にある。
僕はその小さく熱い身体を両手で抱きかかえる。
どうにかしなくてはいけない。
焦る気持ちの中、僕は巫女っちを抱え古民家へと全力で駆けこんで行った。
やる気と暇があれば次回投稿します。