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日本文化と日本刀で世界征服ーーー勇者にして魔王になった男ーーー  作者: 上運天大樹
第一章 勇者召喚からの魔王転職編
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日本刀と仏像 第三話 織田・清盛は『勇者』です。

「さあ、『勇者』殿。貴方の為にご用意した馳走であります。存分にご賞味あれ」


 バスティアンは、豪勢な食事を前にして、そう口を開いた。


 最初に清盛が来た、と言うか、居た大広間は、やはり地下にあったようで、バスティアンとその侍従たちに従って、螺旋階段やら大階段やらを上に上にと上がり続けて通されたのは、迎賓館。

 その中でも、特に豪奢で華麗な宝飾品で飾り付けられた、まさしく、税の極みを尽くした部屋であった。

 大理石やら何やらの高価な石材を使用し、豪華な彫刻と装飾の施された巨大な机の上には、鳥の丸焼きやら、多数の果物やら何やら、豪華すぎて、最早何が何だか判らない様な料理の数々が並び出され、清盛一人をもてなすにしては、過剰とも言える量がその巨大な机の上には並びたてられている。


 が、


(…………イヤミなもてなしじゃのう)


 そんな豪華な食事を前にして、当の清盛は、そんな感想を抱く事しかできなかった。

 元々、根っからの日本人であると自負している清盛は、御馳走と言えば、寿司に天ぷら、すき焼きやしゃぶしゃぶと言った、純和食の事であり、訳の分からない鳥の丸焼きや、何が何だか判らないスープの類は、正直、舌に合わない。


 それでも何とか、自分でも食べられそうな味付けの料理を探り探りと手にするのだが、正直その光景が宴に並べられた料理を食べる為の態度では無い。と言うのは、清盛の世界だけの話ではないらしい。


 ナプキンのかけ方から始まり、ナイフとフォークの使い方から、スプーンでの飲み物の飲み方さえ禄に進められるわけは無く、次の料理の選び方でさえも満足にできる者では無かった。


 そんな清盛の態度を見る度に、この大広間の警護を固めている騎士や、上流階級の侍女や侍従らしき人々が、清盛の失態を目にするたびに、険のある含み笑いをして、顔を隠して清盛を嘲るのだ。


 正直、飯の味など解らないほどの針の筵である。


 その上で、最も苦痛だったのは、


「ふむ。今回のベロドのローストは、良い味をしていた。シェフを褒めていてくれ。それと、この料理はもういらないから、捨ててくれ」


 バスティアンのその指示とともに、無情にも捨てられていく料理を目の当たりにしていくことだろう。


 よく言えば倹約家、悪く言えば貧乏根性の染みついた清盛からしてみれば、バスティアンのこの態度は、神経を逆撫でするものでしか無く、未だに食べられそうな種々の料理が下げられ、捨てられていく光景は、胃が痛くなるほどの苦痛であった。


 心中、勿体ない勿体ないと繰り返しながら、次々と下げられていく皿に目を奪われる清盛を他所に、優雅に、そして、速やかに食事を進めるバスティアンは、そんな清盛の態度に初めて気づいた様に、清盛へと向き直った。


「おや?どうしました、『勇者』殿。どうやら、食事が進んではおられないようでありますが、何処か体の調子が悪いので?」


「いやあ、申し訳ありませんのう。何分、此処に来る前に腹ごしらえはしてもうとりましてのう。あんまり、食が進まんのですわあ。悪いんですが、もうそろそろ宴は終えてもろうて、儂に何をしてほしいんか本題を話してもらえますかいのう?」


 これは決して嘘では無い。広島から大阪に来る際、軽食としておにぎりとお茶を駅前のコンビニで購入しており、大阪の地を踏む前には、それ等は腹の中に納めていた。

 だが、本音を言えば、これ以上、味覚にも合わない上に、楽しむことのできない食事を無理矢理続けようとは思わなかっただけだ。


「おっと、失敬しました。それでは、食事はこの辺りで切り上げて、まずは我らの危機と『勇者』殿へのお願いを聞き入れてもらいますとしよう」


 そんな清盛の本音を知ってか知らずか、バスティアンは、片手を挙げて食事を切り上げると、漸くの事で清盛が知りたがっていたこの世界の事情について話し始めた。



 ------------------★---------------------



 バスティアンの話は、思いの外長々としたものであったが、要約すると以下の通りであった。


 この世界には、大きく分けて、人族と魔族という二つの種族と、それらの種族が住まう三つの大陸が存在する。

 北西に存在する大陸トリア。

 南西に存在する大陸キミア。

 そして、東方に存在する大陸エイシャ。

 そのうちの一つの大陸、北西大陸トリスの覇権を巡って人族と魔族は常々争い続けてきたが、長い争いの末に、その戦争に人族が勝利し、魔族たちを海を隔てた南西の大陸キミア、通称、暗黒大陸へと追い出すことに成功する。 

 しかし近年、その南西大陸へと追いやった筈の魔族たちが北上を行い、トリア大陸に有る人族の市街地や国家を襲撃する事例が多発。

 その事件を受けて、トリア大陸の人族とそれによって構成される国家は、様々な思惑を交えつつも団結。

 『大同盟』という名前の連合軍を結成し、各国の持つ様々な技術力、財力、軍事力を結集して、魔族たちに立ち向かうも、魔族たちは思いのほかにしぶとく、根強く、そして、強力であり、戦線は劣勢。

 最前線に立たされた海岸部の街などは、その多くが、魔族たちによって支配されている現状である。

 そこで、この混迷の状況を切り開くべく、各国の技術者、魔術師、学者、宗教家、数多くの知識人が収集され、日夜数多くの激論が交わされた。


 そして、出た結論が、『勇者』召喚という、乾坤一擲の裏技である。


 それは、かつてこの世界の人族が滅亡の危機に瀕した時に使用された、伝説の魔法であった。


 このトリア大陸とは異なる世界に存在する、神の力の代行者たる『勇者』。

 その『勇者』を召喚することによって、かつては北西大陸に覇を唱えていた魔族たちを追い払い、この北西のトリア大陸を人類文明の世界へと変える為の礎となったのだった。


 しかし、その初代『勇者』が現れて以来、その強大な『勇者』の力が邪悪な存在の手に渡ることを恐れたのちの三大宗教『日聖教』の初代教皇は、『勇者』召喚に纏わる全ての知識と資料を破棄し、此の世からその魔法の存在を抹消し、『勇者』召喚を行う術はこの世から消え去ったかに思われた。


 しかし、その裏でフルール王国によってごくわずかながら、その『勇者』召喚の為の儀式の資料が残されており、『勇者』の力が必要とされるようになった、正に今この時代、新たに『勇者』を召喚しようと、十年以上前から、失われた筈のこの古代の英知の研究、開発が行われ、遂に今日、その魔法が成功したのであった。


 そう言う内容の事を、バスティアンは、身振り手振りを交えて清盛に対して、滔々と立て板に水の如く流暢な言葉で喋りつづけ、我らに御助力を願います。という言葉で、話しを締めくくった。


「成程のう。それは大変そうでうすのう、難しい話ですのう」


 バスティアンの繰り広げた、切々と訴える様な弁舌を聞いた清盛は、間の抜けた表情で頬をのんびりと掻きながら、そう答えた。


「まあ、三割方は分りましたわい。ゆうても、分っただけで現状では何も返事はできませんのう」


「三割、と言いますと、何か至らぬ説明でもありましたか?」


 清盛の答弁に怪訝な顔をするバスティアンを横目に、清盛は言うべきか言わないべきか、若干の逡巡の末に、呑気そうに口を開く。


「ふむ……。まあ、そうですのう。まず、第一に、本当に儂の力がこの世界の人類にとって助けになるんかい。ゆうことですのう。正直、事情も何も、今知ったばかりじゃし、ハイ、ソウデスカ。と、安請け合いは出来ませんわい。それにイマイチ、納得のいかんことがありますのう」


「納得のいかぬ、というのは、どのようなことがでしょう?」


「ああそりゃあ、単純に、本当に『勇者』が必要な程、戦線は混迷しとるんですか?儂の見た限りでは、そこまで緊迫した空気っちゅうんは感じませんでしたのう。それどころか、城の内装やら造りやらを見る限りでは、生活に困るどころか、何やら、余裕すら感じますのう。

 それに、この王城には、随分と綺麗な装備に身を固めた騎士様や、凄腕の宮廷魔導士殿も居るそうですが、彼らは何でこの城に居るんですけえの?凄腕の騎士様じゃったら、最前線に投入されるべき戦力では無いんですかのう?」


 清盛の、あくまでものんびりとした口調で放たれた、その純然たる鋭い疑問に、バスティアンは、顔には笑顔を浮かべたまま、一瞬だけ瞼の端を痙攣したように動かしたが、すぐに気を取り直すと、胸を叩いてやたら明るく誇らしげに答えた。


「ああ、それは軍事機密に抵触するので詳しいことは話せませんが、別に国民を蔑ろにしての事ではありません。彼らは首都防衛の要、そうおいそれと前線に繰り出す訳にはいきません。そんな事をしてしまえば、この国の治安を維持することすらできませんからね。まあ、とは言っても、いざとなれば前線で一騎当千の活躍をするであろう頼もしき屈強な兵士達ですからな。万が一という時には、彼らも戦場に出ますよ」


「……ほうですか、それは素晴らしい」


 清盛は、内心の感想を押し殺して、短く端的に答えた。

 是でも、五歳の頃から空手やら剣道やらの武道は学んできた清盛であるが、実際の現実の軍事になど、今まで生きて来て当然の事ながら、触れたことが無い。

 だから正直、この件に関して言えば、例え心の中だけとは言え、バスティアンの言葉に反論する気も、反対する気も無い。

 だがしかし、遠くの激戦地で国民を投入してまでの戦争を行っている王家の人間が、重武装の部隊の防備に固められた都で、悠々とした生活を行っているのを見るのは、あまり気持ちのいいものでは無い。


 そんな清盛の思いが、態度に出たのだろうか。

 ほんの僅かな時間、バスティアンと清盛の間には時間が滞った様な空気が流れ、二人の周囲を取り囲む騎士や執事などの人間がどう反応していいのか判らず、身を縮こまらせている。


「……ああ、そうだ。まずは現状を把握するのが良い。一度、城下町を見てはいただけませんか。そうすれば、我々がいかほどに『勇者』殿の御力を必要としているかをご理解できるはずです。無論、『勇者』殿が拒否なさればそれだけですが、事情を知るには手っ取り早い手段ではないでしょうか?」


 すると、そんな空気を払拭するように、バスティアンが無理に明るい声を出してそう提案すると、ほぼ同時に周囲の臣下たちは動き出し始め、バスティアンの僅かな合図の元で、瞬く間に外出の準備を整えていく。


「……城下を?」


 そんな光景を見ながら清盛は、怪訝な声でその提案を訊き返していた。


 答えは、考えるまでも無く決まっていたが、清盛は敢えて考えるふりをして顎を撫でた。

 それは、バスティアンの考えが見えなかったからだ。

 此処で城下町への視察を提案するということは、自分の話が嘘では無い。と言う事の立派な証左になるし、何より、バスティアンの言葉に不信感を抱く清盛を説得するいい機会である。

 その為、その提案をすること自体は、自然な事であろう。


 だがしかし、あまりにも自然過ぎないか?


 それは単純に、バスティアンが不信感を抱く清盛に対して柔軟な対応を取っている。と言うだけにも見えるが、それにしてはあまりに指揮下にある人間達の手際が良い。よもや、この僅かな期間で、もしくは、この世界に清盛を召喚する以前から、清盛が城下町の様子を見たがるであろうことを、読んでいたのだろうか?

 それは、清盛にはまだ判断しかねることであった。

 何しろ、こちらの世界に来てから、事情を把握するまでまだ僅か二、三時間ほどしか経っていないのだ。

 情報も、それを整理する時間も少なすぎる中で、つい先ほど逢ったばかりの人間を評価すること等できない。

 だが、いずれにしても、目の前の男が一筋縄でいくような男でないことは明白であり、そんな男の提案に対して、一も二も無く乗っかることには、抵抗感と危機感がある。

 だが、


「ええでしょう。儂も丁度、この世界の庶民と言うもんに興味が出たところですけえ。しっかりとこの国の姿を見させてもらいます」


 そもそも、答えなど決まっている。決まっているし、選択肢など無い。

 なら、此処で少しでも多くの情報を、知れるときに知っていた方がいい。

 そう思いながら清盛は立ち上がると、ふと今思いついたかのように自分の首に巻きついた細い金の鎖の様な首輪を指差しながら、何気なく口を開いた。


「ああ、そうそう。此処に来た時から気になっとンったんですが、儂の首にかけられたこの首輪は、一体何なんですかいな。鬱陶しいし、邪魔くさいし、不愉快じゃしで、本当に邪魔なんじゃが、どうにかして取ってくれはしてくれませんかいのう?」


 清盛のこの不意打ちの質問は、流石のバスティアンも予想外だったらしく、一瞬、答えに窮したように口ごもったが、すぐに表情を直すと、にこやかな笑顔を浮かべてその質問に答えて見せた。


「あ……、その、ああ、これは申し訳ない。私は、召喚魔法は不得手な物であなたの首輪がどのようなものであるかは分かりかねますが、私にはその首輪、まるで神の残した痕跡の様な、聖なる気配を感じます。もしかするとそれは、『勇者』殿がこの世界に顕現したことに対する、この世界の神の祝福であるのやも知れませんな」


「ほうですか…………。そう褒められたら悪い気はせんですのう。じゃあ、まあ、その内、専門家を見繕って、適当に話を通しといてつかあさい。やっぱ、自分の首にひもを掛けられ取るゆうのは不便ですけえの」


 そのあからさまな態度を目にしても、清盛はその話題にそれ以上は触れようとせず、適当に話を切り上げると、それからは黙ってバスティアンに従って、城下町への視察の準備に入るのだった。




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