仏像と勇者 第四話 勇者、企む。その一。
2017年最後の投稿。間に合って、良かった。
結局、その日は街中の冒険者ギルドを渡り歩いても、似たり寄ったりな返事をもらった清盛は、前日にマスターに指定されていた時間になって、再び例のマスターのいる冒険者ギルドに顔を出したが、そこで貰った答えは、矢張り前日と同じものでしかなかった。
「……はあ。何というか、やっぱりお天道様は見ておられんじゃのう。どうしても、此処では仕事が見つからん。まったく、一体どうしたらいいもんかのう?」
「もう俺からは、コツコツ働いてまじめに仕事するか、ギャンブルで大勝ちしてもらうかの二択しか用意できねえよ。申し訳ねえが、これ以上は力になれねえ」
結局は、昨日の事情を再確認しただけの清盛とマスターは、どうした物かとカウンター越しに揃って頭を捻り出した。
その時だった。
「やっほ。マスター、あの依頼だけどさ。やっぱ、アタシらはいいや。一抜けさせてもらうわ。ゴメンね」
そう言って、清盛のいるカウンターに近づいて来たのは、ガストンたち元『黄金』クラスの冒険者パーティである『黄金の雨』の参謀であり、斥候として有名な女傑であるマチルダであった。
「おお。マチルダか、どうした?あのはねっ返りどもの手綱を取ってやるって、息まいてたじゃねえか。こんな簡単に白旗を上げるなんて珍しいな。そんなにアイツらの世話をするのは手間だったか?」
「うん。アタシも何とか話を纏めようと本気で頑張ったんだけどねー。流石にちょっと無理があったわ。やっぱり、『白金』に王手をかけた奴は扱いも難しいわね」
マチルダは苦笑しながら右手に持っていた依頼書をカウンターに置きながら、マスターに甘めの果実酒を頼んだ。
そんなマチルダを見て軽く肩を竦めながら、マスターは頼まれた酒をマチルダの前に置く。
「だから最初に言ったろう?あいつらを手玉に取ろうとしたら、お手玉に遊ばれる羽目になるってよ。ま、仕事する前に気が付いただけでも一流よ。最近二つ名持ちになったことで、少し天狗になったか?」
「あはは。返す言葉が無いわ。どうしようも無いけど、あの依頼は私ら以外の人間に当たって頂戴」
軽い世間話をする二人を眺めながらジョッキの縁をなぞる清盛は、そこでふと、マチルダが持ち込んだ話を盗み聞きしながら、マチルダがカウンターに置いた依頼書を覗き込んだ。
「何じゃい?アンタ等のとこは割と人望のある所だとは思うとったが、案外うまくいかんもんじゃのう」
清盛は、失礼とは思いつつも二人の話を聞きながらマチルダに軽口を叩くと、まるでマチルダはその時初めて清盛に気付いたような態度を取って、清盛に挨拶する。
「あら、久しぶりキヨモリさん。まあ、返す言葉が無いわね。それも全部私の所為だから言い訳の使用も無いわ」
「まあ、人間上手くいかないことの方が多いもんですけえ。次は頑張ってくださいや。それより、興味本位なんじゃが、アンタが受けなかった上級依頼の内容を聞いてもいいですかいのう?」
清盛は話の流れで何となくマチルダに聞きつつも、頭の中で冒険者としての依頼を受ける算段を考えつつ尋ねると、マチルダはあっさりとその質問に答えた。
「ああ、私たちが受けた。って、受けようとしたのは蛇頭蜥蜴の討伐。かなり厄介な上級依頼なんだけど、そもそも蛇頭蜥蜴って魔獣自体知ってるかしら?」
「亜竜の一種じゃろう?確か、尻尾が毒蛇になっとる巨大な炎竜で、キメラの特性とドラゴンの特性を併せ持った厄介な奴じゃったかのう?尻尾の毒蛇は毒の牙以外にも邪眼を持っとって、見られただけで石化の呪いをかけられるかなり強力な魔物で、本体であるドラゴンの方もブレスを吐き、空こそは飛べんが、凄まじい速さで走ることができる身体能力を持ってるらしいのう」
「あら~詳しいわね!この魔獣はあんまり人里には出ないからそこまで有名じゃないんだけど?」
「まぁ、儂はこう見えても勇者ですけぇの。その程度の事でしたら知っとりますわいのう」
清盛はわざとらしく感心した声を上げるマチルダに対して、調子に乗った態度を取ってカラカラと笑った。
すると、その言葉を聞いたマチルダの瞳が、一瞬だけ鋭く輝いた様に清盛のその姿を捕らえ、さりげなく上級依頼の依頼書を清盛の前に置いた。
「それだったら、アンタが受けてみたらいいんじゃない?その依頼。今、ちょうど『白金』クラスの実力派パーティーの手が空いているから、アンタが誘えば一緒に受けてくれるかもしれないわよ?」
「おい、マチルダ!いきなり何を言ってやがる!」
マチルダのそのちょっとした提案に、マスターは思わず大声で横やりを入れようとするが、そんなマスターを軽く手で制して、どことなく獲物を見つけた猫の様な笑みでマスターに話しかける。
「マスターの言いたいことは理解できるわよ。でもさ、キヨモリさんはこのギルドに顔を出している以上、マスターとしてもそれなりに依頼を受けてくれなきゃ困るわけじゃない?」
マチルダのその言葉に、マスターは痛いところを突かれた様な表情で顔をしかめた。
マチルダの言う通り、冒険者ギルドのマスターは依頼を受けてくれることで利益が発生する以上、兎に角冒険者に依頼を受けてくれることが一番である。
依頼の仲介によって利益を得ているとは言う物の、実際にマスターの懐に入る金額は決して多くは無い。
店員などの人件費、依頼遂行のための密な情報収集、討伐した素材の鑑定、その他諸々にかかる費用は決して小さくはない。
そういう意味では、実力がありながら決して依頼を引き受けない冒険者。というのは、マスターにとっては、本来手の届かない場所の虫刺されの様に苛立たしい物であり、このまま時間が解決するのを待つ。というのは、良い策では無かった。
「だったらいっそのこと、上級パーティーと一緒に上級依頼をこなして箔をつけて置いてもらえば、その後も普通に依頼をこなせるようになるし、キヨモリさんも上級者扱いを受けることになるわけだから、皆の対応も変わるはずでしょ?ほら、良い事しかないじゃない」
「……だが、ギルドの規定では下級冒険者は上級冒険者と組んでも、」
「でも、キヨモリさんの実力は上級者でしょ?」
立て板に水の様につらつらとマチルダは理屈は並べるが、マスターとしては素直に首を縦に振ることのできる内容では無かった。
上級依頼の性質から、下手な前例を残せばその前例を盾にとってろくでもないことを仕掛ける人間がいるかもしれないし、何より、上級依頼を受けることを認めれば、碌に働かず酒場で暴れる事しかしていない清盛を上級と認めることになる。
その時の冒険者が反発するであろうことは、火を見るよりも明らかだった。
だが、それよりも。
清盛。という、未知数の力を持つ男が野放しになった時何をするのか。
その一事こそが、マスターの心中を何よりも縛る鎖だった。
しかし、そんなマスターの思いなどを他所に、清盛はあっさりとマチルダの案に賛成する。
「成程。そりゃあ、良い作戦ですわい。儂もそろそろ働きたかったところですけえ。渡りに船じゃわい」
やたらと嘘くさい笑みを浮かべて頷いた清盛は、眼だけが鋭い光を放つ笑みを浮かべるマチルダを見据えながら、その手を取ったのだった。
その二人の様子を見て、マチルダに嵌められたことに気付いたマスターだったが、最早、力なく天井を見上げながら神に祈ることしかできなかった。
―――――☆☆☆―――――
(さて、ここまでは計画通りね)
清盛が差し出した手を握りながら、マチルダは心中で独り言ちる。
顔にはにこやかな笑みを浮かべたまま、清盛を品定めするような視線だけは隠さずに、清盛の一挙手一投足を脳裏に焼き付ける。
入店した直後の清盛のその姿を見た時、マチルダは自分の直観が正しいことを悟った。
まさか真っ昼間からその姿を見かけることになるとは思わず、その姿を見かけた時には思わず二度見するほどに驚いたが、それはけっして思いもよらぬ時間帯に清盛の姿を見かけたからでは無かった。
その立ち振る舞いが洗練された戦士のそれだったからだ。
服装こそ、最初に見た時とはだいぶ違うが、そんなものでは誤魔化しきれない程に、清盛の姿には目を見張らされた。
夜遊びに繰り出す割には鍛えられているとは思っていたが、白昼の中で改めてみるその動きには隙が無く、立ち姿に至るまでが無駄の無い動きをした鍛え上げられたものであった。
情報収集の結果、キヨモリと名乗るあの男が、王都でも悪名高いボンクラ『勇者』らしいという事まではマチルダは掴んでいたが、今見ている男が、とても情報の中にあった女遊びにしか能の無い遊び人であるとは到底思えなかった。
(どうやら、安全策を取って正解だった様ね。一先ずは様子見と行かせてもらうわよ)
マチルダは心中で呟くと、目の前に居る男を前にして冷や汗をかくのだけは必至に抑えながら、上級冒険者パーティーの元へ清盛を案内しながら彼らの説明を始めた。
「私たちが組もうとしていた冒険者パーティーって言うのは、『氷雪の蒼龍』って冒険者パーティーよ。確か、冒険者を初めてまだ三年目くらいの年の若い冒険者ばかりなんだけど、それだけの期間で既に『白金』クラスに手をかけた、控えめに言って天才たちね。ただ、夫々性格に難があって扱い辛いメンツばかりなのよね」
マチルダはそう前置きをすると、『氷雪の蒼龍』についての説明を始めた。
『氷雪の蒼龍』とは、フルール王国の東部で結成された六人組の冒険者パーティであり、結成当時からかなりの戦果を挙げたが、それと共に問題行動も多く、共同作戦を取った冒険者パーティを壊滅させただの、護衛依頼を受けた依頼主の馬車を襲撃しただの、途中で受けた依頼を放棄しただの、その数は計り知れないという。
その問題行動の理由は、パーティメンバーの我の強さにある。
パーティーリーダーのアルフレッドは、百人斬りの異名を持つほどの剣士であり、その腕は確かながらも、気分屋なその気質から凶暴な魔獣を呼び寄せる。盗賊団を挑発して激怒させる。などの問題行動が多く、被害を拡大させることから、トラブルメーカーとしても有名だ。
サブリーダーの白魔導士のニコラスは、信仰による祝祷と魔術による治癒の両方に優れた回復職であるが、その穏やかでいかにも白魔導士そのもののようなかわいらしい顔付きとは裏腹に、金銭面にあくどく、契約の穴をついて必要以上の報酬をむしり取ることが多いことから、寧ろ、銭ゲバとして有名である。
魔導士のフレデリカは、攻撃魔法に特化した遠距離支援が得意な魔術師であり、優秀な作戦参謀であるが、勝気で我が強く、他のパーティーとは方針の違いや作戦の方向性からベテランの冒険者とぶつかることが多く、それが原因で良くパーティー間の連携が取れないことがあり、パーティーリーダーのアルフレッドと並ぶトラブルメーカーだ。
武闘家のヒルデガルドは、主に手数と俊敏さで勝負する蹴り主体の体術を使い、魔物のみならず、盗賊や魔族などの対人戦闘にも長けているが、単純に男嫌いが過ぎる。
男嫌いの女冒険者の例というのは枚挙にいとまがないが、それにしてもヒルデガルドの場合は極端であり、視線がいやらしいというだけで半殺しにするのは、流石に行き過ぎている。
重戦士のカティアは、小柄な体にフードを目深に被った魔術然とした出で立ちをしており、使う武器も魔術師の杖によく似た戦闘槌だ。
その素顔を見た者はおらず、本人も極端に寡黙な為に周囲によく魔術師であると誤解されるが、魔術師と勘違いした他の冒険者にしょっちゅう喧嘩を売られては相手を半殺しにしてしまい、それが原因でこのパーティーに恨みを持つ者が絶えない。
本人には悪意が無い分、ある意味でこのパーティーでは一番質の悪い人間であるとも言える。
射手にして従魔師のアリアは、その中でも特に厄介だ。
そもそもが極端な人嫌いで、パーティー・メンバーが居ようが居まいが、御構い無しにしょっちゅう問題を起こしており、東に横柄な商人が居ると聞けば弓矢で射って半殺しにし、西に傲慢な貴族が居ると聞けば従魔をけしかけて恥をかかせる。と言った具合で、問題児ばかりが集まるこのパーティーの中でも、特に問題児だ。
その上、アルフレッド以外の人間の言う事を聞かないから、一度暴走すればパーティーメンバーでさえも手が付けられない、恐らくは『氷雪の蒼龍』はおろかフルール王国でも屈指の問題児だろう。
六人が六人とも、実力と実績を兼ね備えた冒険者ではあるが、全員一癖も二癖もある見事なまでのはねっ返りである。
今回、マチルダ達『黄金の雨』は彼ら『氷雪の蒼龍』と連携をして上級依頼の蛇頭蜥蜴の討伐に挑むつもりであったのだが、その際に作戦の言い争いになったのだという。
連絡を密にし、合同で蛇頭蜥蜴に挑もうとする『黄金の雨』に対して、『氷雪の蒼龍』は別行動による挟み撃ちを提案し、頑として譲らなかったのだという。
「何ちゅーか、子供の喧嘩みたいな話ですのう」
「ははは。返す言葉もないわ。本当に、子供の喧嘩の様な言い争いでしかなかったのだけどね。結局お互いに落としどころを見つけられなかったから、私たちは『氷雪の蒼龍』との共闘を断念することにしたのよ」
清盛の容赦ない感想にマチルダは軽く笑いながら答えると、店の奥まった一角を前にして足を止めた。
「紹介するわ。彼らが『氷雪の蒼龍』よ。実力だけは折り紙付きの問題児集団」
そう言って、清盛に差し示した場所には、清盛と同世代に見える六人の若者が険の有る眼つき清盛を睨みつけていた。
ーーーー☆ーーーー
「マチルダさん。俺たち、一応さっきの話は断ったはずだけど?まだ何か用があるのかい?」
深く安心感を感じさせる声でそう言ったのは、六人の中でも中心にいた男で、短く切りそろえた赤い髪が特徴的な怜悧な容貌を持つ男だった。
座っているからわかりづらいが、恐らくは清盛よりも頭一つ分ほどは高いであろうその背丈は、鍛え上げられた引き締まった体をしていた。
「ああ、ごめんなさい。ちょっと知り合いに偶然会ったから、アンタたちを紹介しようかと思って。何なら、この人と一緒に上級依頼を受けたらいいわ。こっちは、ガストンに真正面から殴り勝った筋金入りのヤバい奴。「酒場荒し」のキヨモリよ?キヨモリ、こいつは『氷雪の蒼龍』のリーダー、『狂剣』のアルフレッドよ」
「『酒場荒し』?へー。本当にガストンさんは負けたんだ。酒場の与太話だと思っていた。……残念だな。本当に耄碌したんだね」
まるで息を吐くように平然と毒づくアルフレッドの言葉に、流石にマチルダも今まで浮かべていた笑みを消して、「どういう意味かしら」と凄む。
「怒んないでくださいよ、マチルダさん。そもそも、腕っぷしが自慢の冒険者が喧嘩で負けるなんて、あってはならないし、負ける喧嘩に応じる奴はそもそも冒険者に向いていない。だから、喧嘩に負ける奴は冒険者として失格だ。こんな物はこの業界で生きれば自然と身につく常識でしょ?」
「……そうね。言い返す言葉もないわ。取りあえず、もしも本当に上級依頼を受けるんだったら、この人と一緒に受けると良いわ。戦力としては一流だってことは、保証するから」
アルフレッドの言葉に対して、マチルダは一瞬何か言いたげの顔をしながらも、その言葉をそのまま飲み込むと、すぐにそばに立つ清盛の事をアルフレッドに紹介した。
しかし、マチルダに話を振られた清盛は、紹介されたアルフレッドを見るなり、机の端を軽く叩くと、机の上を指でなぞりながら気の無い返事をする。
「ほうですのう。じゃけど、ワシはもう独り身とは言えんからのう。あんまり、危ない事をして稼ぎたくは無いんですのう。できれば、楽して危なく無く、大金を稼げるような仕事をしたいんじゃが」
「独り身じゃない?結婚したの?そんな話聞いていないけど?」
唐突に出て来た清盛の個人情報に、マチルダは思わず素で驚きの声を上げるが、そんなマチルダに清盛は鼻の下を伸ばした表情をして頭を掻いた。
「おお、最近女の奴隷を三人と何人かガキを引き取る事になりましてのう。そいつらを養う為にも金が必要なんじゃあ。特に三人の女がええ女でしてのう。乳はモチモチで、肌はスベスベ。脚を撫でたり尻を揉んだらええ声をあげるんじゃあ。やっぱり、女ツーのはええもんですのう。命の洗濯じゃあ」
エロバカそのままの面を下げながら大笑いする清盛の姿からは、先ほど見た歴戦の風格は欠片も存在せず、初めに感じた雰囲気とのその余りのギャップの大きさに、引くことしかできない。
そんな清盛を見たアルフレッドは、ふと清盛の机の上に乗せた指の動きに気付いて、暫くそれを不審そうな顔つきで観察していたが、やがて何かに気付いた様に眉根を寄せた。
ややあって清盛の動きの意味を理解したらしいアルフレッドは、隣に座る魔導師の青年に軽く耳打ちをすると、清盛の曖昧な言葉に困惑を募らせるマチルダの前に出て、いきなり清盛のその頬を殴りつけた。
「グダグダ言い腐る様な女々しい奴と態々組む気なんかねぇよ。悪いがマチルダさん。こいつと組む気はねえ。ついでに根性を叩き直しておく」
アルフレッドは、まるで挑発する様に空中で指先を動かし清盛の前に立ちはだかったが、そのアルフレッドの対応を見て、清盛は一瞬だけ笑みを浮かべると、すぐにわざとらしく隙を作ったアルフレッドの懐に一枚の紙を入れながら、胸倉を掴み捻り上げた。
「おう、何じゃやるんか?言うておくが、儂じゃって、伊達に『酒場荒し』と言われたわけではないぞ?やるからには、それなりに覚悟をしんさいや?」
「だからさっきから、やるならやれって、そう言ってるだろう?それとも、この期に及んで拳を引っ込める様なハッタリだけの男かよ?」
その瞬間、清盛はアルフレッドの頬桁を殴りつけ、そのまま二人は店の中での大乱闘を演じることになった。
それから数十分後、強烈な右アッパーを喰らって床に倒れた清盛を見下ろして、アルフレッドは得意げな声で清盛を罵倒した。
「それじゃあな、腑抜け野郎。じゃあ、マチルダさん。俺たちはこの『蛇頭蜥蜴』の討伐依頼っつーのを勝手に受けさせてもらうから、文句があるなら現場で聞くぜ。まあ、お前みたいな腑抜けが、『野晒の森』の奥にまで来られればの話だけどな」
そう吐き捨てて店の外に出るアルフレッドの対応に、マチルダは一瞬怪訝な顔をしたが、すぐにその言葉の意味を察して、怒鳴り声を上げながらアルフレッドたち『氷雪の蒼龍』の後を追いかけて行った。
そんなマチルダ達の様子を床の上から見送った清盛は、弱音を吐き出しながら床の上から起き上がると、怪我を押さえるふりをしながら口元を隠して、薄く笑みを浮かべた。
最初にアルフレッドに会った時、清盛は机の端を叩いてその上に一文字ずつ文字を書いていた。
清盛のヤル気の無い態度や、言動に目を奪われずに清盛の意思をくみ取り、なおかつすぐに反応を返したアルフレッドの目敏さと機転に、清盛は関心の声を心の中で溢す。
(……ふむ。見所のある連中は、どこの世界にもおるもんじゃのう)
キヨモリは、わざわざ自分のために苦労してくれたマスターにお礼と店で暴れた詫びを入れて、店の外に出ると、自分の真意を汲み取って、敢えて乱闘騒ぎを起こしてくれたアルフレッドの姿や、いかにも自然な態度を取りながらも、厄介な冒険者を押し付けて来たマチルダの舌を巻くような話術と詐術を頭に刻み込みながら、浮かべた笑みを静かに消すと、次の一手を打つベく清盛は静かに歩を進める。
「……さて、と。ほいじゃあ、次は商人ギルドの方に向かうとするかのう」




