勇者、そして魔王 第四話 勇者、少しだけ魔王になる。完結編。
勇者、少しだけ魔王になる。の完結編です。
少しだけってわりには、この回だけでほぼ魔王になってる感はある。
清盛は、遠くから尚も清盛に狙いをつけるカティアたち後衛三人を睨みつけると、そのまま勢いよく三人に向けて突っ込んで行った。
その視線の先には、尚も清盛に向けて矢を番えているカティアの姿があり、咄嗟の行動に出た際に清盛の意図に気付いたニコラスは、絶叫してカティアに指示をだしたが、それは既に遅かった。
「……何を!しまった!逃げろカティア!」
呪文の詠唱に時間を取られ無防備になることの多い魔術師は、後衛の中でも特に相手の攻撃に対して敏感であり、距離を詰めてくる相手には極端に逃げ回ることが多い。
しかし、後衛であっても、あくまでも戦士である射手は、距離を詰めてくる敵に対しても回避では無く攻撃を選ぶことが多い。
今までの攻防の中でアリアにも染みついていたその性質を見て取った清盛は、六人の中で最初にアリアを足すことに決めて、いかにも無防備になったアリアに向けてそのまま突撃した。
実際、清盛の突撃に合わせて魔術師二人は回避のために大きく距離を取ったが、アリアは清盛に向けて迎撃の為に矢を連射しており、清盛はアリアの射撃を受けながら薬師如来の真言を唱えて傷を治すと、そのまま食らいつくカティアの腕を捻り上げて武器を取り落とすと同時にアリアの腕に毒針を差し、その動きを止めた。
「…………っ!!」
『アリア』
「幼女みたいにちっこい女の子を毒針で刺して動けなくするとか、犯罪臭半端ないが、このままここで動けなくってもらうぞ?」
先ほどまでの善戦が嘘の様にあっけなく倒されたアリアに、残りのメンバーは驚愕の絶叫を上げると同時に、清盛の手からアリアを助け出そうと今度はカティアとヒルデガルダが勢いよく突っ込んだ。
「カティア!!いつものスタイルで行く!突っ込め!」
「……わかりました!!」
カティアとヒルデガルダは、清盛に突撃しながらも短いやり取りを交わすと、ヒルデガルダは先ほどとは違って、清盛の死角を取るように動きつつ少しでも隙のある場所から攻撃を仕掛け出した。
すると、そのままカティアはヒルデガルダを巻き込むような形で清盛の正面に勢いよく突撃すると、そのまま二人に向けてハンマーを振り下ろした。
味方ごと巻き込むような、一歩間違えれば自滅と紙一重の猛攻を目の前にして、それでも尚清盛は小さく唇の端を歪めると、
「くわばら、くわばら」
と、清盛は今までに唱えていた雷の呪文を唱えて、カティアとヒルデガルダの二人を巻き込んで巨大な雷を自分に落とした。
「がッ……!」「……ッ」
「自爆……ッ!!」
今までに喰らったことのない電撃が直撃した二人は、清盛の思わぬ行動に目を剥きながらその場に倒れ込み、フレデリカが思わず清盛の行動を口に出して驚愕したが、
「自爆ではない」
そんなフレデリカの言葉を当の本人が否定する。
「先に薬師如来さまの真言を唱えて、怪我を直しながら雷に打たれた。そっちの美人なねえちゃんとちっこいねえちゃんが、勝手に雷に突っ込んだだけじゃ」
雷撃の影響で立ち込めた土埃の中から、悠然と進み出た清盛は、至近距離で雷に打たれて倒れ伏す二人を軽く顎でしゃくって示した。
「多少手荒な手を使って悪いのう。ちっこいほうのねえちゃんと力比べするのは、もう勘弁じゃけえ。此処から先は二人とも寝ていてもらうわい」
清盛は顎の下を掻きながら、しみじみとした口調でそう言いながら残った三人の元に一歩足を踏み出した瞬間。
「二人とも、逃げてください!!」
「「二コラ」」
三人の中から白魔術師のニコラスが飛び出て来たかと思うと、二人が制止する間も無く清盛に抱き着き、それと同時に、周囲の空気が静電気を含んで帯電し出し、清盛とニコラスの二人を囲んで電光とは放電音を出し始めた。
清盛はその空気にニコラスのやろうとしていることを察知し、小さく頷いた。
「……ふむ。この感じ、儂と同じくお前ごと儂に雷を落す気か」
「貴方にできた事なら、僕にもできる筈だ!!僕だって冒険者の端くれだ!目の前で仲間をやられて黙っていられるわけないだろうが!!」
「……ふむ。良かろう。受けて立つ」
清盛は必至の形相で仲間の仇を討とうとするニコラスの言葉にそう返事をすると同時に、ニコラスと清盛の二人を巻き込んで電光が炸裂した。
「「二コラあああああ!!」」
落雷と同時に残された『氷雪の蒼龍』のメンバーであるフレデリカとアルフレッドは、自爆する仲間の名前を絶叫すると、やがて放電の治まった地面には土埃が立ち込め、その埃の中で一人の人影が地面に頽れ、一人の人影だけが残った。
やがて、その土埃の中から残った人影の男が進み出た。
「さて、と。決着をつけるとするかのう」
そう言って進み出たのは、『氷雪の蒼龍』にとって最悪の人影だった。
「火玉!」
その姿を見た瞬間、今までアルフレッドたち前衛の前に出てこなかったフレデリカが、アルフレッドを押しのける様にて前に出ると、今までで最短の詠唱を行いながら清盛に炎の玉を打ち出し始めた。
だがその炎は今までとは比べ物にならない弱い攻撃であり、万策尽きたフレデリカが少しでも清盛を牽制しつつ、残った二人だけでも、せめても最後に残った仲間だけでも逃がそうとしているのは明白であった。
やがて、連続して大声を出した所為か、それとも単純に今までの戦いで喉を酷使し過ぎたのか、次第に声がかすれ枯れていく同時に其の僅かな抵抗ですらも止み始め、フレデリカはその場に崩れ落ちながらその蚊を俯かせた。。
そんな健気な様子を見せたフレデリカに対して、清盛はただ鬱陶しそうに片眉を上げただけであった。
もう既に、誰の目にも結着は明らかであった。
だが、その時。
「ほう?まだ続けるか?」
感心とも呆れともつかない声で、清盛はフレデリカの前に立つ人影にそう声をかけ、その声に今まで清盛に向かって攻撃を加え続けていたフレデリカも思わずその顔を上げて、驚愕する。
「アル……、何してんのよ……。アンタ」
「…………大丈夫だ、フレデリカ。それよりも、」
アルフレッドは、絶望的な力の差に流石に心が折れて下を向くフレデリカに跪いてその耳元に顔を寄せると、パーティーのリーダーとして、或いは仲間として彼女に最後の指示を出す。
「俺が最後まで奴の気を引きつけるから、お前は逃げろ。その後は皆を頼む。運が良ければ、奴隷に売りに出されるはずだから、何が何でもあいつらを買い取って助け出せ……。それと、悪かったな。厄介なことに巻き込んで」
「……ア、ル……何、を……」
フレデリカの言葉を最後まで聞くことなく、アルフレッドは清盛の前に進み出ると、大きく息を吸った末に、抜身の剣を清盛につけつけながら今日一番の大声を出して話しかける。
「おい、勇者ああ!俺と決闘しろ!ここでお前と俺とで決着をつけてやる!さあ!!かかって来いよお!!」
「それは別に構わんが。お前、本気で儂に勝てると思うとるんか?その調子じゃと、大分お前に不利じゃろう?」
「勝てるに決まってんだろ……!『白金』級冒険者を舐めんじゃねえぞ……!」
「ほうか……。なら、受けて立とう。と、その前に」
アルフレッドの大声に、ややうるさそうに眉根を寄せながらも決闘の宣言を受けて立った清盛は、アルフレッドの前に立ちふさがると同時に、アルの言葉に従ってこの場を逃げ出そうとしていたフレデリカの背に向けて、人差指と中指を立てたいわゆる『刀印』を向けた。
「急々如律令」
その途端、地面から柱状に土が盛り上がり、そのまま逃げだしていたフレデリカのみならず、地面に倒れていた『氷雪の蒼龍』のメンバーたちを飲み込むようにして巨大な土の檻が二個出来上がり、アルフレッド以外のメンバーはたちまちのうちに囚われの身となった。
「テメエ!!何しやがる!!どういうつもりだ!」
「儂は別に、見え見えの時間稼ぎに付き合ってやるようなお人好しではないケエの。先に仲間の方は捕まえさせてもらう。そもそも、儂は決闘を受けると言っても、仲間を見逃すなどは一言も言っておらんわい。
何、別に何の問題も無かろう?お前が勝てば、仲間は解放する。儂が勝てば、儂の言う事を聞いてもらう。単純で、分かりやすい話じゃあ」
清盛の行動に、アルフレッドは眉間を険しく寄せて清盛に詰め寄るが、何の悪気も無くいけしゃあしゃあと述べる清盛の言葉に自分がはめられたことに気付き、思わず握りしめていた剣の柄を更に強く握りしめると、そんなアルフレッドの背後からフレデリカの声がかけられた。
「アル!ゴメン……!!ゴメン!逃げて!もう、アンタしか残ってない!お願い逃げて!アンタまでやられたら、『氷雪の蒼龍』が終っちゃう!お願いだから、逃げて!」
涙混じりのその声は、何処までも仲間への思いだけが込められており、だからこそ、それはアルフレッドの決意を固めるには十分な言葉だった。
「……上等だ!勇者さんよ!今此処で、テメエを越えてやるよ!」
アルフレッドの、その言葉が合図だった。
アルフレッドの言葉と共に清盛は貫手で空手の構えを取り、そんな清盛を相手にしてアルフレッドは抜身の真剣を遠慮容赦なく叩きつけていく。
だが、アルフレッドの繰り出した剣技は、その悉くが清盛の繰り出した手刀によって弾かれ、やがて、アルフレッドの剣は弾き飛ばされ、その喉元に清盛の手刀が突き出された。
そうして、アルフレッドの喉元に手刀を突きつけた清盛は、ニヤリと悪人じみた笑顔を浮かべると、
「さて、改めて自己紹介をしようか。儂の名前は織田清盛。一応は、勇者という事になっておる、実力はご覧の通りじゃ」
そう言った。
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こうして、白金クラスの冒険者であるはずの冒険者パーティー『氷雪の蒼龍』は、織田・清盛という僅か一人の勇者の手によって完全に制圧された。
その時間はわずか数分ほどの出来事だった。
その武勇は、勇猛というよりも暴虐に近く、
その堂々とした姿は、泰然というよりも傲然として見え、
その姿は、勇者というにあまりにも尊大で、
——————————まるで魔王の様に見えた。




