勇者の姉は……
俺は、救世の勇者。
この世界では人と魔物が争っていて、魔物を率いる魔王に対抗するのが勇者とされている。
勇者となれる素質のある若者に、神が試練を与え、それを乗り越える事が出来たものが聖なる武器が与えられ、勇者と認められる。
勇者は今、三人居る。聖剣の勇者、聖槍の勇者、聖弓の勇者。
俺は聖剣の勇者だ。
勇者はそれぞれ、実力者とパーティーを組み、魔王を倒す為に行動する。
俺のパーティーメンバーは、俺の国の王女で剣の使い手リディア、教会で聖女と名高い神聖魔法の使い手フィーネ、孤児院出身ながら独学で魔法学校に入学を果たし主席卒業を果たした魔法の天才メル、狼の獣人の族長の娘で槍の使い手ニアの四人だ。
知り合いからは、何そのハーレムパーティー、爆発しろ!だとか言われた。
勇者になってからも試練は続く。それに国や人々からの依頼が加わる。
俺はパーティーメンバーと力を合わせ、それらを成し遂げながら魔王を倒す力を身に着けていった。
そうして、幾つかの試練と依頼をこなした俺達は魔王討伐に向かった。
それは辛く苦しい旅だった。
険しい道々、魔王を守る魔物の大群、そして強大な力を持つ魔王。
それらを全て乗り切った俺に付いた名が……救世の勇者。
だけど俺は救世の勇者と呼ばれるのがあまり好きじゃない。
人の世界を救った功績を全部一人占めにしているみたいだから。
魔王を倒せたのは、いつも力を貸してくれた四人のパーティーメンバー、魔物の大群を抑えてくれた他二つの勇者パーティー、戦いを陰で支えてくれた王様や領主様達、他の魔物から街や村を守ってくれた騎士や自警団の皆、俺達の武具を作ってくれた鍛冶師達に色々補助をしてくれた街や村の皆、殆ど全ての人が表彰されるべきだと思う。
そして、何より俺が魔王を倒せたのは姉の存在が大きい。
これから帰る故郷の我が家で今も待っていてくれていると思う。
村が見えてきた、何も変わりない姿で、魔物にやられてたりしなくてホッとする。
村の皆が村の入り口に集まり、俺と俺に付いて来たパーティーメンバーを迎えてくれる。
そこに姉の姿は無い。これは、わかっていた。
きっと姉は家の中で「おかえり」と言ってくれるだろうと。
逸る気持ちを抑え、村長に挨拶し村の皆と言葉を交わし、そして一段落した所で我が家に向かう。
玄関のドアを開ける時はドキドキした。姉が変わらずそこにいるだろう事は信じていた。
でも、本当に?
病気に掛かっていないだろうか?魔物に怪我を負わされていないだろうか?ちゃんとご飯を食べられていただろうか?
村の皆は何も言って無かったし、姉なら大丈夫だとも信じているし、こんなもの無駄な心配なんだってわかってる。
それでもドキドキする鼓動は抑えられず、緊張した震える手でドアを開けた。
良かった。そこには俺が想像する通りの姉の姿があった。俺が村に居た頃、訓練から帰った時、魔物の討伐から帰った時、魔物の大群から村を守った時も同じ姿で迎えてくれた。
「ただいま」
姉はソファーに寝転び、本を読みつつ、お菓子を頬張りながら、こちらに顔を向ける事なく軽く手を挙げ、「おかえり」と言う。
周りは沢山の本とその他もろもろで散らかり放題だが、姉は微塵も気にしていない。
その姿に俺は懐かしいと思い、俺に続いて家に入った四人が呆然とする。
「ただいま、姉さん」
二度目のただいまを言い、俺は帰ってこれたんだと、強く実感した。
「姉さん、俺と勝負してくれないかな?」
俺は部屋の片付けをし、姉さんはゴロゴロダラダラ。
俺と姉さんは昔に戻ったかの様に普段の姿に戻ったが、四人は身の置き場が無いようで部屋の隅に立ったまま。
少し気まずい雰囲気の中、俺は切り出した。
「勝負?えー、めんどう」
それをあっさり姉は切り捨てた。
村に居た頃、姉は俺より格段に強かった。何故勇者の試練を与えられるのが俺で、姉じゃないのか疑問に思った程だ。
まあよく考えると、姉の性格なら試練を課されても立ち向かおうとせず直ぐに放っぽり出すだろう事に気付き納得したけど。
姉は何でも出来る人で、何にもしない人だ。
魔法最大の威力の極大魔法まで使えるのに、普段使うのは便利な生活魔法だけ。いや普段どころか俺に訓練を付ける時も魔物と戦う時も生活魔法だけだ。
今迄極大魔法を使ったのを見たのは一度だけだ。極大魔法を使えるという姉の言葉を俺が疑い、煽りに煽った所で使ってくれた。
その魔法で一つの山が跡形も無く吹き飛んだ。
もう二度と姉の言葉は疑わないと誓った、後姉には逆らわないとも。
姉は剣の勇者である俺よりも剣の技が巧みだ。魔法無しの剣技だけで戦っても俺は一度も姉に勝った事が無い。
だが、姉は普段剣を持ち歩かない。それどころか昔は剣を持っていなかった。俺が剣の稽古を付けて欲しいとしつこかったので、俺と自分の分の剣を買ったが、その剣も普通の鉄の剣でなまくらと言える剣だ。
俺が今持ってる聖剣とは比べ物にならない。
片付け中にそのなまくらが部屋に放置されているのに気付いた。多分俺が出て行ってから一度も使ってないだろう事がわかる。
姉は物作りにも才能がある。優れた発想と器用な指、改良された生活魔法を駆使して何でも作ってしまう。
姉のその実力に気付いたのは俺が四歳、姉が七歳だった時だ。
突然姉は幾つかの道具をこの村の鍛冶師の所から借りてくると、トイレ、キッチン、ソファー等を改良したり、作り始め、魔道具の効果も付けた。
ただ穴にするだけの汚かったトイレは、水洗暖房付きトイレに。
薪を使い火をつけていたのが、ただ鍋を上に置きスイッチを押すだけで火も無いのに鍋が熱くなる様に。
イスに座るか地べたに座るかだったのが、物凄く柔らかく座り心地の良いソファーに(それからの姉の定位置)
材料は何処かから出してたけどよくわからない。
そういえば、両親は俺が二歳、姉が五歳の時に亡くなっているんだけど、それからは姉が俺の面倒を見てくれた。その時食べ物とかは村の皆から恵んで貰っていたんだと思っていたけど、あの時も何処かから取り出していた様な……。まあ、いいか。
そんな物作りも出来る姉だけど(魔道具作れる人なんて殆ど居ない)家の中をある程度整えたらぱったり物作りをしなくなった。幾つか作って売るだけで大金持ちだったろうに。
そんな姉が最後に一度だけ物作りをしたのが俺が旅立つ時。俺の為に剣を作ってくれた。
その剣のお蔭で俺は試練を乗り越える事が出来たと思う。勇者になってからは聖剣があるけど、実は聖剣よりその剣の方が性能が良い。魔王は聖剣じゃなくその剣で倒してたりする。
この村に帰ってきたのは、そんな姉と戦って今の自分の実力が知りたいというのも一つの理由だ。
村を出る前戦った時はボロボロにやられた。こっちは上級魔法まで使って、姉は生活魔法だけ、こっちは姉に貰った聖剣より強い剣、姉はなまくらで勝負してだ。
あれから幾つもの試練を乗り越え、魔王も倒した俺は強くなっていると思う。そんな俺がどこまで姉の実力に近づけているかが知りたい(勝てるとは少しも思っていない)。
実は魔王を超える強さを持つ邪神が存在するという話があるのだ。まだその存在が確認された訳では無いが、なるべく自分の力を把握して、高めておきたいと思う。
渋る姉に何度も拝み倒し、勝負する事を了承してもらった。姉は俺には意外と甘い、何度も頼めばお願いを聞いてくれる。
負けた。
それもあっさり。
生活魔法となまくらの剣で。
でも俺は満足していた。村を出る時は、本当に誰でも使える生活魔法と、片手で持ったなまくらの剣に負けたのだ。
今回は、姉が改良した生活魔法(魔法は使う魔力量で生活、下級、中級、上級、極大に別れる)を使わせたし、なまくらの剣を両手で使わせしかも少し欠けさせる事が出来た。
その俺と姉の戦いを四人がさっきよりも酷い呆然とした表情で見ている。
うーん、四人には旅の途中に姉の凄さを語ってあげたと思うんだけど、何であんなにびっくりしてるんだろう。
まあいいや。それにしてもやっぱり姉さんは凄い。
姉さんがやる気出せば、あっさり魔王倒してたんだろうなぁ。
もう、神様も試練とか抜きで姉さんを勇者に選んじゃえば良かったのに。
まあ、勇者に選ばれたとしても、姉さんが居心地の良い家を出るかは怪しいけど。
姉さんの事は大好きだけど、やっぱり偶に姉さんって何者!?って疑問が沸く時がある。
魔法で山を消滅したり。
王都にも存在しない様な便利で快適な魔道具を作ったり。
一応最強の勇者である俺に思いっきり手加減して勝ったり。
うーん……?
もしかして、姉さんが邪神とかってオチは無いよね……?
また時間が出来ましたので、暇つぶしにちょこちょこ書きます。
この話の続きか別の話かはわかりません。シェラハを続けるかどうかもわかりません。
基本的に暇つぶしで、そこに適当な性格が加わりますので、過度な期待は止した方が良いかと思います。




