勇者と奴隷 第二話 勇者、勧誘する。その二。
活動報告の方に書きましたが、四月十日からこの作品のタイトルを変更します。
ちなみに、一切の返答が無かったので、タイトルはくじ引きで決定しました。
「銅山開発を行うが、安心せい。銅山開発など、十中八九失敗するわい」
まるであっさりと、当然の様にそう言い切る清盛に、思わず『氷雪の蒼龍』のメンバー六人は口を開けて間抜けな顔を晒した。
「安心できる要素が一つもない事をはっきりと言い切ったわね……。ていうか、意味が分からないわ。いきなり銅山を見つけたとか言い出したら、今度はそれが無いとかいったり、アンタ一体本当に何がしたいのよ?」
余りにも話が飛び過ぎた清盛の言葉に、フレデリカが驚きながら呆れ果てつつ激昂するという器用な真似をして清盛に食って掛かるが、清盛自身は顔に笑みを浮かべたまま両手を出してフレデリカを宥めた。
「まずは、落ち着けい。これから一つずつ説明する。ただ、先に結論として儂はこれから銅山開発をするっちゅー事だけを聞いておいてほしかっただけじゃあ。じゃが、銅山開発の成功自体は目的じゃない」
「……銅山開発はあくまでも建前で、目的は他にあるというのか?」
「うむ。察しがいいのう。その通りじゃ」
ヒルデガルダの鋭い指摘に清盛は大きく頷くと、わざとらしく畏まった様に腕組みをして指摘頷きを繰り返しながら、『氷雪の蒼龍』メンバーを見回した。
「まず第一に、儂はこの国が気に入らん。
街に活気はなく、人々は身を隠すように生活し、目につく街の様子は汚らしい。
その癖、王侯貴族の住む町の周辺では、贅沢三昧。
夜な夜な娼館に通い、酒場で暴れ回った結果、この国の景気の悪さは全て、魔族との戦争であると結論しとる。
それじゃったら、さっさと適当な理由をつけて戦争を止めりゃあいいのに、性懲りもなく大金をつぎ込んでやったことが儂を異世界から引っ張り出すこととか、目も当てられんあほさ加減じゃあ」
その言葉に、『氷雪の蒼龍』はお互いに目を合わせた。
確かに、清盛の言っている言葉には一理ある。
実際、冒険者の中には魔族との戦争で家族を失い、食い扶持を稼ぐために仕方なくこの仕事に身をやつしたものは多く、冒険者の中でも腕の立つ者は、国や大貴族の依頼として戦争に駆り出されるものも少なくはない。
それ故に、清盛の言うこの国の不満点というのは、この場にいる『氷雪の蒼龍』メンバー全員が抱えている事でもある。
だが同時に、それは目の前にいる『勇者』が言うべきことではないだろう。とも思う。
少なくとも、今目の前にいる男はその魔族と戦争を終わらせるために呼び出された身であり、その根本を否定するようなことを畏まった様子で力説しても、「はあ。そうですねえ」としか言いようがない。
「けどよ。その魔族との戦争を終わらせるために、お前が呼び出されたんだろう?そこまでこの国の事を思うんだったら、お前が戦争を終わらせちまえばいいじゃねえか」
そんな思いが知らず知らずに出たのだろう。
アルフレッドは鼻高々に力説する清盛に向かって、やや投げやりに言い返したが、その瞬間、清盛は深く深く、笑った。
その瞬間の笑みに、アルフレッドは思わず恐怖した。
「その通りよ」
そう言って、大きく首を振りながら浮かべた笑みに含まれていたのは、狂気的なまでの、怒り。
静かに凪いだような、それでいて沸騰する氷の様な、煮え滾り、沸き返る様な怒り。
その怒りに凝り固まった笑みだけで、恐怖のあまりにその場にいた全員の動きが止まり、身体が震えて力がうまく入らなくなった。
だが、清盛はそんな笑みをより深く深く浮かべながらも、まるで怒りなどないかのように飄々と話を続ける。
「アルの言う通り、儂は魔族との戦争を終わらせるためにこの世界に呼び出された。
じゃから儂は、儂のやり方で、この国に代わって戦争を終わらせることにする。
まずは、銅山開発の名目で人と金を集め、街をつくる」
そこまで言って、不意に清盛の雰囲気が変わった。
今までのどこかのんべんだらりとした緩んだ空気が無くなり、張り詰めた空気が辺りに満ち満ちて、次の言葉が発さられる。
「そしてその街を拠点として、軍団を作る」
その言葉に、思わず全員が目を見開いた。
王城の中でそれなりに名を馳せた人間が軍事権を持つことは珍しくない。
一応、下級でも貴族でさえあれば軍隊を指揮する権利は与えられており、後は家格に応じて、もしくは所有する資産に応じた数の軍隊が指揮することができる。
その制度を利用して、自分の領土や家の中に私兵を養う貴族や大富豪はこの世界では決死珍しい事ではない。
だが、清盛の言うこれは、そう言う話ではない。
国に知られる事なく、自分の意のままに操る軍隊を組織しようとしているのだ。
それが意味するところは、一つしかない。しかし、『氷雪の蒼龍』のメンバーがその言葉の意味を理解する前に、あまりにもあっさりとその真の目的を話す。
「儂の手で作った軍団を率いて王城を攻め落とし、現国王には退位願う。
そして、空になった王座には、儂の手の者をつける。
王座に就ける奴はまだガキじゃけえ、当面の間は儂か、儂が見込んだ学者か何かにそいつの後見を頼むことになる。
とは言え、儂には政治の心得など無いので、恐らくは学者先生を見つけることになるじゃろうな」
余りにも無防備に、寧ろ当然のことを話すかのようにあっさりとそう言う清盛であったが、そこに含まれている計画は、当然の如くに一介の冒険者では聞き流すことのできない内容である。
思わずアルフレッドは、清盛は食って掛かろうとしながらも、それをうまく言葉にできずにどもってしまう。
「待てよ!お前の言ってるそれは!それは!」
王を代える。
それはつまりは――――――
だが、そんなアルフレッドの言葉と思考を遮るように清盛は言う。
「新しい国を見たくは無いか?」
その言葉と同時に、再び清盛の放つ空気が変わった。
今まで見たのんべんだらりとした空気でも、怒りを浮かべた笑みとも違う。
だが何か、魂の奥を震わせるようなその清盛の態度は、強いて言うならば、熱を帯びていた。
「王がいて、貴族がいて、その下に庶民がいる。更にその下には奴隷があり、上にいる者が下に墜ちることはあっても、その逆は無い。下から這い上がる事は出来ず、そして、一番上の王が落ちることは決してない」
言い聞かせる様に、ゆっくりとした口調から放たれるその言葉は、嫌にしっかりとした重みを持ってこの場に居る冒険者達の胸の中に沁み入って来る。
「おどれらにとっては、それは当たり前の世界じゃろう。じゃあ、当たり前じゃ無い世界を見たく無いか?」
「当たり前じゃ、ない世界?」
ひりつく喉を無理矢理に動かして、かすれた声を出したのはフレデリカだ。
それはまるで、清盛の描く計画に、或いは今から語ろうとする理想に、既に惹かれているような態度であった。
だがそれは、フレデリカだけではない。
ヒルデガルドも、カティアも、アリアも、ニコラスも、そしてこのパーティーのリーダーであるアルフレッド自身も、清盛の語る
「儂は、この国の常識をひっくり返そうと思っとる!この国を支配する常識を!誰もが当たり前じゃと思うとる条理を、破壊する!
銅山開発を名目に得た金を元手に、儂はこの国中から有志をかき集める!傭兵、冒険者、魔術師、学者、王家に不満を持つ者を集め、この国の政権を崩壊させる!!!つまり、儂の目的は!!」
清盛はその時、今までになく、深く、笑った。
その笑みはどこか陰のある凄みと、抗いがたい魅力を持って六人の目には映った。
「この国に、この世界に、革命を起こす事じゃ!!!」
その瞬間、全員が全員、清盛の言葉に喉を鳴らした。
「ふふふ。自分で言うてて、鳥肌が立つのう。これから先の歴史を、儂が作り上げるんじゃ。
一つの国を丸ごと滅ぼして、新たな国を作る!魔王を倒すよりもはるかに面白いわい。とはいえ、これはあくまでも絵に描いた餅じゃ。
必要な物を数え上げれば、両手の数じゃあ足らん。まずはカネ。次にコネ。それに、儂自身の実力も足らん。
あるのは、『勇者』としての名前だけ、それもあんまり使えない。と、無いない尽くしじゃ。
じゃが、カネを稼ぐ事に関しては、儂には一日の長がある。カネさえ掴めば、早々出来んことでは無い」
楽しそうに語る清盛に、『氷雪の蒼龍』のメンバーは茫然として清盛の言葉を聞くことしかできなかった。
言っていることは到底、叶いそうにない絵空事の筈である。
だが何よりも、その言葉に聞き寄せられてしまう。引き込まれてしまう。
「おどれらは仮にも冒険者じゃろう?
冒険者っつーもんは、作るもんよ。歴史をな。
冒険者っつーもんは、壊すもんよ。常識をな。
冒険が面白いのは、挑戦するからよ。不可能に、そして世界に。
フフフ。前人未到!前代未聞!空前絶後の偉業を成す!それこそが本当の冒険者じゃろう!
どうじゃ、儂と一緒に、その全てを達成する気は無いか?
本物の冒険をする気は無いか!ここにそう言う気骨のある冒険者は居ないんか?どうじゃ?」
そしてこの瞬間。
「儂と一緒に、国盗りをせんか?」
――――――――――――――――――この瞬間、トリア大陸に史上最強にして最悪の魔王が誕生した。




