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僕の16年間

作者: 雛水ひなこ

母が倒れた。


「もう疲れた」


母はそう言い、僕の方に倒れてきた。

「疲れた」という言葉を聞いた瞬間、

僕は真っ先に根源は、


「僕だ」


と思った。



僕には妹が居る。

僕なんかより、良くできた妹で。


こんな僕の事を一番気にかけてくれる、

優しい妹だ。

だから、まず妹ではない。

そしたら、父か。

父とは母は何度も喧嘩しているが、

父ではない。


僕はそう、断言できる。



なら、残ったのは僕。

僕は昔から、不登校で。

家にずっと引きこもり。


高校で再スタートを切ろうと、頑張ったが失敗に終わった。

理由は、まあ簡単な話だ。

ただの「イジメ」。


そんなのにも耐えられなかった僕は、

4か月入院した。


たった「イジメ」という、

ちっぽけなものに僕は耐えられなかったのだ。


本当に何もできない、失敗作だ。



でもこれは、親の所為じゃない。

すべては僕が選んだ道で、僕が歩んだ道だ。


そして結果が、このざまだ。



なら、母の最期に言った「疲れた」

という言葉は、僕に当てられた言葉だ。


間違いない。



僕はこの16年間。

様々な人に迷惑をかけて生きてきた。


両親

友達

主治医になってくれた先生



そして今日、この人生にピリオドを打つ。



僕は、僕に倒れかかってきた母を

優しく床に寝かせ、布団をかけた。



そして僕は、台所からごみ袋を手に取り。

自分の部屋に向かう。


散らかっている部屋。

この部屋を僕は今日で



空にする。




ごみ袋の中に、僕のものをすべて

ぶち込んでいく。


まだ完結していない漫画。

買って間もない、まだ読んでいない小説。

始めたばかりのギター。

開けてもない参考書。



全て、全て、捨てる。


本当は大人になって、この部屋の分だけでも

お金をお給料で払いたいと思っていたけど。


ごめん、お父さん。

それは叶わないらしい。



僕はどんどん物を捨てていく。


思いでにふける余裕もない。

幼稚園、小学校のアルバム。


中学のアルバムは学校に行っていないから、

買わなかった。

だからない。


そして、部屋には大きな荷物だけ残る。


残りはクローゼットの中身と、小学生になる前買ってもらった勉強机。

そして、ベッドと電子ピアノ。



まずは、クローゼット。

その中には、ずっと集めていたアニメのフィギュアの箱。

服、小学生の時の賞状。

幼いころ手紙交換していた頃の、友達からの手紙。


中学生の時、初めて入った部活で必要だと買ってもらった。

エナメルバッグとバスケシューズ。ユニフォーム。


これは、総額1万は軽く超えて。

なのに私は、その時もイジメに耐えきれず

辞めてしまった。

しかもたった3か月。


これは流石に申し訳なく、両親に謝り

「大人になったら必ず返します」

と、土下座をして謝った。


それも今となれば、懐かしい思いでだ。



そして、ハンガーにかかっていた

今の通信制の高校じゃない、以前通っていた時の制服。


これも届いたときは、嬉しくて。

家族全員が僕の高校合格を喜んでくれた。


父は入学祝に、高い防水性の腕時計を買ってくれたし。

母と妹は、通学用のパスケースを買ってくれた。



なのに僕は、全てを裏切り

学校を通信制で、自分を守れる学校へと転校した。


逃げたのだ。



最低な息子だ。


そんな思いでも、僕が消えればすべて意味のない物になる。

全てをごみ袋に捨てていく。



涙を流しながら。


もっと、良い子がこの世に産まれてきたならよかった。

そしたら、妹にも負担をかけずもっと良い兄でいられたかもしれない。



「・・・ごめん」


ポツリと零れた言葉。


*



クローゼットの中身はすべて空にした。

あとは、電子ピアノ。

それだけ。



・・・でも、どうしても手が動かない。

重いからとか、そんな理由じゃない。


なんだか、さっきから流れている涙が止まらない。


「なんで・・・」


僕でもわからない。




・・・わかった。

これは、僕の宝物だ。


僕はそれに今気づいた。



このピアノは、僕が幼稚園児の時

同じクラスの女の子が引いていて、それを見て。

僕も引きたいと、クリスマスに頼んだ。


すると、玄関には

大きな箱に入った電子ピアノが。



僕はすごく嬉しくて、

その顔を見て家族みんな嬉しそうで。


その時は、皆笑ってて。

僕も嬉しかった。

そんな日々が毎日続くと思ってた。


なのに、僕のせいで家庭は崩壊した。



僕がイジメにあって、精神病になった。

それからだ。

家庭が崩壊し始めたのは。


だから、僕が消えれば

全てが解決される。




僕の宝物もごみ袋に入れ、

部屋には僕の居た形跡なんて。


ほとんど残っていない。



そのごみを全て捨て、部屋に戻った。


あと、することは

遺書を作成することだけだ。



まず、僕が幼いころハマっていたレターセットを取り出す。

それには宇宙の柄が入っていて。

いかにも、小学生が好きそうな柄だ。


それに、家族へのメッセージを書いた。




「お母さん、いつも心配、迷惑かけてごめん。

僕だけが辛いふりばかりして、本当に馬鹿だった。

でも、もう楽になるよ。

もっとイイコが産まれてきたらよかったのに。

僕の事は忘れて、新たな人生をまた三人で築いてください。

今までありがとう。」


「妹へ、いつもこんな僕を心配してくれてありがとう。

お前だけが僕の心の支えだったよ。

僕なんかに似なくてよかった。

今まで辛い思いをさせてごめん。

でも、これからは大丈夫だから。

ありがとう。」


「お父さんへ

お父さん、幼いころはいつも怒られてばかりだったね。

学校に行かない僕を、なんとか学校に行かせようと必死になってくれて。

昔は世間体とか、そんな理由だと思ってたけど。

今は違うように思う、僕の為だったんだね。

今まで迷惑ばっかりかけてごめん。ありがとう」



一人、一人にメッセージを書いて。

僕はそれを勉強机に置く。



そして、倒れた母をベッドに寝かせ。


僕は家を出る。

そして近くの団地に向かう。



その団地は、低い塔ばかり建っているんだけど。

その中に一番高い塔があって、そこには屋上が設置されている。


そこには、誰でも自由に入ることができ、

よく子供たちが遊んでいる。



僕はその場所に向かう。



そこが僕の最後の場所になる。



*



現在の時刻、午後7時。

妹は塾に行き、父はまだ仕事が終わっていない。


母は、まだ気絶したままだろう。

母が倒れるのは、特に珍しいことでもない。

いつもストレスで倒れるのだ。



その原因はいつも、僕。


初めて母がリストカットした時も、

僕が原因だった。


だから、この世から消え。

母のストレスを減らす。



これできっと、家族円満に暮らせるようになる。



屋上のギリギリに立つ。

そして、僕は靴だけを脱ぎ靴下だけで

手すりの向こう側へと行く。



これで、ようやく終わる。

僕の長かった16年間。



ありがとう、家族。



それじゃあ。



身体がふわりと浮き上がる。

涙だけが、空へと上がっていく。



綺麗な星空を見て、最近下ばかり向いていて

空を見たのは何年ぶりだろうと考える。


落ちていく中、人が居る事を示す

団地からの明かりに照らされ、僕は落ちた。




ーーーーーーーーぷつっ。

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